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一番古い記憶の中で私が夢中になってやっていたこと


おはようございます。

あなたの一番古い記憶って何ですか?

私の一番古い記憶は、3歳の自分が熱帯夜に眠れなくて、枕をひっくり返し続けているというものです。

以下のエッセイを書きながら、気づいたこと、それは、<私は幼少期、両親から守られながら、挑戦の場を与えてもらえていた>ということでした。

アドラー心理学では、古い記憶を啓示的に読み解くことも行われるのだそうですが、今回はあくまでも文章表現の課題に取り組んだものとして公開します。


エッセイ「一番古い記憶の中で私が夢中になってやっていたこと」

それは、蒸し暑い夜だった。

木造2階建ての本家には、時の事情で次男である私の父と母、そして私の三人が住んでいた。ここは父の育った家でもある。彼は5歳で祖父母の家に引き取られるまで、この二階の物干し場でよく昼寝をしていた。まどろみながらいつも猫を抱いていたのだそうで、その至高の暖かさを生涯忘れられないという。

二階にある北側の和室が私たちの寝室だった。布団を3枚並べて、私が真ん中に寝ていた。川の字になって眠っていたということは、まだ兄弟は生まれておらず、私が一人娘の環境を謳歌していたころだが、当時の私はまだそのことを知る由もない。寝室を出た壁際には書棚が立ち並んでいた。所狭しと文庫本が詰め込まれていた。どんなタイトルが並んでいたのか、そもそも誰の本だったのか、今となっては知るすべはない。

子ども用の小さな枕を私は気に入っていた。記憶が正しければ、それは、毎週日曜日の夜に放送されていたアニメ「世界名作劇場(ハウス世界名作劇場)」の第12作目にあたる『愛少女ポリアンナ物語』のイラストがプリントされており、中に太いストローを切ったビーズのような、水色のプラスチックパイプの入った枕だった。

ところで、それは本当に蒸し暑い夜だった。どんなにお気に入りの枕でも、しばらく寝るとすぐに体の温もりで枕にはじっとりと熱がこもってしまった。3歳の私は、熱を帯びてしまった不快な枕を使い続けるのが心底嫌になってしまう。そのまま寝続けるのに嫌気が指してしまい、しばらくうなされたように頭を動かしていた私は、突然、枕を裏返すことを思いついた。表側は熱を帯びていても、枕にはまだ反対の面があるじゃないか。そこには私の求めていたひんやりとした感触が残っていた。

うだるような暑い真夏の夜。ひんやりとした肌触りをひっそり隠し持った枕の裏面を発見した私は、気持ちよくまた瞼を閉じた。しかし、果たしてその冷感は長く続くものではなく、5分と経たないうちに枕はまた温もりを帯びてしまう。私は懲りずにまた起き上がり、何度ともなく枕を裏返す。枕を裏返し続ける私の横で、父と母は依然として寝静まっていた。私だけが真っ暗な真夜中に起き上がって、ゴソゴソ動いていた。何を隠そう、これが、記憶をさかのぼったときにでてくる、私の初めての出来事だ。

赤ちゃんが眠れずにグズグズと泣いたり暴れたりすることを、九州の方言で「寝あせがり」という。しかし、この記憶の中で、私は確かに意思を持って眠ろうと努力していた。問題解決のために3歳児なりに試行錯誤をしていた。つまり、「あせがる」ことなく、静かに物事に対処しようと試みていた最初の記憶なのだ。永遠に続くとも思われる熱帯夜、自分を寝かしつけるために最大限の努力をしていた時の記憶。今まで誰にも話をしたことはなかった。

子どもを生み、親の立場になった今、私は一つの疑問を持つようになった。もしかしてあの時、父と母は実際は眠っていなかったのではないのだろうか。きっといつの時代でも、親の立場から見た子どもの寝かしつけというのは、毎晩の大きなタスクの一つだったのではないか。当時彼らは、私が寝付いたその後でどんな時間を過ごしていたのだろうか。 何度も枕を裏返しながら眠りにつこうと足掻く我が子をどんな眼差しで見つめていたのだろうか。

子どもが早く眠ってくれれば、その後起き出して、コーヒーを飲んだり、本を読んだりできるかもしれない。そんな僅かな期待を胸に、子どもが寝付くまでの間、目を閉じて息を潜め、私は寝たふりをする。ほとんどの場合は、深夜の静寂をほしいままにすることはできず、気がつくと朝を迎えてしまう。

私が熟睡している間、4才の娘はきっと誰にも気づかれず、ゴソゴソと動きだす。静寂の無の時間、彼女の精神はぬくもった布団の外に向かってじわじわと枝を伸ばす。そして、その記憶を30年後に誰かに向かって話し始めるかもしれない。もしかしたら、ね。

おわりに

800文字程度のエッセイを書くという課題が出ていたのですが、2000文字になってしまいました。長い文章は誰も読まない、と教わった時、誰にも読まれない文章を書き続けることの意味を考えました。

ラップトップに向かっていると、1歳の子どもが割って入ってくるので、文章の下書きは音声入力を活用しました。

本当に書きたかったことは、後回しになってしまったので、また近いうちに更新したいと思います。


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