許せない言葉裁判

山手線の最終電車はカオスだ。乗っている全員の会話が混沌としている。
もはや若者とも言えない30代の男女四人組の駄話に聞き耳を立てていると、「バブみ」という言葉が耳に飛び込んできた。

「あの子まさに『バブみ』を感じるよね」
「なんなんそれ」
「え、『バブバブしてる感じ』でしょ。幼いっていうか」
「なるほどね」

僕は「バブみ」という表現がどうも受け付けない。語感の頭の悪さがなんだか許せないのだ。
「なんだか嫌い」というのは不親切だ。
具体的に見ていこう。

「母性を刺激する」という堅苦しい言葉を、赤ん坊の泣き声「バブ」という一般的な認知度の高い擬音語を使うことによってキャッチーに変換している。
もし自分がこの言葉を発明していたら、意気揚々と声高に広めていただろう。だって流行りそうだし。俺が流行らせたんだぜってドヤりたいし。

問題なのは、僕が創り出した言葉でないということだ。
ある種の嫉妬なのかもしれない。断じて認めないけれど。

まだ女子高生が使っているのなら許せる。JK流行語ランキングを見ても、彼女らは別の文化圏に棲んでいることがわかる。
自分に関わりのない文化圏の話題は分からないのが常だ。

昨年上半期のJK流行語ランキングを覗いてみる。

1 あげみざわ
2 あざまる水産
3 ないたー
4 クセがスゴい
5 いい波のってんね
※2018年6月 JCJK調査隊調べ

JCJK調査隊なんて、なんとも胡散臭い名称だ。
どうせ上原亜衣孕ませ隊とかと同種のオッサンたちだろうと考えて調べてみると、『椎木里佳が中心となって〈世界に日本のJKのかわいい文化〉を発信する総勢50名の女子中学生・高校生の集団』とあった。
胡散臭いことに変わりはなかった。

この中で異彩を放つのが4位の「クセがすごい」だ。
千鳥ノブの言い回しは汎用性が高いのか、女子高生のみならず男女を問わず大学生も使っている場面によく遭遇する。

もちろん、千鳥自体は大好きだ。
THE MANZAIもピカルも見てたし、最近は相席食堂おもしろいよね。
ただ、千鳥を真似する大学生には反吐が出る。なぜそれほど有名なフレーズを自信満々に言えるんだろうと疑問に思うことが多々ある。
それはお前の手柄じゃなくて、7年ほどかけてやっと獲得した千鳥の東京における「床暖」の結晶だ。デカい顔をするな。
せめて、「使わせてもらってます」くらいの謙遜の顔を見せろよ。いや、それはそれで鼻につくか。

一時期、「イカ2貫」のフレーズが流行っていた時があった。
「クセが強い」の汎用性の高さはまだ分かる。勘違いしたボケを放り込んできた輩に対して、とりあえずこのキラーフレーズを放り込んでおけば、ひとつの知識の共有といった類の笑いが起きるというギミックがある。

ただ、「イカ2貫」は別だ。
日常会話において、いつ「イカ2貫」が成立する適切な場面があるだろうか。漁師か市場の人でもなければ、そんな場面は存在しないだろう。

よって、「クセがすごい」「イカ2貫」は許せない言葉裁判で有罪とする。

他のJK流行語については無罪とする。
「あげみざわ」に目くじらを立てるのは野暮だ。
うん。けみお好きだよ。けみお。
皆さんはけみおの「どこまでいっても渋谷は日本の東京」のPVを見たことがあるだろうか。
ただただチープな背景の前でけみおがリズムを取る。バナナを剥く。変顔をする。バナナを剥く。ヒキの画で撮る。スタジオの背景も映り込む。バナナを剥く。リズムを取る。バナナを剥く…

ギャグなのか?

とりあえず訳が分からない。「ダサい」と「可愛い」はもはやシームレスだ。
この文化圏に喧嘩を売るのは野暮だと再確認する。「あっち側」の人からしたら、「こっち側」で言うジャルジャルをディスるようなものだろう。
「分かってないんだな、こいつらは。可哀想な親父だね☆」
そう思われるのは癪でしかない。
お互い仲良くいこうぜ。無罪。

話は変わるが、最近「変人」を形容する時に「サイコパス」という言葉を使いすぎではないだろうか。

「クセがすごい」と同じく、汎用性の高さ故だろう。
だが、「変人」然としている人は心中穏やかではない。
彼らは「変人」ではないのだ。頑張って周りの友達の意図を裏切る行動で笑いを取ろうとする。なのに、嘲笑うかの如き「サイコパス」一点張りでは彼らは報われない。

検索してみる。

サイコパスの定義
・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的

『PSYCHO』(1960)という映画の流行によって、「サイコパス」という言葉は一般的な市民権を得たのだと記憶している。
この映画内でのPSYCHOはホテル経営者の青年。母親を溺愛しすぎた故、母親とその再婚相手の男を殺し、そのストレスから自身の中に母親の人格を閉じ込めてしまい、二重人格となる。結果、なんだかんだ泊まりに来た女性客も殺してしまい、そこから足がつき警察に逮捕される。

彼は正真正銘のサイコパスである。
自分勝手な理由で3人も殺めるなんて常軌を逸している。確実に阿曽山大噴火が裁判を傍聴するだろう。

対して。

お調子者の友達の矮小な飯事を、ちょっとした生活のエッセンスを、「サイコパス」と片付けるのはやはり合点がいかない。
有罪。

最終電車の小田急線各駅停車は空いている。
もうすぐ最寄り駅だ。

きょうの判決
有罪
バブみ/クセがすごい/イカ2貫/サイコパス
無罪
あげみざわ/あざまる水産/ないたー/いい波のってんね

#日記 #コラム #エッセイ #裁判 #若者言葉

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