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生命力そのもの。『その女、ジルバ』有間しのぶ


久保ミツロウさんと能町みね子さんがYou Tubeで紹介されていたので、入手。1巻だけ読むと、わりとよくある「年取っても楽しいことあるよね」みたいな、ファンタジーなお話っぽいですが(でも、内容が濃い)、2巻以降、怒涛の展開に。

テーマは、戦前のブラジル移民と、敗戦前後の詐欺の横行。ちょうど私も、ネット通販にうっかり騙されたばかりだったので、とにかく世の中、詐欺がまかり通って、騙したもの勝ちなのにリアルでも、漫画でも怒り心頭です。もとい。たくましく生きた女性たちに圧倒されます。

主人公は40歳になった笛吹新(うすいあらた)。40歳以上のホステスを募集していたオールド・ジャック&ローズのドアをたたき、シルバーなホステスさんたちが元気なお店で働くようになります。お客さんたちの目当ても熟女。いつもはおばさんと呼ばれていた新が、お店では最年少の「ヤングギャル」になって、接客業のノウハウや、社交ダンス、料理を覚えて成長していきます。

私は有間しのぶさん漫画は初めてですが、絵がかわいらしいし、ストーリーもいいです。そして、それ以上に魅力的なのは登場人物です。熟女なホステスたち、ダンディなマスターや気さくな常連のお客さんたち。彼らが交わす粋な会話が、この漫画のかなりの部分の魅力を占めます。あとは、季節の行事や料理。マンガ食堂さんでもとりあげられているステーキ以外にも、本当にいろんなものがおいしそう!

ベテランホステスさんたちの、それぞれの戦前戦後を生き抜いた話は壮絶だし、タイトルにもなっているジルバママのブラジル移民の話は、本当に想像できないようなひどいものです。でも、最近は例えばアメリカのトランプ大統領が選挙で負けたのに「勝った」と言って、それを信じる人たちが国会議事堂に乱入して……なんて話を見ると、今も昔もニンゲンは変わらないんだなあと、信じたいものしか信じないし、他人を騙して儲ける人たちがいるんだなあとあらためて実感します。辛いけど……

そして、インパクトありすぎるホステスさんたちと一緒だと、地味になっちゃいますが、新の職場のお友達との大人なお付き合いも魅力的です。お互い深入りせず、でも応援しあえる関係って、年齢が上になればなるほど大事ですよね。

日頃はストーリーを楽しむ漫画をメインに読んでいますが、こういう人生のいいお手本みたいな作品も好きです。あっという間に5冊全部読んでしまって、なんだかまだボーッと余韻に浸っている感じ。ちょっと落ち込んだとき、弱気になったときに繰り返して読みたい、エネルギーチャージな作品です。





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