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【映画】『ファースト・カウ』

フライヤー

牛かわいい〜

あらすじを引用

物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。
共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった――!


感想

今年、一本目の映画は、ケリー・ライカート監督『ファースト・カウ』。ポップなあらすじからは想像できない、温かい映画だった。

映画の始まりは、大きな船が現れて消える様子を、体感一分はあるだろうか、ただ眺める場面から始まる。
独特の間のある映画だな、と思いながら観ていると、草木の生い茂る野原に、少女と犬が現れる。
『ファースト・カウ』とあるからには、牛が出てくることを期待していた僕は、少しがっかり。けど、犬もかわいい。
大河を往く船の汽笛が耳に残ったまま、長閑で良い雰囲気だなと思って眺めていると、何かを見つけた犬が地面を掘り出す。つられて少女も掘り出す。掘り出すのもモタモタしていて、遅い。少し焦れったく感じ始めた頃に地面の下から現れたのは、二体の白骨死体……

ここから場面が転じて、あらすじにある「1820年代、西部開拓時代のオレゴン」が舞台になっていく。

冒頭と時代が違うのだな、とはっきり分かるのはやはり船。和毛の雌牛を運ぶこの船は、未開拓の集落で作られていて、木製の簡易なもの。
乳牛としてドナドナされる彼女(牛)を通じて、ふたりの男、クッキーとルーの友情が育まれていくのが『ファースト・カウ』。

面白いのがふたりの出会う場面。
暗い森の中、きのこ狩りをしていたクッキーは、茂みの中に全裸のルーを見つける。
普通の人だったら絶叫してしまうような場面でも、クッキーは怖々「こんばんは」と挨拶をかけて、ルーは「腹が減った」と返す、どこか緩い雰囲気。
残り少ない食料と服を、心優しいクッキーが提供した(僕だったらしない)ところで、ルーから「人を殺した」と告白される。一瞬、緊張が走るが、続く台詞でその理由が斬殺された友達の敵を取るためだったと分かる。

日経新聞で「心優しいクッキー。知恵と勇気のあるルー」と紹介されていた(僕はこういう物語じみた人物の紹介文が好き)けれど、この出会いの場面だけ切り取っても、ふたりの人間性がよく伝わってきて良いと思った。

そして物語の最後の場面。
傷を負って倒れるクッキーに、寄り添いながら「俺がついている」と言って眠りにつくルーの心情よ……

          ●

映画を観終えて、自転車を漕いで家に帰る。大通りなのに、平日の夜だからか車通りは少なく、ついスピードが出る。凍える指先に息を吐きかけながらも、家路を急ぐ。
誰もいない家は、底冷えするのを強く感じる。
安物のスリッパを履いて廊下に立つ。上映中、カイロ代わりにと上着に忍ばせていたお汁粉は既に冷え切っていたから、クリスマスマーケットで貰ったマグカップに移して温めなおす。
数分後、温め完了のメロディに呼ばれて出向いた僕は、お汁粉がレンジの中で溢れているのを見た……

溢れたお汁粉を拭きながらも、その間、今日観た映画のことを何度も思い返していた。
牛の反芻のように、ゆっくり消化をしていた。その間は、普段流し続けているラジオも、消していた。

          ●

良い作品、良い映画でした。牛もかわいかった。



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