台湾侵攻、心理戦がカギ─「中国超大国論」浸透なら追い風

 ロシア軍のウクライナ侵攻を機に「中国も台湾への武力行使に踏み切るのではないか」との見方が出ている。現時点でハードルは高いが、習近平政権にとって、台湾併合による「祖国統一」実現が悲願であることは事実。台湾と日米に「中国超大国論」を浸透させ、中国の台湾支配は不可避だと思わせる工作の成否がカギを握ることになりそうだ。

■「ウクライナと違う」

 ロシアが2月下旬、ウクライナ東部の親ロ派支配地域の独立を認め、ウクライナに侵攻してから、台湾では「きょうのウクライナ、あすの台湾」と危機感をあおる議論が目立つが、蔡英文総統率いる民進党政権は「台湾とウクライナは違う」と冷静な対応を呼び掛けている。
 中央通信社電(同22日)によると、国家安全保障政策に関わっている台湾高官は台湾とウクライナの相違点について(1)台湾は東アジアの第1列島線の要衝であり、米国にとって重要性はウクライナよりはるかに大きい(2)中国に対し、台湾海峡が天然の障壁になっている上、米国は台湾海峡の安全保障を約束している(3)台湾は半導体などの国際サプライチェーンの中で重要な位置を占めている─と主張した。
 台湾国防部も昨年12月、立法院(国会)で、中国軍は管轄地域が広いため戦力が分散している上、渡海・上陸や補給の能力が不十分であり、現時点で台湾を攻略するのは難しいとの見解を示している。
 ただ、安保関係の高官は同時に「国家安保は侵略者の善意に期待することはできず、盟友が無条件で助けに来てくれると考えることもできない」と述べ、さまざまなケースを想定して備えを万全にすることが大事だと強調。当面は、ウクライナ情勢を利用した中国側の心理戦を特に警戒するよう呼び掛けた。
 香港親中派メディア関係者は「台湾の親中派は『中国が攻めてくる』とか『台湾の若者は兵役を嫌う』とか触れ回って、共産党の心理戦に協力している」と指摘した。

■対日米工作も重要

 民主主義が定着した台湾で一党独裁の中国共産党政権に対する好感が高まっていくとは思えないので、中国側の心理戦は「強大な中国に逆らって統一を拒み続けても無駄」「いざという時に外国は当てにならない」という考えを台湾で広めることに重点を置いているとみられる。
 野党・国民党の馬英九前総統はロシア軍のウクライナ侵攻後、地元メディアに「米国は武器を売ったり、情報を提供したりしてくれるが(台湾を守るために)出兵はしない」と語った。
 馬氏のような考えが今後増えて、統一に積極的な親中派政権が発足するのが中国にとって理想のパターン。それでも台湾側の民意がちゅうちょしてが統一に向かわない場合、中国の指導者は武力行使の誘惑に駆られるかもしれないが、自国軍事力の実情から言って、米軍もしくは日米同盟の直接介入は絶対に避けたい。
 そこで、台湾だけでなく、日米に対する心理戦も重要になってくる。経済発展レベルを示す1人当たりの国内総生産(GDP)を見ると、中国はいまだに約1万ドルで、日本のわずか4分の1、米国の6分の1でしかないが、人口の多さに起因するGDP規模の大きさを強調し、中国超大国論を拡散することにより、日米の世論や政官財界に対中融和論を増やす。「台湾は超大国・中国の一部として生きていくのが最善」「米軍が介入しても、人民解放軍にはかなわない」「中国経済に依存せざるを得ないので、台湾問題より対中ビジネスを優先すべきだ」といった声が日米でどんどん増えていけば、中国の統一政策に大いに寄与するであろう。(2022年3月4日)

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