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Creepy Nuts/よふかしのうたの歌詞考察

8/7にCreepy Nutsのミニアルバム「よふかしのうた」がリリースされる。

オードリーのANN10周年全国ツアーのテーマソングとして書き下ろされたこの曲は、MVでも存分にリトルトゥースしか分からない小ネタをぶち込みまくって一部を歓喜させた。
楽曲が完成して、Creepy NutsがオードリーのANNにゲスト出演した時のやり取りは公式HPに一部が取り上げられているのでそちらを参照してほしい。

また、今回のアルバムの表題となったことで改めて歌詞を見返してみた。すると、案の定いろいろな仕掛けが見えてきたのでそれを見ていこうと思う。

Creepy Nuts/よふかしのうた

よふかしのうた
照らしてってmoonlight
目を奪ってブルーライト
ネオンサインが呼ぶ表裏
よふかしのうた
連れ去ってmidnight
血走ったredeyes
大人達の子守唄
なんせ俺達の夜は忙しい
Keep on dancin'
さぁ鬼の居ぬ間に
俺たちの夜は忙しい oh yeah
なんせ俺達の夜は忙しい
Keep on dancin'
さぁ鬼の居ぬ間に
俺たちの夜は忙しい oh yeah

夜に魅せられた大人が、ネオン街の月夜の下、スマートフォンを弄っている。
表では夜な夜な派手などんちゃん騒ぎが繰り返されているなか、主人公は陰キャラ的な指向だ。それでも、「夜は忙しい」とその状況を肯定的に捉えている。むしろ、鬼(=陽キャラ)たちが遊びに興じている間にやりたいことに打ち込めて充実感さえ覚えている。

「よふかしのうた」というタイトルがひらがなになっている。
オードリーのANNを模した歌なので「夜更かし」から来ていることは間違いないだろう。しかし、敢えてひらがな表記にしている+ラジオリスナーの社会不適合者が題材ということは、「世(を)不可視」という意味も込められているのではないか。
「うた」部分について、「歌」に加えて、Creepy Nutsにラッパーとしてもラジオパーソナリティとしても大きな影響を与えたRHYMESTERの「宇多(丸)」要素もあるのではないか?と邪推した。しかし、このリリックの中にRHYMESTERからのサンプリングは認められなかったので深読みしすぎだったのだろう。

「redeyes」とは赤目、つまりはクスリでハイになった状況を指すことが多いが、この場合は単に寝不足で目が充血しているのだろう。
また、英単語としての「redeyes」は、飛行機の夜行便のことを指す。飛行機前方の赤い光を目に模しての表現とのこと。これは、「板の上の魔物」リリック内の

ナイトフライト 夜間飛行
(板の上の魔物より抜粋)

に通づるところがある。前作・「クリープ・ショー」でも、前後の曲ごとに言葉遊びが多々見られたが、今回はさらに進化している。

そして、「Keep on dancin'」について。
オードリー若林の中学時代の渾名は「木保(きぽ)」である。さらに、若林の著書『社会人大学人見知り学部卒業見込み』が韓国にて発売された際、オードリーが「オドリ」と表記されていた(ハングルに「ー(長音符)」の表記法がないため)ことから、「オードリー→オドリ→踊り→dance」となり、オードリーに絡めた歌詞なのではないか。

韻について。

moonlight[múːnlàit]」「ブルーライト[blúː làit]」「midnight[mídnὰɪt]」「redeyes[rɛ́dáɪz]」と脚韻。4小節ごとの区切りの中で、2,3節目のケツで綺麗に[ài]で踏んでいる。

また、1,4小節目では、「うた」「表裏」「子守唄」と[ooeua]で踏んでいる。
「子守唄」の「り」も[æ]のような発音にすることで、違和感なく五文字全踏み感が出ている。

忙しい」「Keep on dancin'」「間に」と[ioai]で返し韻&脚韻。

Verse 1へ。

ガキの頃から夜が好きだった
九時に寝るのはなんか嫌だった
なんとなくただ勿体なかった
お前のことがもっと知りたかった
いわゆる三文の得(徳)
投げ売ってでも見たいのさ もっと奥の奥の奥
色濃く紐解く
12オクロックから丑の刻まで

思い返してみれば、子供の頃から夜に魅せられていた。 9時以降の夜にこそ面白いテレビ番組をやっているし、早起きなんかより夜更かしの方が価値のあるものだと思っていたと宣言している。

このリリックの間に9,3,12と三つの数字が出ているので、9から遡って数字を潜ませているのではないか?という仮説を立てた。

【九=9】時に寝るのはなんかい【や=8】だった
【なん=7】となくただ【もっ=6】たいなかった
お前の【こ=5】とがもっと【知=4】りたかった
いわゆる【三=3】文の得
投げ売ってでも見たいの【さ=2】
もっと奥の奥の奥
【い=1】ろ濃く紐解く
【12】オクロックから丑の刻まで

数字を遡って0の代わりに12に続くのは、時計を模しているからだろう。

6と2はかなりこじつけくさくなってしまった。
ただ、両方とも漢数字の読み方を検索した結果出てきたものなので一応成り立ってはいる。2を「さ」と読ませる単語なんてひとつも思い浮かばないけど。

ちなみに「【=1】ろ濃く【=1】も解く」と読み方の時代を超えて意味で踏んでいる。

また、「早起きは三文の徳」という諺は「得」ではなく「徳」の字を充てることが主だ。
一応、日本の語義的にはどちらも正しいらしいが、この場合は
・早起きで「徳」を積むのは馬鹿らしい
・早起きで少しばかりの「得」なんて必要ない
という二つの意味で推敲した結果、後者を表記を選んだのだろう。

また、「投げ売って」という表記は、本来「擲つ」と漢字を当てる。
これに関しては誤植では…?と思った。

韻について。

「好きだった」「嫌だった」「なかった」「もっと知りたかった」と[a/a]で脚韻。後半ふたつは[mo/t]でも踏んでいる。優等生の韻。

」「」「奥」「奥」「オクロック」「丑の」と[ou]で細かく踏んでいる。
また、その中で「色濃く」「紐解く」は[ioou]でも踏んでいる。

初めてお前を跨いだのは、
いや初めて跨ったのは確か14
俺は何も知らねワナビー
手取り足取り全てが新しい
姿形にその香り
静けさが似合うその黒い肌に
吸い込まれてた 手招きされるままに

12時から丑の刻の深夜の遊びに踏み入れたのは14歳の時だった。まさに中学二年生、中二病と呼ばれる多感な時期の神経をビシビシと刺激してきた。その「黒い肌」をした得体の知れない物体に誘われたワナビーは、あっという間にそれに染まっていった。

「跨いだ」という能動的な表現ではなく、偶発的に「跨った」という受動的な表現。
14歳のころの「お前」との出会いは偶発的なものだったのだろう。この歌に出てくる「お前」は夜のことを擬人化している。

韻について。

跨いだ」「いやはじめて」「14」「ワナビー」「あたらしい」「姿」「香り」「肌に」「ままに」と[aai]で踏んでいる。
「香り」の「お」は[œ]の発音で[a]に寄せている。加えて、「手取り取り」の[oi]部分にも繋げており、二重に韻が絡んでいる。
「のはたしか」「俺はなにも」の部分にも[aai]は見受けられるが、発音的に意図したものではないと判断した。

また、「がた形にの香り ずけさが似合う の黒い肌に い込まれてた」と[s]の頭韻が隠れている。

それからお前は音楽をくれた(し)
女の裸も見せてくれた
飲んだことねぇ酒に口つけて
オトンのタバコくすね火をつけた
やっちゃいけないが溢れて
知っちゃいけないに塗れてる
迎えに来る闇に紛れて
お前はいつも気まぐれで…

夜は、新しい音楽やエロ動画、酒にタバコに誘惑が多い。思春期真っ盛りの14歳には刺激が強すぎる。そんな気まぐれな夜はいつも違う一面を「俺」に見せてくれる。

先ほど、時計の針が12まで遡ったが、再びその針が動き出す。

オ【トン=10】のタバコ【く=9】すね 火をつけた
【や=8】っちゃいけないが溢れて
【しっち=7】ゃいけないに塗れてる
【む=6】かえに来る闇に紛れて
お前は【いつ=5】も気まぐれで…

では11はどこにある、と探してみるが、なかなか見つからない。
日本語以外の読み方で11を検索してみると、一応、「手取り足取り全てが新【しい=11】」と中国語読みの11が「シイ」だとヒットしたので、本稿ではこれを以て11だと捉える。
ただ、これはほぼほぼこじつけでしかない。他の考察があれば教えて欲しい。

韻について。

前は」「楽を」「おんなの裸も」「飲んだ」「オトン」と[o]でかなり強調しながら頭韻している。

くれた」「くれた」「つけた」「あふれて」と[uea]で脚韻。

続けて、「塗れてる」「紛れて」「気れで」と[aiee]で脚韻。

ここでHOOK。

よふかしのうた
(中略)
なんせ俺達の夜は忙しい
Keep on dancin'
さぁ鬼の居ぬ間に
(後略)

HOOK前までに数字は5まで遡ったわけだが、ここにきて完結する。

【よ=4】ふかしのうた
(中略)
【さぁ=3】お【に=2】の【い=1】ぬ間に

Verse 2へ。

晴れて大人の仲間入り
我が物顔で朝帰り
腫れ物触るよな周りの目に中指立てども空回り
暗い部屋 照らしてよブルーライト
視力低下に体力低下
認めたかないがお前のせいさ
起こさないでティーチャー
I'm a day dream believer

時は経って、夜更かし、つまりは大人の世界に入り浸ることにも慣れてきた高校生・大学生の頃の話。
深夜に遊び回り朝帰りを繰り返すことは当人にとっては当たり前でも、周りからは「社会生活からドロップアウトした可哀想な奴」としか見てもらえない。おそらく、この文脈で言う「朝帰り」とは、繁華街やホテル通いではなく、深夜に自分の部屋で行われている「大人の遊び」に興じて、やっと朝になってそれを止めるということではないだろうか。ここは、オードリー春日のANN内のエロパソトークと通ずるものがある。
そんな様子だから、体内時計を狂わせるスマホのブルーライトに侵された彼は、学校では授業中ひたすら寝ているし、当然視力もガタ落ちしていく。

「day dream believer」とは白昼夢にふける人、夢想家のような意味を指す。(ただ、本来の表記としては「daydream believer」と二単語)
これはThe Monkeesというポップバンドの代表曲で、忌野清志郎がカバーしたものがセブンイレブンのCMに使われている。
セブンイレブンとは24時間営業であり、「大人の活動帯」である夜も煌々と照明を焚いて営業している。そんな姿と自身を重ねて「I'm a ~」と歌ったのではないか。

また、「ティーチャー」だけカタカナ表記である理由を考える。
これは、「ティー」がオードリー春日の春日語での自身の呼び名(プロ野球スピリッツのトークより)であることから、先述の若林要素(木保)、オードリー要素(dancin→踊り→オードリー)とバランスを取るためにここに捩じ込んだのでは…?
と考えたものの、これは違う気がした。

韻について。

晴れおとな」「腫れものさわる」と[aeooa]で1,3小節は頭韻している。

仲間入り」「朝帰り」「空回り」と[aaa(e)i]で脚韻している。
「仲間入り」は[aaaæi]と、[e]に寄せて発音しているものの、「空回り」はそのまま読んでいる。しかし、一音目、三音目、五音目にそれぞれアクセントを置いているため、そこまで踏み外していることは気にならない。
また、4小節では、「腫れ物さわるよなまわりの目になかてどもからまわり」と[aa]を連打している。

部屋」「照らして」「視力低下」「体力低下」「のせいさ」と[e-a]で返し韻&脚韻。

ティーチャー[tíːtʃɚ]」「believer[bəlívɚ]」は英語で厳密に言えば「チャー/バー」部分だけだが、[i-ɚ]は踏んでいると見なせる。

俺の若さを日々吸い上げる
まるでサキュバス またはインキュバス
近いうちに朽ち果てる
お前に手を引かれて出向いた土曜日の溜まり場
同じ周波数のムジナ もれなく社会不適合者

夜はまるで性獣のように若い貴重な時間を吸い上げていってしまう。このまま行ったらいずれは朽ちて消えてしまいそうだ。
ただ、いつかの土曜日に夜に誘われて向かった溜まり場には、自分と似たような社会不適合者ばかりがたむろしていて、いくらか安心できた。

サキュバス/インキュバス」とは夢に現れる魔物で、男に対しては精液を搾り取っていったり、女に対しては妊娠させたりする。
ちなみに、それをエロいと捉えてイジりまくっていたのが、R-指定が愛聴する「山里亮太の不毛な議論」。5年以上前にサブ作家のセパタクロウが好んでネタに使い、遂には派生コーナーが生まれていた覚えがある。果たしてR‐指定は山里リスペクトをこの文面に込めていたのか否か。

土曜日の溜まり場」とは、
1.オードリーのANNが放送されている土曜の夜のリスナーの気分
2.R‐指定自身が梅田サイファーに通っていた土曜の夜
の掛詞。個人的にこのリリックの中でいちばん好きな箇所。
ここにきて、「お前」の捉え方は「夜」を超えて、リスナー自身にも委ねられ始める。

また、「同じ周波数のムジナ」というのも、ラジオの周波数と「電波」という精神異常者に対する蔑称を掛けている。

社会不適合者」に関しては、オードリー若林の初エッセイ『社会人大学人見知り学部卒業見込』のタイトル・内容に掛かっている…はず。

韻について。

「サキュバス」「インキュバス」については言うまでもない。

かいうにくはてる」は、全て「ち」にアクセントを置いている。

吸い上げる」「朽ち果てる」「を引かれて」と[uiaeu]で脚韻&ステルス韻。

だけど お前は決して誰も責めない
お前は決して何も聞かない
御節介な陽の光と違い俺を正さない
未だお前を乗りこなせない
未だお前を使い果たせない
ずっと今日が終わらない
明日は始められない

夜と「陽の光」の対比が現れる。
夜はそのままありのままの自分を肯定してくれる。でも、太陽は少し規範から外れてしまうと生きづらい。だから、人は息苦しく生きている。
夜が好きだ。なのに、夜を完璧に使い切ることはできないし、夜を100%理解することもできない。そんな後悔の念が募ってばかりじゃ、夜を超えて次の日の昼へと踏み出せない。それでも、夜はそんな意気地無しの自分すらも肯定してくれる。

この昼夜の対比は、一般社会と深夜ラジオ、一般社会とヒップホップ界隈、ヒップホップ界隈と自身のヒップホップ観、など様々に拡大解釈することができる。

また、「未だお前を使い果たせない」については、STUTS/夜を使いはたして feat. PUNPEEのサンプリングだろう。

韻について。

3小節目を除き全てのケツが「ない」で統一されている。
「責めない」「聞かない」「正さない」「使いこなせない」「使い果たせない」「終わらない」「始められない
部分によってもう一文字二文字加わっているところもあるが割愛する。

「陽の光」「と違い」は[oiai]で踏んでいる。

最後はHOOKを繰り返して終わる。

繰り返しになるが、この曲はオードリーのANNの全国ツアーのテーマソングとして書き下ろされた楽曲だ。
MVも春日が先日まで20年間暮らしていたむつみ荘で撮影されているし、番組内の小ネタが随所に散りばめられている。リスナーにとっては何度も見返してその要素を発見する楽しみがある。気になった方は、MVを解説したサイトがいろいろあったので、そちらを見てみるとおもしろいかもしれない。

R‐指定が書くリリックは幾重にも入り組んでいる。今回、僕が考察した箇所も、R‐指定の頭の中のほんの一部でしかないかもしれない。
「よふかしのうた」はR‐指定の才能に「酔ふ歌詞のうた」でもあるのだ。

最後に改めて歌詞を載せておく。

Creepy Nuts
よふかしのうた

(Hook)
*よふかしのうた
照らしてってmoonlight
目を奪ってブルーライト
ネオンサインが呼ぶ表裏
よふかしのうた
連れ去ってmidnight
血走ったredeyes
大人達の子守唄
なんせ俺達の夜は忙しい
Keep on dancin'
さぁ鬼の居ぬ間に
俺たちの夜は忙しい oh yeah
なんせ俺達の夜は忙しい
Keep on dancin'
さぁ鬼の居ぬ間に
俺たちの夜は忙しい oh yeah*

ガキの頃から夜が好きだった
九時に寝るのはなんか嫌だった
なんとなくただ勿体なかった
お前のことがもっと知りたかった
いわゆる三文の得
投げ売ってでも見たいのさ もっと奥の奥の奥
色濃く紐解く
12オクロックから丑の刻まで
初めてお前を跨いだのは、
いや初めて跨ったのは確か14
俺は何も知らねワナビー
手取り足取り全てが新しい
姿形にその香り
静けさが似合うその黒い肌に
吸い込まれてた 手招きされるままに
それからお前は音楽をくれた
女の裸も見せてくれた
飲んだことねぇ酒に口つけて
オトンのタバコくすね火をつけた
やっちゃいけないが溢れて
知っちゃいけないに塗れてる
迎えに来る闇に紛れて
お前はいつも気まぐれで…

*Hook*

晴れて大人の仲間入り
我が物顔で朝帰り
腫れ物触るよな周りの目に中指立てども空回り
暗い部屋 照らしてよブルーライト
視力低下に体力低下
認めたかないがお前のせいさ
起こさないでティーチャー
I'm a day dream believer
俺の若さを日々吸い上げる
まるでサキュバス またはインキュバス
近いうちに朽ち果てる
お前に手を引かれて出向いた土曜日の溜まり場
同じ周波数のムジナ もれなく社会不適合者
だけど お前は決して誰も責めない
お前は決して何も聞かない
御節介な陽の光と違い俺を正さない
未だお前を乗りこなせない
未だお前を使い果たせない
ずっと今日が終わらない
明日は始められない

*Hook*

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