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過去 #01/15【見守り隊】

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葉月はづきは、人を選ばないと」
子供の頃は祖母が色々と教えてくれた。あの人は気にしなくていいよ。あの人とは話をしてもかまわない。初めは難しい。私は人と話すのが苦手なのは、見分けが出来ないから。

葉月はづき、お手伝いをして」
母親が台所から呼ぶ。祖母を残してお手伝いをする。
「誰と話をしていたの?」
母が不思議そうに聞く。私は人形と話をしていたと嘘をつく。祖母はもう死んでいた。私は死んだ人間と話をする。そんな事を言えば病院に行くハメになる。死霊と話せるのは秘密。

町に出るとそこは奇妙なモノが大量に見える世界。私はそれが普通と感じていた。死んでいるモノは常に生きているモノに干渉しようとしていた。積極的だ。実際は生きているモノの方が強い。

その日は公園でベンチ座る。奇妙なモノも近寄るが、生きているモノも近寄る。犬を連れた男が近づく。

「おじょうちゃん、犬が好きかい?」

私には彼は黒い固まりに見える。彼が色々と話するのは理解できた。見た目は黒い固まりでしかない。彼は私に手を伸ばす。

私の守護霊が動き出す。背後から立ち上がるような気配を感じる。大天竺陀羅尼天目だいてんじくだらにてんがんだ。男の手をつかむと強く引き抜く。ずるずると黒い固まりが引きずりだされた。私の守護霊は腕が複数ある大男だ。固まりを引きずり出された中年の男がぼんやりと立っている。横で小型犬がうるさく吠えていた。

中年の男の周囲にもやが集まる。その中の一体が男の体に入ると目がつり上がる。四つん這いになると自分の犬に吠える。飛びかかると自分の飼い犬の頭をかじる。そして頭をかみ砕いた。

周囲から悲鳴が上がる。公園は既にパニックだ。顎の形が変形して歪んだ顔の男は私を見る。彼が動く前に守護霊の陀羅尼だらには男の顔面に拳を叩き込む。中に居たもやが体から飛び出ると霧散した。

男は棒立ちから倒れた。警官も来て大騒ぎだ。初めて人の魂を入れ替えた。

葉月はづき、ケガは無い?」
母親が心配そうに私を抱きしめる。この時は何が起きたかすら判らない。ただ自分の背後霊が複数体居るのは理解できた。陀羅尼だらには私を守るために存在する。

「あの人は、幼い少女を狙う犯罪者よ」
父親と話をする母の声が漏れ聞こえる。当時の私は難しくて理解できない。今は判る。犬を利用して少女に性的なイタズラする彼は何回も逮捕されて、住所を変えていた。その魂を陀羅尼だらには引き抜いた。そして周囲に居る悪霊が彼に取り憑くと、犬をかみ殺した。

公園の事件も、警察からすれば精神的な問題として扱われる。間違いではない。彼は悪霊の命令で動いた。精神異常として扱われる。

引きずり出された黒いもやは、陀羅尼だらにが手を離すと元の体に戻る仕組みだ。彼は警察病院に入院した。今は彼の状態を知らない。

続く


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