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不思議な花泥棒

 私の掃除は朝の水やりから始まる。加熱するアスファルトを少しでもひんやりさせて我が家に熱気が入って来ないように、また通行人の人々にも気持ちよく出勤してもらえたらとの思いも少なからずある。

 今朝も玄関と垣根と道路に水を撒いた。ゴミ出しの日ではないので撒きやすい。雑居ビルが立ち並ぶ隙間に我が家は有った。タバコのポイ捨てや採血の後に貼る絆創膏、朝一のクリニック帰りの老人が処方箋の注意書きと引き換えに皴のあるちり紙を落としていく。ひどい時は使い捨てマスク。その様なゴミ拾いも修行だと思い日々精進している。

 徒長枝の剪定をしようと玄関先にある庭ハサミを取りに行って玄関先に戻ったところ、自転車で通りかかった老婆と目が合った。私は商売人の癖で面識のない人にも反射的に会釈する習慣が身についていた。「おはようございます」と私は小声で言った。お向かいのビルのオーナーかもしれない。私は裸眼だと1M以上離れるとはっきり見えない。「お宅の南天少しいただけますか?」とその老婆は私に近寄ってきた。「いいですよ」と断る理由も思いつかず、図々しいおばばねと思いながらもどんな行動に出るのだろうと観察した。きょろきょろしながら「椿も素敵ですね」と言ったので、思わず「やらないよ」と口が滑ってしまった。その途端に腰で支えていた自転車が道路側に倒れて、前方から来た自転車とぶつかる寸前だった。恐れ慄いた老婆は、自転車を自分で起こし「ありがとうございました」と一言いい残すと南天の葉一枚をお買い物袋に忍ばせて走り去っていった。

 私は朝の雑用を済ませ、一段落して先ほどの老婆が気になったので、防犯カメラの過去の録画をリプレイしてみた。この老婆、二週間前に白薔薇の鉢を盗んだ人物にそっくりだった。

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