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SS アナログ巌流島 #毎週ショートショートnoteの応募用

 その小屋は縁日のにぎわいから遠い場所にある。俺は薄気味悪い小屋の看板を見上げた。
「アナログ巌流島がんりゅうじま? 」

 何かの芝居小屋のようにも感じる、昔は旅芝居があって芸人たちが巡業じゅんぎょうしていた。

「Amazonプライムの時代だからなぁ……映画館も行かない……」
 昔の映画館は人がぎゅうぎゅうに詰められて通路に座って見ていたときもある。あの熱気を思い出す。

「いくら? 」
 小屋の前の老婆がパイプ椅子に座っている、黙って手を出して千円とつぶやく。高いのか安いのか微妙だ。小屋の中に入ると真っ暗な通路があるだけでお化け屋敷にも感じた……

「こちらです」
 着物の少女が俺にとても長い棒を持たせる、木の棒は船を操る道具だ、かいだったかな? なるほど俺が武蔵役か。

 舞台に上がらされると、観客席と佐々木小次郎が見える。長い刀を両手に持って俺を待っていた。

「遅いぞ武蔵! 」
 お約束だ、お芝居を体験させて楽しむイベントだ。俺はかいを持ち上げてヨロヨロと小次郎に近づいた、殴るまねをして終わりだろう。小次郎は下段から肝臓を狙って切り裂いた、目視すらできない早さで俺が振り下ろしたかいを持った手首を落とす。痛みすら無い。

「武蔵、慢心まんしんだな」

 小次郎の声が遠くに聞こえる……倒れている俺を誰かが見ている。
「弱いな」
「人手不足だからな」

 俺は異次元空間で今でも戦っている、あの芝居小屋は適正者だけが入れる次元の裂け目だ。俺は宮本武蔵にも、果心居士かしんこじにも、ヘラクレスにもなれる。どこかの高次元のプレイヤーが俺の魂のパラメータを貴重と判断した。次はアイツに必ず勝利する。戦いは常にアナログだ。


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