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 生まれる森 著:島本理生

 作品としては短い167ページだ。野田さんと呼ばれる主人公のわたしはサイトウさんとの思い出を引きずっている。それがナラタージュから連なると言えば連なるのだろうが、私はそうは思わなかった。こちらの方が悲壮感に溢れていて救いようが無い程、主人公は落ち込んでいる。

 大学の友達加世ちゃんが実家の京都に帰ってる間中、一人になりたいからと言ってその部屋を格安で借りる事にした主人公は高校の頃の友達のキクちゃんとその家族とキャンプに行く事になる。それでキクちゃんの兄と弟とも見識を持った。

 このキクちゃんが小説の中で一番のキーマンになる。風邪を引いた時もそうだし、キクちゃんの兄の雪生との関係もそうである。公務員の雪生だが野田にそれなりに興味を示してる模様で、本の貸し借りからドライブまで少しデートのようにして野田に心を寄せていた。

 最後は加世ちゃんの誘いでラグビーの試合を雪生と見に行き賭けをしてラストだった。あ、これで終わりなんだと拍子抜けしてしまった。

 サイトウさんと言う塾講師との恋愛とも取れぬ片想いがトラウマになっている主人公の再生の物語だったのだ。それを夏休みの間中に加世ちゃんから間借りした部屋でキクちゃんとの交流を描いている。

 解説は高橋弘希さんで解説を読んでなるほど、そう言う因果関係になってるのかと納得が行った。『送り火』で芥川賞を受賞した方である。雪生にも母と言う喪失があって、お互いにリンクしているのだ。

 森から抜け出す様を描いていて、その助けにキクちゃんや雪生がいる。そのやりとりの繊細さを見て欲しいとあとがきに島本理生さんは書いていた。

 私は繊細さを読み解けただろうか?主人公が押し潰されそうになる初恋の余韻は痛いほど伝わって来た。でも、どうしてそこまでサイトウさんに固執したのかは本人にも謎である。サイトウさんの森を抜けて、雪生ときっとうまく行くと良いのだが、その行方は読者に投げられて終わっている。

 以上

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忘れられない恋物語

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