見出し画像

【歳時記と落語】旧正月・春節

だいたい、立春の前後三週間のうちに、旧暦の一月一日、つまり「旧正月」がやってきます。2021年は2月12日です。

明治になって新暦を使うようになっても、古い暦の習慣はしばらくは残ってましたが、この頃はすっかりなくなってしまいました。日本以外の東アジアでは、今も古い暦を「農暦」というてちゃんと管理して、伝統的な行事は全部その暦で行なってます。そんなわけで、中華圏では、今でも新暦よりは旧暦の正月の方が華やかですな。あちらでは、「春節」といいます。

画像1

さて、新年のお祝いといいますと、子どもにはお年玉が一番の楽しみですな。あちらにも似たような風習がありまして、「紅包」というて、やっぱり赤地のポチ袋に入れて渡しますが、子供に上げるだけやのうて、会社の経営者が従業員にあげたり、ビルのオーナーがテナントにあげたりというのも行なわれます。

ご馳走ということになりますと、日本では雑煮にお節としたもんですが、重箱に入れた御節が広まったというのはデパートが仕掛けたもんで昔はなかったんやそうですな。そら、家で作って食べるんやさかいね、わざわざつめとかんでもよろしいわな。江戸時代にも重箱に詰めたんはあったんですが、「蓬莱飾り」やとか「食積」と言うて、飾りで食べなんだんやそうです。

この御節は、皆さんご存知のように、一品一品ちゃんと験がかついである。黒豆は、まめに働きますように、数の子は子宝というような感じですな。

中国では春節の料理というても、地方でえろう違うそうで、南の方では魚料理を食べますが、これは「魚」と「餘」が音が通じるんで「年年有餘」、財産が蓄えられるようにという意味で、やっぱり験をかついでます。更に南に下って東南アジアにいきますと、華人の人は「魚生」というて、刺身に野菜の千切りを混ぜて食べます。どうも古い風習が残ったもんらしいという話です。一方、北では「餃子」が縁起物として食べられます。これは餃子の形が昔のお金の形に似てるからやと聞いたことがあります。まあ、普段でも北の方では餃子は食べるんですが、春節のときは、中に硬貨を入れたものを作るんやとか。それに当たった人は一年間儲かるという縁起かつぎですな。

実はこの餃子と似たようなもんが、落語の「正月丁稚」という噺に登場します。

正月なんで、旦那の方は験をかついでめでたい気分でいこうと思うているのに、丁稚の方がそれにことごとくケチをつけてしまします。
「旦さん。何でお正月はこんなお箸使いますので?」
「そら、祝い箸と言ぅて、めでたいときに使う箸や」
「普段の箸と恰好が違いますけど、こら、どういう訳でおます?」
「普通の箸は片一方だけが細うになったあるが、これは真ん中が太い。はじめはどこの家でも身代といぅものは細いもんや。それが段々と太うなる、その太なったところをば、しっかりと掴む。これが人間の運を掴むのんと同じこっちゃ」
「さよか。ほな、ご当家はじめ身代が細かったわけでんなぁ。段々太なってきたんで、今ちょうどここでんなぁ。ほなこれ、先細なってまっしゃろ。ぼんの代になったら細なる」
叱られて、それでも機嫌よう雑煮に手をつけた丁稚ですが、突然泣き出します。旦那が訳を聞きますと、歯が抜けたと言うんですが、落ち着いて見てみると、歯やのうて、五十銭銀貨が出てまいります。
旦那が言うには、毎年餅を搗くときに、五十銭銀貨を十枚放り込んでおく、それが当たったもんは、その年は運がええ、金持ちになるという験かつぎやそうで。金(カネ)と餅で、「金持ち」というわけですな。
ところが、この丁稚、只者ではございません。
「ああ、なるほど。あつ、旦さん。そら、カネの中から餅が出たら金持ちなるか知りまへんで、けど、餅の中からカネ金が出てきたんやさかい、ここの身代持ちかねる?」

この餅の中にカネを入れるというのは、先ほども紹介しました中国の風習と似ていて面白いと思うんですが、調べてみても、まあ遣らんことはなかった遣ろうけど、というような感じでして、一般的風習とは言えんようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?