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SS 古いガソリンスタンド 三題話【ガソリンスタンド&パッケージ&衆議院】

 仕事帰りに深夜の田舎道を車で走る。衆議院の先生の秘書として働く俺は、速く帰りたかったが、ガソリンが足りない。給油をするためにガソリンスタンドの場所を探した。カーナビで店を見つけて車をまわすと、そこは照明が暗く陰鬱いんうつな雰囲気の店だった。セルフなので自分で給油して金を払う。

「ガソリン代がまた値上げか」

 俺はパネルを操作しながら料金を払おうとした。故障なのか料金が払えない、俺は呼び出しボタンを押して、店員が来ると期待をしたが、事務所から出てこない。

「なんだ寝てるのか?」

 事務所に入ると店員が後ろを向いて座っていた。俺は声をかけるが無視される。

「おい、寝てるのか?」

 手を伸ばして肩をつかむとぐらりと体が崩れる。椅子からすべり落ちるように床に倒れた。顔が骸骨だ。骨の顔は標本のようにも見える。イタズラ?と思うが、店員が仕事をさぼってこんな馬鹿な事をするとは思えない。

「どっきりか?」

 悪ふざけの番組ならすぐに人が飛び込んでくる筈だ。静まりかえる事務所に人の気配すらない。長居しても仕方が無い、別のガソリンスタンドへ行こうとすると扉が開かない。閉じ込められた。ドアも窓も壊せない。店員が死んだ理由が判る。電話も当然使えない。

 初めは色々ためしたが諦める。それよりも客が来たらドアが開く、そこで逃げれば良い。ドアを見張る事にした。

「――朝になっても誰も来ない……」

 夜が明けても客は来ない。目の前の道路には車が走っているが、手を振っても誰も気がつかない、そうだ、異変を知らせれば良い、ガソリンスタンドにあるパッケージ消火設備を使えば良い。事務所から遠隔操作できる。俺はマニュアルを探して、稼働させた。消防車も来るかもしれない。

 もちろん予想した通りだ、消火設備は動かない……

 俺は呆然と外を見ている。夕方になり夜になる。お俺はこのまま死ぬのかと絶望感が出てきた。緊急事態のせいか不思議に飢えも無い。

「ねぇ、お金払えないわよ」

 女子大生だろうか?きっちり着飾った客が店の中に入ってきた。俺は焦らずに立ち上がるとドアが閉まる前に外に出る。

「おい速く外に出ろ」

 ドアを閉じないように体で押さえる。びっくりした彼女は不審そうに店から出た。俺は急いでガソリンスタンドの敷地から出た。安堵してから、ガソリンスタンドの方へふりむくと…………何もない。俺の車すらない。どこかの別次元に消えたかのように更地さらちがあるだけだ。

「彼女を助けられないか……」

 俺はもう更地さらちに足を踏み入れる勇気は無かった。親戚の警察関係者からこのガソリンスタンドの事を教えて貰う、その店はバイトが居なくなる事件が多発して店を閉めたのが数年前で、それからは誰も土地を使用していなかった。

 俺は自費で神主を頼み、土地のお祓いをしてもらうが、彼女も車も消えたままだった。近隣で女子大生が行方不明になる事件は無い。彼女が誰なのかは判らずじまいだ。また別の誰かが給油に来ないと、彼女は出られないのかもしれない。

終わり


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