瘋狂 Part1


この宇宙のほとんどは、わたしのいない時間でできている
かつて、わたしの生きていた時間があったと
もはや過去のこととして、いまそう断言したっていい
全てのものに終わりがあるとしたら
全てのことはどこかでもうとっくに終わっているのだ
わたしたちは皆、そこに向かう
なにもかも約束の下に束ねられ
なにもかもがたったひとつの言葉からできていて
なにもかもがその変奏である
その限りにおいて
この宇宙はたったひとつであり
まあ、よく言ってちょっと高度なレベルで折りたたまれたしつこい一筆書きでしかない
皆の眠れぬ夜から織り上げたタペストリーは結局のところ一本の糸でできていて
眠りと言うのはその隙間にあるどこまでも深い闇である
いちど織り込まれたものは、さかのぼってほどくことはできないが
その先を織っていく間にほころびたり、ひっかけられたり、ねじれたりすることはある
(まさに時間と言うものはそのような姿をしてはいないか?)



不機嫌なタグを世界中に貼り付けろ
不気味に潜在化しろ
不穏な空気で充満させろ
不可能から不可能を産み出せ
不思議な城に俺たちの旗を立てろ
不断の努力は放棄しろ
不能のまま何度も何度も挑め
不意打ちには最大限の驚愕で返せ
おれは生まれつき生命という名の不治の病にかかっている
不埒で不束な花束だ



命の日記
ろくでもない十年とさらにろくでもない十年
短い人生だからこそぎりぎりまであがいてやる
いまだかつて死を経験したことの無いわたしたち
肩を寄せあい
時という猛威をやり過ごそうとする
都市という名の
人の営みを
すべて飲み込んでおおきくふりまわし
破壊と破滅をもたらす数珠繋ぎの惨具にしたい
怒りと笑いの感情が
いつまでたっても拭い去れないのだ
この息苦しさと破裂への欲望は
わたしの理性をめちゃくちゃにするのに充分だろうか
いつだって飛び込んでやる
狂気がフィルター無しに世界と向き合うただひとつの方法と知れば
その時にこそ
わたしはすべてを脱ぎ捨てて
もう二度と帰ってくるつもりは無い



神がいなくても
だれもが潔くふるまえるのであれば
そのときこそ
この地上から宗教は消えてなくなるだろう
ひとりひとりの言葉のかけらが
どれが優位と言うことも無く
世界の姿そのものを紡いでいき
そのたおやかな手技だけが
競われ賞賛を浴びるような
自らがひとときまさに世界そのものであることに
生きている意義を見出すような
君の命を
永遠のすれ違いとみなすか
ゆるぎないただ一度の出会いとみなすかで
覚悟はずいぶんと違ってしまう
魚群のような素朴さとつつましさで
共にすばやく移動する
もう誰に従うことも
誰に惑わされることも無く



ぼくらの目にする、通りのあちこちにこびりついている残像は、目の錯覚なんかじゃなく実体があって、それがエネルギーの残滓で出来ている以上、ぼくらの存在と同じくらいにはリアルで、どちらも常に過去に捉われ、未来に置き去りにされていて、結局のところどちらにもたいした差は無い
気がつけば簡単にすりかわってしまうほどに希薄な意思
どうやらぼくらははじめから記憶の中にだけ存在するみたいだ
ほんとうはもっと計り知れなく恐ろしいのが生命なのに
ぼくらは自らそれを矮小化して等しく価値の無いものに成り下げた
それが文化や文明というのならおまえらの企みはいったい何だ?
何からぼくたちの目を逸らそうとしているのか
こうしてぼくらの限りない生命は今日も進化のシステムに戦いを挑む

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