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紅茶パルプまとめ

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つのが書いた「紅茶パルプ」作品(2018年11月-12月)のまとめとかです。
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私選 #紅茶のある風景 +パルプ小説#1

「こ、CORONA……CORONAを……く…れ……」 「…俺の、水で良かったら…飲むか?」 「…止めておけ、どうせそいつは…死ぬ。最後までCORONAの夢を見たままにして置いてやれ…」 「……CORONAっ!!あぁ……なんて甘露な…ジュース……」 また一人の男が母なる大地へと還った。 彼は最後までCORONAをジュースだと思い込み、死んで逝った。 その死に顔は安らかだった…。 MEXICOでの戦いは約半月続いた。 CORONAと栄光を手にした者も居る。 だが9割以上のパルプ

【前回のあらすじ】三宅つの、紅茶パルプを振り返る。

おれだ。12月2日、1ヶ月余に及んだnote投稿コンテスト「紅茶のある風景」の期間が終わった。おれたちが迷い込んで生み出してしまった紅茶パルプもこれで一区切りとなる。またこういうコンテストがあり、パルプスリンガーの誰かが目をつければ、やつらはそこへ幌馬車と共に大移動していくだろう。メキシコの荒野があり、パルプ元素が採掘される限り……。 そういうわけで、紅茶パルプのライナーノーツ第二回だ。毎日投下してるわけでもないので、数は多くない。さくさく行こう。おれのスタイル上やむなくき

◆Born in Red Black Tea◆

「見ィーつけ茶」 午後三時。オチャノミズ・スゴイタカイビル中階層の喫茶店は、粉塵と瓦礫にまみれ、静寂に包まれていた。突如として爆発に巻き込まれたこの店に、既に動く者はいない。いや……一人いる。彼は、うつ伏せに倒れていた息のある者を発見して甲高い声を挙げた。出血が酷く、今にも死にそうだが。 「お前が最後だな! 起きろ!」 タキシードに身を包み、黒い覆面をつけた男が、サラリマン風の男の襟首を掴み、引き起こす。彼を救助に来たのだろうか? 否。男は彼の頬にナイフを当て、ペシペシ

アフタヌーン・ティー

(これが「ティー」か……煎じ薬みたいだな) テーブルの並ぶ喫茶室。黒髪の青年は、ティーカップを手にして香りを嗅ぐ。いい香りだ。葡萄酒や麦酒より刺激は少ないが、酔っ払うことはなさそうだ。毒味をする前に、周囲を見回す。 「こりゃ何だ?」 「ああ……角砂糖だよ。シュガー。甘い粉末状のものを固めてある。紅茶の中に入れて、溶かして、かき混ぜて飲む」 「へえ……すげェな。イスパニアのカリフはともかく、フランクの王様の食卓にもなかなかねェぞ。たぶん」 金髪で傷顔の男が、白くて四角いも

無極而太極陰陽茶

サイクリングで小腹を空かせ、たまには小洒落た喫茶店などへ入ってみる。チリンチリン… 古めかしい木のテーブルが並び、珈琲や紅茶の香りが漂い、ショーウィンドウでケーキを選べる。うん、いい感じ。時間帯的に、客は少ない。慣れない客であるおれが忍び込むにはちょうどいい雰囲気だ。 「いらっしゃいませ。」 少し奥の席に座り、コップの水を舐め舐め、メニューを矯めつ眇めつ。はてさて、何にするか。いまいちアイディアが浮かばない。 珈琲か、紅茶か。ジュースはちと寒い。暖かいものがいい。というか

【これまでのあらすじ】三宅つの、紅茶パルプを書く。

おれだ。もう知ってるだろうが、noteでは11月1日の「紅茶の日」にあわせて、「紅茶のある風景」というタグでそういう作品(エッセイ、小説、イラスト、漫画など)を募集している。12月2日までだ。賞金と賞品も出る。 ハッシュタグをジャラジャラつけていると、そういうのも目には入る。どうせハイソなバターコーヒー野郎どもが紅茶にバターを入れて喜ぶような集まりだろう。おれはそう思って、特に興味も抱かずにいた。 だが……なんたることか、逆噴射小説大賞が終わった10月31日、ハロウィンの

蒼天紅茶

漢都・長安。その宮殿。魔王と天子が庭を見下ろす。 「あれがおまえの……朝の紅茶だ」 グアアアアアアア ギィャアアア絶叫が響く。屈強な男たちが、罪人の…………紅茶を淹れているのだ。 「皇帝・劉協よ。おまえには完璧な紅茶を与えてやる」 ◇ しばらく後。短剣を持った屈強な男が、涎を垂らして笑いながら、裸に剥かれた罪人の眼き……紅茶を淹れている。 ブチチ グリグリ 「グギィ!」 別の男は舌……紅茶を淹れている。腕……紅茶を淹れている。 ぎゃああああああ絶叫が響く。百官

黄金の茶

イタリア、ナポリ。 「なあ、そのケーキ残すの? 食うの?」 「……」 男たちが四人、レストランのテーブルを囲んでだべっている。 そのうちの二人は、くだらないことから殴り合いを始め、残る二人は傍観の構え。特にヘッドホンをつけた長身の男は……我関せず、といったふうをはじめからとっている。 時刻は昼下がり、午睡の頃。テーブルの上にはショートケーキに紅茶のセット。エスプレッソの聖地で、コーヒー派が圧倒的に多いこの街でも、紅茶はそれなりに飲まれている。 傍観派の男の一人は、ヘッ

午後のスーチャ

ドルジェは詰め所の倉庫から「午後の紅茶」の大きなペットボトルを取り出すと、銅製の鍋に注ぎ、火にかけて煮詰め始めた。 「なにしてんだ」「バター茶(スーチャ)を作る」「ああ、頼む」 材料は揃っている。磚茶から作るわけでもなく、木桶もミキサーもないので適当だ。バター、塩、牛乳を少しずつ混ぜ合わせ、分離しないよう根気よく攪拌する。一般的な茶というよりはスープだ。だが、これもれっきとした茶だ。栄養も豊富。贅沢を言えば甘みがほしいが、贅沢は言えない。 「初物は、仏様に供える。あとは

さっきの紅茶小説はマジでついさっき思いついて書きました。紅茶エッセンスを注射するシーンは前から考えてましたが、なんかゾンビが来たのでゾンビものにしました。ルールや主人公の行動は即興です。GUNの熱を感じます。

マッド・ティーパーティー・オブ・ザ・デッド

「フーッ……」 紅茶エッセンスを静脈注射し、オレは溜息をつく。時計を確認する。午後三時。ここが下水道の奥底で、地上をゾンビどもがうろついてなきゃ、優雅な午後のティータイムだ。 英国、ロンドン。ここはもはや生者の都じゃない。晴れない霧で閉ざされた市街地を、数百万のゾンビがうろつく地獄だ。数日前の午後三時、突然それは襲ってきた。テロリストのウイルス攻撃か、悪魔の呪いか。パニックの中、誰もなにもわかっていない。外へ脱出しようとした奴らは、霧にまかれて戻ってきた。出られないのだ。