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拝啓、ぼろぼろになって屋根裏に眠るIBMくんへ

実家の屋根裏に放置されていた時代遅れのディスクトップパソコンがついにリサイクルされる。我が家に届けられたときは20万~30万円もしていたIBMくんが二束三文になってトラックに積み込まれる姿を想像すると、なんだか無性に泣けてしまった。このnoteを青春時代をともに駆け抜けたIBMくんに捧げる。

我が家にいらっしゃい、IBMくん

IBMくんとの出会いは、私がまだ小学1年生の時だった。

流行りもの好きの姉が両親にパソコンを強請ったらしい。当時、ノートパソコンは家庭には浸透しておらず、それどころかディスクトップパソコンはとても高価なものだった。家に届いたドでかい段ボールを嬉々とした様子で荷解きをする姉。それを横目に私はおそるおそる箱の中身を覗いた。

「なんだか不格好なテレビだな」

第一印象。00年以降に生まれた方々には信じられないだろうが、昔はテレビにもパソコンにもこぶのような背中があった。2時間、3時間も使っていると発熱し始めるので、壁から適度に離さないと真っ白い壁に”影”が焼きこまれてしまう。ちなみにキーボードは、キーが異様に盛り上がっているので、タイプ音がうるさい。でも、「叩いてるっ!」という感触がいっとう気持ち良かった。

引用)壮観!Mac誕生30年を歴代Macの画像で振り返る

今ではアップル製のノートパソコンは珍しくもなんともなかったが、98年に発売された 「iMac – 1998」はめちゃくちゃクールだった。そして、めちゃくちゃ次世代的だった。どうせ買うならMacにしてくれたら良かったのに。と生意気な小学生は思う。しかし、我が家に届いたのは、

参考画像)PC340 6560-48J 6560

このロゴが懐かしい。IBM社の家庭用ディスクトップパソコンだった。(ちなみに、IBMのパーソナルコンピューター事業は2005年にレノボに売却されている。)そんなこんなで熱烈歓迎をされて我が家にやってきたIBMくんだったが、1週間で飽きられてしまい、すぐに埃を被ることになる。

なぜかというと、当時中学生だった姉にはパソコンの使い方なんてトンと理解できなかったからである。そもそもインターネットに接続されていないパソコンで出来ることなんてたかが知れている。私の記憶の限り、インストールされているソフトウェアは「Office98」と「Paintshop98」の2つ。もともとデジタルで絵を描きたかったらしく、スキャナーもセットで購入していたが、「ペンタブ」の存在を知らなかった姉はマウス操作で挫折したらしかった。また、飲食店勤務の両親は、パソコンで仕事をする機会もなく、IBMくんのデビュー戦は不名誉な形で幕が下ろされたのだった。

肝が冷える 図書館で覚えた背徳の甘い蜜

ほどなくして数年後。私はIBMくんに熱烈ラブコールを送ることになる。それは小学4年生の頃。大型の区立中央図書館が近所に移転開館した。蔵書数はもちろん区内一位、メディアルームがあり、パソコンルームも完備されていた。テンション爆上げである。お小遣いのない小学生にとって無限に時間が潰せる場所だ。もちろん、勉学に励む小学生ではなかったので、専ら漫画コーナーで閉館まで時間を潰していたくちである。そこで覚えた遊びのひとつが「インターネット」。

始まりはクラスでにわかに流行っていたおもしろフラッシュが発端だった。サザエさん一家やドラえもんの過激なパロディフラッシュが小学生には面白くて仕方なかったらしい。(知らない人は「フラッシュ倉庫」で検索してみてね)

ある日、どんな検索をしたか不明だが「度胸だめし」というサイトに辿り着く。簡単に説明すると、自分のパソコンが”ハック”され、それを自力で解消するゲーム。”ハック”といってもパソコンがフリーズしたり、ブラウザウィンドウが揺れたり、ウィンドウが無限増殖したり、本物のウィルスに比べたら可愛いもの。これを図書館の職員さんに隠れてやるのが、パソコン壊れちゃうかも!という恐怖とともに職員さんに怒られる!のダブルパンチで、大変なスリルだった。(そもそも図書館のパソコンでは調べ物以外してはいけない決まりなので、ゲームしていると怒られる。)ブラウザウィンドウを2つ用意して巧妙にゲームをひた隠しながら、レベル上げをしていく毎日。そして、ふと思いつく。これ家でもできるんじゃない?時間を気にせず使えるし、もっと面白いサイトが見つかるかも?

インターネットを我が家に!必死のプレゼン功を奏す

善は急げ!とさっそく親に相談をする。「うちにあるIBMくん、ずっと使ってないけどもったいないよー!彼に活躍の場を与えて!」と泣き落としでインターネット回線の契約を迫ったが、結果は撃沈。親には「インターネット」がそもそも何か理解できてなかった。私は悟った。正攻法は通用しない。

そして、街で目にしたある広告。

写真参考)「モデムいかがですか~?」:仕事の味(ソフトバンク編.7)

Yahoo!BB の店頭販売である。「契約料2カ月無料!」「BB同士の通話無料!」がでかでかと看板に書かれている。これをみた瞬間、「こ れ だ !」と刮目した。そして、さっそくチラシを持ち帰り、インターネットでは釣れない両親を納得させる伝家の宝刀を抜いた。「通話量が安くなるよ……」をそっと両親の耳元でつぶやく。ちょっと興味がそそられたのかチラシをしげしげと眺める。もう一息である。「◎◎ちゃんも、◎◎ちゃんも、◎◎ちゃんも、BB入るってよ……」再び耳元でささやく。そして、「BB同士は通話料無料だってよ……」といいながら、先月の電話通話料明細をそっと隣に置く。ふむ、といいながら契約書を開いて、フィニッシュ。

そして、我が家にインターネットがやってきたのだ。(2004年といえば日本最大級の個人情報漏洩事件があった頃ですね、気になるひとは検索してみよう)

インターネット接続に立ちふさがったいくつかの壁

数週間後、我が家に「モデム」が届く。さっそく説明書をみてインターネットに接続するぞー!と意気込んで数分で異変に気づいた。うちのIBMくんにはインターネットを接続するための「ポート」がない。。。!!もう一つ大きな問題が発生した。当時はダイヤルアップ接続だったので電話との接続が必要不可欠。電話とパソコンのある部屋が離れている。。。!!LANの長さが足りない。。。!!

涙ながらに学校の技術科の先生に相談する。「どうしたらいいんですかー!」と泣きついた。なぜなら、契約料2カ月無料のためにわざわざ月初契約にしたのに、インターネットができない日が1日、2日と潰えていくことに耐えられなかったからである。(ただの貧乏性)

意外にも解決方法が簡単で「LANポート」と「ルーター」を買えばいいのよ、とアドバイスされてヨドバシカメラに駆け込んだ。IBMくんの情報をメモしつつ、店員さんにおすすめを聞く。しかし、この時のあんちゃんがいけ好かなかった。「ルーターの接続って簡単にできますか?」と質問したら「いやー素人には絶対無理ですねー!」って返答しやがった。猛烈に腹が立った私は絶対に自力でインターネットを接続してやるとその日、固く心に誓う。

そして、自宅。BBのモデムに同封されていた説明書をみながらケーブルを接続していく。モデムとルーターのランプ点灯を見届け、いざ、IBMくん、起動!なんか色々質問してくる!意味は分からん!が!文字列的にたぶんこれ!を何回か繰り返していくうちに……Yahoo!BBのトップページが!!(その瞬間、頭のなかで、たったんたーん・たったんたーんというロッキーのテーマが流れた。victory!)

数か月後、チャットを覚えた私はもうひとつの壁にいきつく。IBMくんの動作が遅い……。それもそのはず、時はすでに2005年。世間ではディスクトップパソコンではなくノートパソコンの時代だった。もっといえばケータイ時代の幕開けだった。(パケ放題という概念が定着してきたのもこの頃)

ソニーのバイオシリーズをよく見かけた記憶がある。幼心ながらにロゴかっけぇと思ったものである。今でこそ「ググれ、かす」という煽りが通用するが当時はブラウザといえば「IE」、検索エンジンといえば「Yahoo!」だったわけで。「IBMくんを身軽にする方法教えて!」とYahoo!さんに聞いたわけである。

容量が多いものを削るべし、という進言を得たので、早速実行する。当時はソフトウェアのインストールもアンインストールもCD-ROMを使わないといけなかったので、おそるおそるWindowsの「delete」用ソフトを挿入口に……。インターネット接続に使用するソフトウェアだけを残し、残りはすべて削除。画面は画素数などを落として最小容量で表示。ごめんよ、IBMくん、君の機能を極限まで0にしたかったんだ……。アイコン表示とかが鬼ださくなったけど、でも、インターネットは快適になったよ。。。!

快適なインターネット・ライフの先に

Twitter上で公開した画像
プライベートWEB飲みで、前略プロフィールやらミクシーやらあまりにも懐かしい単語が飛び交ったので一覧表にしてみたよ!

いま思えばWEBの基礎知識は小学生の頃に死ぬ気で弄った(遊んだ)ものがベースなのである。HTML , CSS , Java script ,CGI , flash , CMS ,アクセス解析 ,ブログ , アフリエイト , EC ,WEB通話 , チャット……数え出したらきりがない。特にWEBサイトを自分でつくることが流行っていた中学生時代は、コードを書いてその通りに画面が動くのがめちゃくちゃ楽しかった。奇抜なデザインをしていかに訪問者の度肝を抜くか、なんてくだらない挑戦もしていた。

そう、大学入学の2010年まで、私は浮気もせずIBMくん一筋で生きてきた。どんなに「このOSには対応できません」と言われようとも、「容量が重すぎて表示できません」と言われようとも、CD-ROMへの書き込みで何度もフリーズしようとも、内容をもはや覚えていないフロッピーが山のように積みあがろうとも、私は浮気もせずにIBMくんだけをみてきた。

しかし、別れは突然にやってくる。

大学では「レポート」を提出しなくてはいけない。IBMくんのスペックではさすがに「Office2010」は耐えられなかった……。泣く泣く「NEC」のLaVieシリーズを購入することに。そして、数分後その涙は嬉し涙に転化した。インターネット接続がはやい!表示がはやい!処理スピードがはやい!(あたりまえだ。OCが7になったんだから)それまで、「XPいいなぁ……(チラッチラッ)」と隣の芝生を眺めていたのが、最新モデルをなったのだ。その驚きは尋常ではない。(大学時代をともに戦ってきたLaVieくんだが、社会人1年目のベンチャー企業で使用していたら、とんでもないポンコツに成り下がったのはまた別のお話)

拝啓、IBMくん。

 まだ6月だというのに真夏のような暑さが続いております。IBMくんはいかがお過ごしでしょうか。 
 きみがはじめて我が家にきたとき、何もできないポンコツね、と罵った私を許してください。
 きみのおかげで「インターネット」という素晴らしいものに出会いました。そして、飽くなき探検の入り口に私を連れ立ってくれましたね。あの頃の「嬉しさ」と「楽しさ」と「喜び」は一生忘れられないでしょう。
 仕事をしていると、不意にきみのことを思い出します。何か新しいことを始めようとすると問題が起きましたね。きっと、きみが身体を張ってインターネットの怖さを教えてくれていたんですね。おかげで、インターネットの検索スキルとトラブルシューティングが身につきました。いろんな抜け穴を探すのも得意になりました。
 いまの私があるのは、きみのおかげです。6年間、ありがとう。
 きみと駆け抜けた青春の日々は、私の宝物です。
 きみがまた新しい資源となり、私のもとに届くかもしれない日を楽しみにしております。

かしこ

令和二年六月六日 しゃゆーん

IBMくん

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