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【FGO EpLW ユカタン】第六節 カウント・ミレニアム・ゼロ 下

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「虚仮(コケ)にしおってェぇえええァァァァア”ア”!!!」

ルーラーの怒号が響く! 偽りの修道院の中庭を、炎と矢の雨が荒れ狂う!
瀕死のマスターを背負ったランサーが向かうのは、この特異点を作り出している『聖杯』! それを奪うしか、この場を生き残る術はなし!

「ここはアタシが……引き受ける!」
アサシンは駆け回りながら縄を伸ばし、回廊の柱へ張り巡らせる! そこから数十本ずつ縄が伸び、兵士どもを吊り下げていく!
だが、シールダーはもはや限界が近い! 盾ばかりか、本体がノイズに包まれ、形をとれぬ! もう一発あの炎を受ければ、おしまいだ!
「貴様らから消えるがよい! 御父よ、御子よ、御霊よ、御力を!」
ルーラーが構える! アサシンがシールダーの影から縄! 発動より先に仕留めるか! だが縄は届かず、途中で焼き払われる!

「『虚栄焼却(ファロ・デッレ・ヴァニタ)』!!!」

「◇◇◇◇◇◇◇◇◇0110101000110101・・・・・・

◇◇

「キャスター殿! 聖杯はどこだ!」
『そこの角さ曲がれ!』

ランサーは、キャスターを被ったマスターを背にして修道院を駆け抜ける。時間がない。マスターの呼吸と心拍は、今にも止まりそうだ。キャスターが空気中から魔力をかき集め、マスターに供給する。無理やりな術でごく僅かだが、こうでもしなければ死んでしまう。マスターが死ねば、全ては終わりだ。魔力の塊である聖杯を敵から奪い、生命力を取り戻させる。それで勝利だ!

キャスターは思考する。ここは、フィレンツェのサン・マルコ修道院を模した結界だ。そして、あのサーヴァント。天使の翼を背負った、黒衣の修道士の顔。奴のセリフと宝具の名。過去の知識から組み上げるに、彼こそは『ジロラモ・サヴォナローラ』。この修道院の長であった、ルネサンス時代の宗教家。であれば、彼が聖杯を置くべき場所は一つ。サン・マルコ修道院の奥、彼の部屋であった修道院長室! その真下!

「……どこだ!」
『……あンれ?』

ない。そればかりか、ここは修道院の外だ。明るい。家屋がひしめき、道には石畳。屋根の彼方に、大きな赤いドーム建築が聳え立つ。
ここは……フィレンツェだ。真昼の、フィレンツェの街中だ。人影はないが、明らかにそうだ。幻覚か、固有結界か。

「急げ! マスターが死ねば、我らも消える!」
『……真っ直ぐ、あのドームさ目指せ! 大聖堂だ! あそこでねえなら、さらに先……』

言い終わる前に、街中から黒い修道服を着た不気味な少年たちがわらわらと現れ、道を遮りナイフを構える。市民を監視し、贅沢を禁じた「サヴォナローラの子ら」だ。聖杯の番兵というわけだ。ならば、この先!

『……ともかく、突っ切れ! 時間がねえだ!』

◇◆◇◆

先程以上の爆炎が、一階と中庭を舐め尽くす! アーチャーはたまらず屋根へ退避するが、外にいた兵士らは縄ごと焼き払われる!
そして――――炎がおさまった中庭に立つのは、ルーラーと……巨大な十字型の、盾
「これ……は……!?」
盾の陰に、女が二人。一人はアサシン、そして、もう一人は―――――
『真実』を焼くことは、出来ません

アサシンもルーラーも、あっけにとられる。これは、この少女は、シールダーか。表面が焼き払われ、真の姿を取り戻したか。
ルーラーは愕然とする。ああ、十字架を焼くことが、己に出来ようか。十字架が「火の試練」を受けて、燃えることがあろうか。忌々しいことだが、この盾は「真実」だ。十字架と聖杯の力によって祝福された本物の聖遺物だ。「虚栄」では、ない!
「あ、ああ」
呻き、よろめき、後じさるルーラー。その顔から狂気が去り、怯えと畏怖と、敬虔さに満たされる。

◇◇

『ここだ! この井戸に、おらごとたたっこめ!』
「応!」
ランサーは敵を振り切り、道を駆け抜け、シニョリーア広場に到達! そこには噴水もダビデ像もなく、井戸が、セノーテがある!
聖杯は、この中!ランサーは背中の縄を解き、気絶したマスターを米俵めいて抱え上げ、投げ落とす!

イヤーッ!

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……ンだよ、もうちょい寝かせてくれよ。あのバイトは昨日辞めただろうが。俺はこれからバカンスなんだぜ、南の海でかわいこちゃんと…………――――ああ、違う、そうじゃねぇ。

今いるのは、水の中だ。目を開くと、水底の泥の上に無数の人骨。暗闇の中なのによく見える。見渡す限り骨だらけだ。新鮮な死体や、なんか人間以外の巨大な骨もあるようだが……。

――――来たか――――

脳内に、嗄れた声が響き渡る。誰だ。ああ、来てやったぜ。ここはどこだ。

――――九層冥界の底、ミトナル……じゃ―――

あの世かよ。じゃあ、お前は誰だ。

――――虹の女神―――

突然、水底の泥から、無数のカラフルな蛇が出てきた。それが寄り集まり、絡み合い、巨大な老婆の顔となる。サイケデリックなババアだ。

――――わしは『イシュチェル』。そなたの連れておるイシュタムの女主人じゃよ。西の方ではコアトリクエとも、シワコアトルとも呼ばれておる……――――

あいつの上司か。自己紹介はいい。困ってんだ。俺はこんなとこで死んでるわけにゃいかねぇ。俺が死ぬと、人類がどうとか……。

――――死なせはせぬ。わしを『聖杯』から解き放て。されば、力を貸そう―――

どうやんだ。おいキャスター、なんとかしろ。

『簡単だ。お前さンの願いを言うだ。このままだと、お前さンは死ぬ。死にたくねぇ、と心の底から願うだよ』

そりゃ簡単だ。これまでどれだけ、そう願って来たか知れねぇ。こんなところで、わけもわからず、死んでたまるかってんだ!!

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どう、と井戸から水が噴き上がり、虹が天へ伸びる。偽りのフィレンツェの街が洪水に呑まれ、消えていく。たちまち修道院の中庭が水びたしになり、ずんずんと水位が上昇する。あっという間に膝まで、腰まで水に浸かる。
ルーラーの周囲の炎が、水に触れて消えていく。ただの火ではない火を消す水は、ただの水ではない。

「これ、は」
「あハ、聖杯をあいつが頂いちまったみたいだねェ」
「…………!」

ルーラーの翼が、ボロボロに錆びて、崩れていく。修道院の建物がぐらぐらと揺れ、沈み始める。聖杯の力を失ったのだ。アサシンがそれを見て、勝ち誇って嗤う。イシュチェル婆さんが解放され、体中に魔力が漲ってきた!

  「イシシ。それじゃァ、ここでお別れと行こうか。あんたの大好きな『天国』へ行かせてやるよ、天使の坊さん。異教徒の楽園だけどさ!」
アサシンの首から黒い縄が襲いかかり、ルーラーの全身を締め上げる。手足を縛り、目を覆い、顔を覆い、首に絡みつく。

「『奇妙な果実(ストレンジ・フルーツ)』!!」

「AAAAAAAARRRRGGGGHHHHH!!!!」

おぞましい快楽が、ルーラーの魂を、精神を脅かす。生まれ、育ち、生き、学び、働き、説き、そして……死んだ記憶が蘇る。
あの時、私は、主を信じきれなかった。拷問に屈して、主の声を聞かなかったと言ってしまった。それは罪だ。確かに聞いた、はずだ。啓示を。主の剣が地上に振り下ろされ、キュロスのごとき王が山を越えて来たり、腐敗した教会の革新を行うと。悪しき教皇は廃され、十字軍が聖地を奪還し、最後の審判が、千年王国が、終末が訪れると。主はそう言われた。民衆は、ロレンツォ・ディ・メディチを失ったフィレンツェの民は、その声に聞き従った。悔い改め、神の国を求めた。私は、主のために、民のために、よきことをしたはずだ。フランス王シャルルと民衆が、私を、主を裏切り――――

「主よ、みもとに……この命を、主のために……」
か細い声と共に、ルーラーの姿が薄れ、消える。シールダーが盾を小舟代わりに使い、アサシンと共に水上にあがる。
「終わったよ。魂は、喰っちまった。英霊としてのデータは、座に戻るンだろうけどね」
「……まだ、います」

沈みゆく修道院の屋根に、アーチャーが立つ。シールダーがシールドを展開する。アーチャーは弓矢を構え……ふと笑い、下ろした。
「やめておこう。我らの負けだ」
言い捨てると、アーチャーは屋根から飛び降りた。ライダーの操る、船の甲板へ。

◇□◇

カルデアのダ・ヴィンチは、どっと腰を下ろす。彼らの勝利だ。そしてマシュが、シールダーとして復活した。
そうだ、真実を、その概念を、誰が焼き滅ぼせるものか。焼き滅ぼさせてなるものか。人理焼却を阻止するために、我々は尽力してきたのだ。
そしてあの子には、マシュ・キリエライトには……。

ケァハハハハ! 『真実』だとよ! 何が真実だってんだか……信仰? あんなもん、所詮は思い込みの嘘っぱちだろうによ! なぁおい!?」
唐突にサライが嗤う。同意を求められても困るが、答えてはおこう。彼の思考の一端を推察するために。
「……彼に、サヴォナローラにとっては、真実だった。我々にとっても、マシュにとっても。真実とはそういうものだ。各人の、心の中にある」
「月並みな、つまらねぇ答えだ。俺にとっちゃ、その心こそ、嘘っぱちの最たるもんだがよ」

低い声で呟き、少し沈黙した後、サライは続けた。
「さて、今までのはほんの序の口だ。もうしばらく、俺の暇つぶしに付き合ってもらうぜ。観客として、観察対象としてな。せいぜい一喜一憂して、人間らしさ(ヒューマニティ)を見せてみろい!」
「ああ、受けて立つさ、天使殿」
そう言って振り返ると、サライは消えていた。立方体に戻ったらしい。次の準備というわけか。

◇□◇

「アサシン殿! シールダー殿! 無事か!?」
入れ替わりに、ランサーの声。肩に気絶したマスターを担い、水が溢れ出した辺りから泳いで来た。アサシンは縄を伸ばし、彼らを盾の上に救い上げる。キャスターはマスターが被ったままだ。

「アタシらは無事だよ。シールダーもご覧の通り、一皮むけたみたい。そっちのマスターは大丈夫かい」
「無事だ。聖杯を獲得し、蘇生させた。魔力も戻って来ている」
「良かった良かった。天使野郎はアタシがぶっ殺したよ。アーチャーとライダーは、逃げたかな……」

しかし、洪水は収まる気配がない。シールダーの魔力により盾の小舟が沈むことはないが、あんまりにも狭すぎる。修道院はもう水の底だ。
ライダーが陸上に展開していたガレオン船が、とうとう水上に浮かびだした。甲板の上に、アーチャーとライダーがいる。

「どうするね。こいつが聖杯を手に入れたんなら、この特異点はそろそろ消えちまうんだろ……」
「そのはずですが、まだ我々に転移の気配がありません。残ったサーヴァントをどうにかすればいいのか、あるいは……」
『このまま、ライダーの船に向かうがええだな。乗せてもらおう』
「へっ、乗せてくれるかねェ……ま、ちょっとの間だ。力ずくでも頼んでみますか!」

アサシンが、縄をガレオン船に伸ばした。アーチャーとライダーは、それを見つめている。

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