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紅茶パルプまとめ

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つのが書いた「紅茶パルプ」作品(2018年11月-12月)のまとめとかです。
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#不穏

黄金の茶

イタリア、ナポリ。 「なあ、そのケーキ残すの? 食うの?」 「……」 男たちが四人、レストランのテーブルを囲んでだべっている。 そのうちの二人は、くだらないことから殴り合いを始め、残る二人は傍観の構え。特にヘッドホンをつけた長身の男は……我関せず、といったふうをはじめからとっている。 時刻は昼下がり、午睡の頃。テーブルの上にはショートケーキに紅茶のセット。エスプレッソの聖地で、コーヒー派が圧倒的に多いこの街でも、紅茶はそれなりに飲まれている。 傍観派の男の一人は、ヘッ

午後のスーチャ

ドルジェは詰め所の倉庫から「午後の紅茶」の大きなペットボトルを取り出すと、銅製の鍋に注ぎ、火にかけて煮詰め始めた。 「なにしてんだ」「バター茶(スーチャ)を作る」「ああ、頼む」 材料は揃っている。磚茶から作るわけでもなく、木桶もミキサーもないので適当だ。バター、塩、牛乳を少しずつ混ぜ合わせ、分離しないよう根気よく攪拌する。一般的な茶というよりはスープだ。だが、これもれっきとした茶だ。栄養も豊富。贅沢を言えば甘みがほしいが、贅沢は言えない。 「初物は、仏様に供える。あとは