ご免侍 六章 馬に蹴られて(八話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
八
一馬は、月華から口吸いをされた後は体が痺れたように動けない。
(恐ろしい忍術だ、男ならひとたまりもなく殺される)
やっと動けるようになるとよろよろと玄関から屋敷に入る。そこで下働きのお徳が一馬を呼び止めた。
「いつ旅に出なさるんですか」
「お徳か、心配をさせてすまん」
「いいんですよ、お掃除しときますから」
「今月末には、旅立つよ」
大事に持っていた琴音の服を、お徳に渡して自室に戻る。嫌な汗で体がベタベタする、行水でもしようかと悩んでいると祖父が入ってきた。
「天狼とあったのか」
「はい……」
見透かすように祖父が手を出すので、通行証を渡した。
「ふん、大げさなものをこしらえたな」
「はい」
「これを使えば関所は楽に通れるが……、行き先がばれる」
「あっ」
考えれば判る事だ、どこに行くか監視をするための特別な通行証だ。
「これは使えませんか」
「使わなければ怪しまれるぞ」
祖父の藤原一龍斎が、ニヤリニヤリと笑っている。一馬が、どう考えるか試しているようにも見える。
「ならば私は琴音殿と関所破りを……」
「あやういな」
「はぁ……」
「わしと雄呂血丸殿で関所を通る」
「はい」
「お前らは、旅芸人として関所を通れ」
「……旅芸人ですか」
「ああ、芸人と称して通れば良い」
「通れるのですか」
「そこは雄呂血丸殿と相談しろ」
「ありがとうございます」
畳に頭をつけて平伏する。祖父の知惠のお陰で一安心するが、祖父の顔は厳しいままだ。
「一馬、鬼おろしはなれたか」
「使えますが……剣速が早い敵にはむずかしいです」
「だろうな、その剣は修行用じゃ」
「修行用……」
「腕力をあげるための練習用の刀じゃ」
(俺はそんなもので敵と戦っていたのか……)
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