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あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことねと月華げっかの事が気になる。一馬の朝帰りで、月華げっかは、つい一馬と口づけする。

九

「伊豆の湯治とうじも重要じゃが、そこに居る刀鍛冶に会うのが本来の目的じゃ」
「鍛冶屋かじや……」
「そこのじいさんから刀をもらい受ける」
「それは、ありがたい」

　鬼おろしはとにかく重い。短期決戦ならば、戦えるかもしれないが相手が攻撃をしない、待ちの状態で対峙たいじする事になると不利だ。

（重さで腕が疲れる……）

「なんにせよ、湯治とうじが楽しみじゃ」

　祖父は立ち上がると一馬の部屋を出て行く。祖父はもう戦うのも難しいと思える。ねじれ念仏の印地いんじで肉を削がれた体は痛々しい。隠居の身の上で実戦に出るのは死に直結する。

（早く新しい刀で、琴音ことねを守らないと……）

「一馬かずま様」
「一馬かずま」

　いきなり障子しょうじが開くと琴音ことねと月華げっかが並んで座っている。

「な……なにごとです」
「わたくしを嫌いになる方法を教えてください」
「はぁ……」

　琴音ことねが突飛とっぴもないことを真顔で訴えている。ちらりと月華げっかを見ると同じように真顔だ。

（何かの冗談ではないのか）

「それは、琴音ことね殿が私を嫌いになりたいという事ですか」
「……そう……なると思います」

　やたらに歯切れの悪い態度で、琴音ことねがうつむく。

「琴音ことねはね、大事な体なの。一馬かずまとなんかあったら大変でしょ」
「俺が手を出すと言いたいのか」

　いつのまにか琴音ことねと月華げっかは、幼なじみのように仲良くなっていた。

「うむ、では俺の考えを聞いてくれ」
「はい」
「変な事を言ったらぶん殴るからね」

　二人から責められてるような変な気分になりながら、真面目に答える。

「琴音ことね殿を助けたのは、天命だ」

　付き添いの下男が殺されて拉致らちされそうになった琴音ことねを助けたのは、神仏からのお告げだと強調する。

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