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オーディオブック『黒牢城』

ひさしぶりにAudibleの会員を再開した。宣伝などで知った自分にキャッチなタイトルは、米澤穂信の『黒牢城』。戦国ものは楽しみリストの一つであり、数々の受賞も加えて、かなりの出来栄えの一冊のようだ。全編朗読は16時間超、ほぼ一週間の隙間時間をかけて終わりまで聞き通した。期待に違わず素晴らしい小説だった。

じつを言うと、この作者の作品ははじめてなのだ。どうやら時代小説を専門としていない作家だが、それにしても、落ち着いた物語の展開だった。小説の売りの一つは、主人公たちの会話。さまざまな人物、互いの絡み合う多様な関係、お城の大広間から奥方が中心に動き回る裏の間、人目から隠された土の牢までいろいろと異なる場、それらに合わせて使い分けられた言葉の選び、会話の運び、内容の転換や展開など、感心するぐらい作者の気遣いが行き届いている。そして、オーディオブックだから、それらを汲み取るには、耳にしか頼ることはできない。音声だからの魅力が存分に発揮されるものだ。

一方では、小説の内容としては、戦国乱世における人間群像を描く、というのが一つの狙いに違いない。その点は、必ずしも成功したとは、一読者として物足らなさを感じる。主従関係という一本の筋に、いわば主も従もそれに徹しすぎたという印象は拭えず、どうしても戦国の世だから、戦場だから、侍だからと、安易にステレオ的な捉え方で済まされたと感じてならない。戦国だって人間の世、多様な人間のあり方をもうすこし構築してほしかった。

聞き終えたばかりのこれらの印象の一部をブックレビューにも残してみようと試みたところ、意外と苦労した。レビューへの入り方が見つからなかった。あれこれと調べ、やっとのことで「その他のオプション」の中に位置されたと気づいた。すでに500近いの「リスナーの声」が寄せられているところを見ると、共感を覚えた読者なら自然と声を残すものだとのことの裏返しなのだろうか。

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