見出し画像

ご免侍 六章 馬に蹴られて(八話/二十五話)

設定 第一章  第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
前話 次話

あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬の朝帰りで、月華げっかは、つい一馬と口づけする。


 一馬かずまは、月華げっかから口吸いをされた後は体が痺れたように動けない。

(恐ろしい忍術だ、男ならひとたまりもなく殺される)

 やっと動けるようになるとよろよろと玄関から屋敷に入る。そこで下働きのお徳が一馬かずまを呼び止めた。

「いつ旅に出なさるんですか」
「お徳か、心配をさせてすまん」
「いいんですよ、お掃除しときますから」
「今月末には、旅立つよ」

 大事に持っていた琴音ことねの服を、お徳に渡して自室に戻る。嫌な汗で体がベタベタする、行水でもしようかと悩んでいると祖父が入ってきた。

「天狼とあったのか」
「はい……」

 見透かすように祖父が手を出すので、通行証を渡した。

「ふん、大げさなものをこしらえたな」
「はい」
「これを使えば関所は楽に通れるが……、行き先がばれる」
「あっ」

 考えれば判る事だ、どこに行くか監視をするための特別な通行証だ。

「これは使えませんか」
「使わなければ怪しまれるぞ」

 祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいが、ニヤリニヤリと笑っている。一馬かずまが、どう考えるか試しているようにも見える。

「ならば私は琴音ことね殿と関所破りを……」
「あやういな」
「はぁ……」
「わしと雄呂血丸おろちまる殿で関所せきしょを通る」
「はい」
「お前らは、旅芸人として関所を通れ」
「……旅芸人ですか」
「ああ、芸人と称して通れば良い」
「通れるのですか」
「そこは雄呂血丸おろちまる殿と相談しろ」
「ありがとうございます」

 畳に頭をつけて平伏へいふくする。祖父の知惠のお陰で一安心するが、祖父の顔は厳しいままだ。

「一馬、鬼おろしはなれたか」
「使えますが……剣速が早い敵にはむずかしいです」
「だろうな、その剣は修行用じゃ」
「修行用……」
「腕力をあげるための練習用の刀じゃ」

(俺はそんなもので敵と戦っていたのか……)

#ご免侍
#時代劇
#馬に蹴られて
#小説


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?