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舞台照明デザインのこと その10 では、少し大きめの劇場に置き換えて考えてみようのこと

はじめに

前回までで、舞台照明の基本となる方向性についての話をした。
ただ、これは
舞台上にあるとされる物体に対してどういう方向から照明を当てていくのか。
までにしかなっていない。実際は劇場という機構を使って、舞台照明はなされるものだ。

劇場に当てはめてみよう

という、わけで今回は実際に劇場においては、どういう照明の位置関係になるんだろう。ということを説明していこうと思う。

今回モデルとしているのは、だいたい2~300席くらいの公共ホールの小ホールだ。しかも、かなり古い劇場を想定している。
方向を分かりやすくしていくために、方向ごとの照明機材の数を絞っている。

劇場機構としての照明設備について

一般的な使い方に沿って、使いやすく常設されているものがある。
今まで話してきた、8方向+1の角度からの照明は、劇場でももちろん使われている
舞台を使う時の基本的な照明設備が常設(常時設置)してあり、簡単なものであれば、それらを使うことが多い。
そして、舞台の幕の内側(サス中)に関してはある程度自由に照明を設置することが出来る
ただし、舞台前に関しては客席上空となるため、前と斜め前の照明に関しては、それぞれシーリング室(前)とフロント室(斜め前)というように、機材を設置できる場所が限られている。
※現実には、これらが稼働式の場所もあるし、それ自体が存在しないようなところもあるが、それらは劇場機構としては応用編になるので、ここでは割愛する。

劇場なので、空間全体を明るくする必要もあるが、それについてはある程度しか扱わない。(僕が使っているビジュアライザーの限界ともいう)
そして、今回から主演女優のシルバーレディにわき役のシルバーボーイズにご登場いただく。

では、見ていってみよう。
()内は、劇場での呼称。

前からの照明(シーリング)

方向の話で出てきた「前」に相当する照明とは少しだけ違う。
これは舞台全体の明るさを確保するために使われることが多い。

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見てもらって、わかる通り、とても平面的に対象物が明るくなっている。
これだけでは立体感はあまりない。

斜め前からの照明(フロントとかフロントサイドとか)

これも扱いとしては、「斜め前」からの照明というよりも舞台全体を明るくすることが多いものになっている。
ただ、使い方や考え方としては同じことだ。

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横からの照明(ブッチとか、ナナメ地明かりとか)

この横からの照明でベースの明るさを取ることが多い。
舞台上にある物体や人物に対して、斜めから照明を当てることで、明るさを確保して、舞台面(地面)よりも人物などの方を明るくすることが出来る。

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照明には様々な流派があるけれども、僕はこのブッチ地明かり系に属している。

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空間や物体に対しての斜め横からの照明が一番使いこなすのが楽しいものだ。

斜め後ろからの照明(斜めバックとか、単にバック)

斜め後ろからの照明を当てることによって、人物にも舞台面にも明るさを作ることが出来る。
場合によっては、影消しというようなものに使われることもある。

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また、斜めから照明を当てることで、人物や物体に当たっている光が舞台面にもあたるので、空間を色づけたりするのによく使われる。

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真後ろからの照明(バック)

この真後ろからの照明は、単に人物や物体をぼんやり見ているとわかりづらいが、身体のエッジを見せたりするのに効果的だ。

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見えづらいので、ついつい明るくしてしまいがちでになるものでもあるし、使いどころを間違いやすいものである。
かっこいい照明。と勘違いしやすいというのもある。

真上からの照明(トップとか地明かりとか)

人物や物体自体は認識がしやすい明かりとは言えない。
ただ、これとシーリングやフロントを駆使して、綺麗に見せるやり方もある。

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やり方はわかっているけれども、あまり使わない方法でもある。
(正直に言うと不得意分野である)

舞台前の下からの明かり(フットとかセンターのフットとか)

フットライトは、センターにあっても上下の前にあってもフットライトとということが多い。
ただ、これがあると効果的な場面はあるけど、見てわかる通り劇的すぎる。

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なので、使いどころが難しいとも思う。

舞台斜め前の下からの明かり(フット)

センターフットと同様に使いどころが難しいものである。
僕は、ダンスやムーブメントみたいなものを扱う時に、身体の下半身をしっかり見せたい時によく使う。

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どちらかと言うと好きなものではあるけど、これも使い方を間違うと劇的になりすぎてしまって、照明を見に来ている。みたいになるのでとても注意が必要だ。

真横からの明かり(SS(エスエス)とか、ステージサイド、サイドスポットとか)

語源の説がいろいろあるけど、SSと呼ばれることが多い。
演劇よりも、主にダンスで使われるし、僕は使う。

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身体の真ん中エリアを中心に当たるので、身体がしっかり見える。

真横の下からの明かり(SSのフットとか下段SSとか)

名前がいい加減になってきているけど、呼称が安定しないものではある。
SSの下段という言い方をすれば、だいたい通じるから、まぁいいか。くらいのことなのではないかな。

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ダンスの公演では大体使うことがおおい。斜め前のフットと同じで下半身の動きがしっかり見せられる。演劇で汎用的に使うということはあまりない。

舞台斜め奥の下からの明かり(バックフット)

どこから照明を当てているか、ものすごいはっきりするし、身体のエッジを見せることにも使える。

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この辺りから、目立ちすぎる照明が近くなってくる。
斜め後ろから当ててるぞ!
っていうようになってきているので、使い方に注意。

舞台奥の下からの明かり(バックフットとかめつぶしとか)

作品によっては効果的だし、かっこいい照明(笑)が作りたい人は、よく使いがち。でも、これがあると、「いつ点灯するのかなぁ?」って、思ってしまうので、今一つ好きになれない。

照明を後ろから当てていますが何か?
なんなら、照明がまぶしいので目がつぶれますけど?

って、いう感じ。
(今回は台数が少ないから、そうもならなかった。ビジュアライザー(この照明をシミュレーションしてくれるソフトウェア)も、眩しくすると画面見えなくなるしね。)

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と、まあ、ものすごいディスりましたけど。
作品に求められていれば、使います。
どうしても、これじゃないと駄目なんだよな。っていう場面というのもあるし。

劇場でよく使われるのはこの辺りの照明

かなり、僕の私見が多くなったけど、前回までの角度の話を劇場に持って行ったら、こうなるよ。という話でした。
そして、これらを最低限の知識としてわかっていて、ある程度頭の中でこれらのことが扱えないと、デザインは出来ない

なんて言っているけど、僕も照明の基礎的なことが分かる(言葉に出来る)ようになったのは、照明を始めてから大分時間が経ってからだし、なんなら使いこなせていないという実感があるものすら未だにあるのも事実。

なので、とりあえず、舞台照明をデザインしてみよう
って人は、とりあえず、こんなことがあるんだなぁ。
ってことを思いながら、まずは
自分の眼から見て、ではなく観客から見て、どの角度から当てたら一番よく見えるんだろう
って、ことを考えてくれるといいな。と、おもう。

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次は、明るさってなんだろうか。ってことを書こうと思う。

ではでは、今回も長々お付き合いありがとう。

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