約束の時(15/16)【窓辺の少女_かなえの消える日】
あらすじ
米兵の狙撃で倒れたかなえは、日本を救えない、玲子の必死の願いに応えるかのように、魔女の国のカナエが助けに来る。
「借りを返しに来たわ」
長い黒髪が強い風で揺れる。もう周囲は台風のような強い風で荒れ狂う、気圧が変わる。落下する隕石で大気圧が急激に変化をしている。立つのすら難しくなる。
「ひどい傷ね、治すわね」
倒れているかなえの血まみれの胸に触れると、傷が跡形もなくなる。かなえはゆっくりと眼を開く。
「――誰?…………」
「大丈夫よ、助けに来てくれたの……」
私はかなえの額を触る、熱も無い。かなえに手を貸して立ち上がらせた、もう時間が無い、周囲はすさまじい轟音になり始めた。
「手をつないで、突っ込むわ」
魔女のカナエが私たちと手をつなぐ、三人が輪を作るように見つめあう。カナエが両手を上げる、天空に隕石に向かって全員が手を上げる。
ふわりと浮いてゆっくりと上昇する。その速度は、どんどん上がる。隕石に向かって突撃すると同時に周囲から黒いスズメ達が舞い始めた、彼らも隕石に突撃する。隕石を止める、絶対に止めて見せる。
「わらわも手伝うぞ」
近寄って来たのは八夜狐と犬神だ、彼らも笑っている、妹も到着したのかなと思う、私は腰に居るトカゲに願う、とても強く願う。
「――隕石を破壊して…………」
体がしびれる様に熱くなる、灼熱した隕石のごつごつした岩肌が見え始めた、不思議と怖くない。かなえも笑っている、カナエも嬉しそう。きっと私も笑っている。
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私はおねえちゃんが空に飛び上がると同時に、狐と犬さんに、お姉ちゃんを助けてと頼んだ。彼らはちょとだけ不貞腐れたように笑うと、空に飛んでいく。
「おねえちゃん………」
後ろで大きな頭の一杯ある蛇も空に上り始めた、もう風が強くて立っていられない。武雄が私を抱きしめる。一瞬だけ空が光ると大きな音が響く、私は、その音で気を失う。
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いつもの日常、武雄が居て舞子が居てかなえが居る、苦手だけど敬一も居る、八重や大神十郎も居る、写真部で他愛のないおしゃべりをして過ごす、それがどんなに貴重なのか私には判る。
「――かなえ………」
「大丈夫よ、傷はないから、でも蛇は使えないわね」
隕石を破壊すると同時に膨大な質量を、魔女のカナエは別世界に転移させてしまった。私からすれば万能の神様のような力だが、それを特別とは感じてなさそうだ。
空から落ちるときに着地点がずれると私たちは房総半島のどこかに降りていた、海岸から対岸は見えないので太平洋側かもしれない。碇浜かなえは、砂浜で横わたっている。
「私は帰るわ、さすがに力を使いすぎた、じゃあまたね」
転移の魔法を使い、魔女のカナエが手をふって帰る。彼女の国と私たちの世界とつながっているのか、異変を察知すると準備をしてから私に会いに来た。ギリギリの所で間に合う。
私はかなえの髪の毛が砂だらけにならないように頭部を膝に乗せた、妹も私の膝で寝ていた事を思い出す、額をゆっくりとなでる。彼女が目を覚ましたら駅を探そう、そしてまた学校で過ごそう。私は、かなえの事が大好きなのを自覚した。
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