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ローマの道 剣闘士マリウスシリーズ

次話

石畳のローマ街道の脇には磔刑の罪人が吊されている。ひからびた皮のようなものが棒で釘付けにされていた。棒の下には赤茶けた骨が散らばっているので死体があるのが判る。たまに生身の人間の場合もあるが、声も出せずに頭を垂れていた。

「おい、見るな」横の奴隷の男が僕を小突く。粗末な板に手首が入る穴を開けた拘束具は痛いし重い。奴隷として売られた理由は借金だ。葡萄農園で働いていた小作人の両親は主人に借金をした。母が病気のために祈祷をしてもらうお金だ。母は死んで父は借金を返すために無理をした。事故で死んでしまう。僕は事故と聞いているが詳細は知らされていない。

雇い主は僕を首都に売る方が高くなる事を知ると、奴隷売買人にあずけた。ローマで値段が決まれば金を雇い主に送る。十三歳になる僕はもう大人扱いをされていた。他の男や女達は全て成人に見える。

ガタガタと長い道のりを進む、水が飲みたいがそれすら贅沢だ。夕方になると中継地点の砦に到着する。奴隷の荷馬車に水桶が置かれた、順番に水を飲む。お腹が減っているが食べ物は配られない。「奴隷を降ろせ」鎖で全員が繋がれているので、順番に荷馬車を降りると、排便をさせられる。丸太に座って尻を出して下の穴に落とすだけだ。

みじめとも思わなかった。奴隷にされると判ると妙に納得もした。生きているだけで十分に幸せに感じる。心がもう麻痺している。そんな日を何日か繰り返すと首都のローマに入った。大きな建物が多いが前の農園の方が清潔に感じる。

鎖を解かれると僕は女牢に入れられた。男牢だと強姦の危険があると後で知った。不衛生な牢の中にまだ未成年の女性達が詰め込まれていた。「あら男よ」年上の女性が僕を見て手招きをしているが、ドア付近で黙って座る。僕は立て膝に顔を埋めると眠る。

「まず百デナリウス」僕は全裸で台の上に立たされると数十人程度の雇い主の目が注がれる。実際に利用する主人が来る場合もあるし、奴隷頭が見に来る場合もある。「二百」「二百二十」子供なので安い。「尻を見せてくれよ」下卑た声が聞こえる。でっぷり太った男が僕を見る。奴隷商人は僕を後ろ向きにすると、かがませた。「五百五十」競り値の声が止まる。

「それでは、五百……」奴隷商人が言い終わる前に「二千五百」若い婦人が声を上げた。「三千」太った男が値を釣り上げる。「五千」若い婦人は静かに値段を告げる。太った男は片手をふると諦めた。

ペンブラム家の婦人は未亡人だ。彼女は小間使いを欲しがっていた。僕はオリーブ油で体を清められると奴隷の服を着せられた、給仕をする事になる。ここの暮らしは幸せだ。彼女は単にワインを注いで欲しかったのだ。

「この子の名前は?」僕がパーティの長椅子で寝ている婦人にワインを出しているとペンブラム家よりも高貴そうな婦人が僕の名前を聞く「マリウスです」婦人は笑いながら「軍神の名前なのね」ティベリウス家の婦人は、僕の肩を触る。「この子を貰うわ」ペンブラム家の婦人は黙ってうなずいた、逆らえないらしい。

ティベリウス家に行くと僕は最初に家畜の処理をやらされた、子羊を見せて殺せと命令される。「どうすれば……」奴隷頭はナイフを出すと首を切る。「太い血管がある そこを切れ」次の日から僕は練習をした。

続く


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