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 平場の月 著:朝倉かすみ

 この本は『あの本、読みました?』と言う本を紹介する番組の中で凪良ゆうさんが紹介してくれた本の中にあったものだ。凪良ゆうさんは『冷静と情熱の間』と『恋愛中毒』と『平場の月』をオススメで挙げていた。『冷静と情熱の間』は江國香織さんの方は読んだか読んで無いかあやふやだが、辻仁成さんの方のラストは覚えていた。『恋愛中毒』は山本文緒さんの訃報に接して、文緒さんの本をコバルト文庫と共著は除いて全て読んだので読んである。知らなかったのはこの朝倉かすみさんの『平場の月』であった。Amazonで中古品を購入し、読み終えたのだった。

 主人公は青砥健将と須藤葉子。50代を過ぎ、結婚も離婚も経験した同士の恋愛活劇である。語りはずっと一人称で青砥が章立てしてあるフレーズは須藤が青砥に放った言葉でできている。

 青砥は一人息子で父は他界し、母の病院に顔を出し看病しているが母の方では青砥の事を覚えていない。埼玉の田舎が舞台だ。同じ小中高と育った面々が要所にいる。東京に行った奴、戻って来た奴と様々だ。青砥も東京で印刷会社に勤めていたが地元に帰り、製本所で働いている。二児もうけ、共に独立している。母の介護を理由に離婚した口である。

 須藤は大学を卒業し証券会社に勤務し、略奪愛の末結婚、そして死別。そのあと若い男にハマり、恵まれた資産も棒に振って帰って来た。病院に備え付けられてる売店で働く女性だ。今は何もかも失って、売店での仕事を頼りに質素倹約な生活に身を置く平場の人間だ。しかし、検便に血が混ざっていたと言う事で再検査になる。大腸癌が見つかり、便を肛門ではなくヘソの下あたりに移植するストーマの手術を受ける事になる。そんな中、現れたのが中学のお互い初恋の相手だった青砥だった。

 青砥は胃に出来物があると手術で切除し、悪性か良性か再検査になったのだ。それで須藤が働いてる病院の売店で買い物して知り合い、再会する事になった。

 そして青砥は徐々に須藤に惹かれ、須藤は死んでしまう。と言うお話だ。これはネタバレでもなんでも無い。冒頭の須藤は死んでしまったと言う話が序章だからだ。しかし、青砥にはそれが受け入れられず、事の顛末を再構築するように文章が刻まれて行く。心理描写に富み、ラストの青砥の行動ははっきり言って謎だった。二人の根は意外と深かったと言う描写なのか、そのローズマリーの根を最後まで突き止めたら何か変わるのか、意味深な終わり方にモヤモヤっとしてる。解説を読んでもラストの描写には触れられて無い。

 しかし、須藤の言葉で章立てしてある事が記憶の頼りになり、何重にもお互いの別れの為に青砥の行為の裏で須藤はどう思っていたのかが喚起される仕組みになっている。そっか、それでかと納得行く部分もある。ミステリチックな純愛物語に仕立てているのだ。しかし、比喩は独特だし、文章のリズムにも幾分のクセがあり、読むのに苦労したのは間違い無い。この分量なら2日で読めると高を括っていたが、4日くらいかかってしまった。次に読む本は無いので、堂々と4日かけて読んで良かったのであるが、一息に読んでいたらもっと最初の部分を思い出していたかなと、物語の解像度が曖昧になってしまったきらいがある。少し疲れる文章だった。

 著者の朝倉かすみさんは北海道新聞文学賞、小説現代新人賞、吉川英治文学新人賞、山本周五郎賞を受賞され直木賞の候補にも上がっている方だ。

 この『平場の月』で直木賞候補になり山本周五郎賞を受賞されたようだ。

 はじめに死ぬとわかっている須藤の最後の輝きを青砥が語ってくれた。そんな一冊でした。

 以上

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