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SS 怪談ー中止の夏祭り【夏祭り&難易度&世論調査】三題話枠

世論調査の結果だ……」
 町内会長はテーブルに資料を静かに置いた、夏祭りの中止が決まる。公園でドンドコ太鼓を叩かれて、うるさいと苦情が入る時代だ。それに若い人も少ない、夏祭りを盆踊ぼんおどりで楽しむのは老人ばかりだ。

「じゃあ中止と言うことで……」

 ぞろそろと部屋を出て行く老人たちはさみしげでもあるが、すこしだけほっとしていた。夏祭りに嫌な思い出がある。女の子が盆踊りの中央の高いやぐらで首を吊った。次の年は中止になる、今年から始めようとして近所でアンケートを取った結果が悪かった。

「なんでわざわざやぐらなんだろうな」
「登るのだって大変だろうに」
 みなが不審そうに小声で話す。死んだのは町内会長の姪だ、まだ十六歳で美しい少女は首をくくっていた。

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「ひなこは、難易度が高いよな」
「かわいいし頭もいいからな」

 町内で評判のひなこが浴衣姿ゆかたすがたで夏祭りに来ていた、少しだけやんちゃの男子生徒は、彼女と仲良くなろうとだまして木陰こかげに連れ込んだ。偶発的だった。危険を感じて逃げようとした彼女を押し倒してそのまま犯した。制御できない欲望の結果は、少女を自暴自棄じぼうじきにして自殺に追い込んだ。

「夏祭りは中止だ」
「早く忘れよう」
 彼らは罪の意識はあるが、自殺したのは彼女だと割り切る。あの太鼓の音が聞こえるだけで記憶がよみがえる、夏祭りなんて不要だ。来年には都会で進学する。夜の公園で煙草を吸いながらゲラゲラ笑っていると、かすかに音がする。

「なんだ? 太鼓か? 」
「盆踊り……」

 公園の中央にうっすらと光が灯される。高いやぐらが現れると、吊られている女性が見えた。こちらをくるりと振り向くと、手招きする。男たちが恐怖で逃げだそうとするが、足が勝手にやぐらへ向かう。彼らは手を上げて盆踊りをはじめた。

「タスケテクレ……」

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 翌朝に公園で男子学生が見つかるが。脱水状態の彼らは死んでいた。両手を上げて横たわっている、まるで踊り疲れて倒れたように。



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