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中世ギルド教師のオンライン講座

 ぼくは個人事業主なので、その時々に応じて数多の仕事をこなしている。それゆえ介護者のときもあれば脚本家のときもある。ただ、それだと自己紹介に困るので、いちばん通りのいい肩書として「大学の先生(バイト)」と言うことにしている。「宗教学を教えており、キリスト教を研究しているんです」といえば、多くの人々が、へぇ~、そんな仕事もあるんだ~と思って終わってくれる。

 もちろん蟹工船アカデミア号のような話にはならないし、こちらも「ええ、まあ、はい、そうなんです」といった具合に流すことができる。とにかく分かりやすいので重宝する肩書である。そして、それ以外にはとくに有用でもない肩書だった。

 ところが最近そうではなくなった。知人の方々より「ハセさん、大学で教えていらっしゃるなら、ぜひ宗教学の講座をやっていただけないですか」とお話を頂いた。聞くと大学よりも払いはよい。そして毎週ではなくて、毎月という形とのこと。となると、こちらとしては望むところで、晩飯のおかずが一品ふえるくらいのつもりで引き受けた。

 そして先日、第一講を終えた。もともと90分の予定だったが、講義60分に質疑応答60分と、大変たのしい時間を過ごせた。そして「あぁ、中世の大学ギルドの教師って、こんな感じだったのか」と思う。

 学びたい気持ちのある人々が醵金して、いわばギルド化して教師を雇う。雇われた教師は、ギルドの求めに応じて知識の教授を行う。そこには生きたコミュニケーションがあり、知識と理解への渇望と好奇心が満ちている。

 しかし21世紀は、現時点の歴史学では中世とは呼ばれない。事実、こんなこともできるのかと思うことが多かった。試しに有料の文字起こしAIを導入したのだ。北海道から九州まで、各地からの受講者がweb会議形式で出席してくれる。参加者を示す小窓には、こちらのノート・タブを映して共有する。ここまでは慣れた作業である。

 ところが小窓のひとつは、文字化AIである。AIは講義の内容、質疑応答をリアルタイムで日本語として入力し続ける。丸々120分、精度は8割といったところながら、講義を終えた直後に、約4万字のテキストが生成される。そして、さらに、そのテキストをAIで要約にかけると、主旨、テーマごとの話題をさっと分類して抽出してくれる。

 なんだ、これ、すげえ。

 時代は進んでいるのだ。文字起こし作業は、本当に大変だけれど、それを機械が肩代わりしてくれる。当然、誤字脱字をふくむ粗いものが出来上がる。しかし、それをさらに生成AIで要約することにより、ケバ取りは必要なくなる。詳しい議論は省略されるが、基本的に何を話したかの羅列は可能となる。いやはや便利な時代になった。

 というわけで、中世のギルド教師のように、学志ある人々にやとわれて、毎月1回、半年間、宗教学のオンライン講座をすることになった。しかし21世紀よろしく生成AIが文字起こしも要約もすぐにやってくれる。

 つまり、この文章は21世紀の現在、中世的なあり方で神学/宗教学の教師を行うこと、同時に生成AIに助けられて仕事すること、ふたつの驚きについての言語化である。驚いた。

リアルタイムで話者を色分けして文字化してくれるAI

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