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彼女の記事に欠けていた視点

今朝、twitterで炎上していたnoteの記事を読んだ。

いわゆる貧困地区と呼ばれる地域での体験記を書いた、ライターさんの記事だ。

最初は特に違和感を感じなくって、批判している人たちをどこか遠くから眺めているような気持ちでいたのだが

ある方が「当事者に反論の余地を与えていない」という批判をしていらっしゃって、その言葉でハッとなった。

そして自分が見落としていた視点に気がつた。

それは、物を書くという行為は本質的に自分と向き合う作業である、ということだ。

つまり「自分が体験したことや、それについて考えたこと、検討したこと」を書くのが第一階層だとすれば、

その先には「そう感じる自分のことを、自分自身がどう捉えているか」という第二階層が存在する。

結論から言ってしまえば、今回騒がれている記事の作者にはこの第二階層が抜けていたのだと思う。

(余談だがこの第二階層に対して自分がどう考えているか、という第三階層もあって、そう考えていけば無限に階層はあるわけなのだが、混乱を招くのでここではひとまず第二までとする)

今回の記事はおそらくPRということもあって、作者を含め関係者誰もが「美しい体験記」に収めたいと考えていたはずだ。

第二階層までもをこのPR記事に入れてしまうと主題からは外れてしまうし、内省の感が強くなる文体になることは必至なので、もししたかったとしてもできなかっただろう。

だけれども一方でこの視点が抜けていたために、記事を読んだ人は彼女が無意識に「自分」と「あちら側」を分けて考えていること、

しかもそれが対等な関係ではなく、「自分が優位な立場にある」と捉えているらしいことを行間から感じ取ってしまった。

それが今回、多くの批判を招いた。

ここで問題なのは、多くの批判者が彼女と同様に、「自分」が「彼ら」よりも優位にある、と思っていることに気づいていない、ということだ。

自分自身がこの貧困地区にどう向き合っているかを深く考えずに「なんとなく気持ち悪い」「住人をコンテンツとして消費している」という言葉で片付けてしまっている。

(だって対等に考えていたとしたら「消費する」といった言葉が出てくるだろうか?「彼らの気持ちを考えていない」といった自分と相手を隔てるようなコメントが出てくるだろうか?)

自分だったらどう書くのか、自分はこの地区をどう捉えているのかといった視点=第二階層が抜けている、という点では

これらの批判者も彼女と同じだ。


この方の記事は以前にも読んだことがあって、

私の第一印象は、「人の心を開かせる天性がある」だった。

純粋にうらやましい。

日常の何気ない瞬間や、何気ない発見や何気ない他の人とのやり取りを見逃さず、丁寧に切り取って、美しく昇華する力がある。

瑞々しい筆致で、読んでいる自分があたかもその場にいるような、いきいきとした描写が多い。

が、その光景があまりにも美しいので、そこにいる彼女自身も美しく描かれてしまっている。

今回批判した方々はそこにも違和感を感じたのだろう。

人との距離を異様に近くしてしまう彼女の特性について、彼女自身が感じるグロテスクさや恐怖は、少なくとも今回問題となった記事では触れられていなかい。

「自分はどういう人間か」という内省の描写が欠けている。

「私は美しい人間で、美しいものしか見れないし、美しい話しか表現できないからそれを届けている」という姿勢なのか

「私は残酷な人間で人や動物に対して心底感動することがなくって、でもだからこそ人とすぐに仲良くなれて、だけどそういう話をすぐにみんなに広めたくなるあたり、やはり自分は残酷な人間」なのか

「理由はよくわからないけれども人とすぐ仲良くなる性格で、だから面白い話がたくさんあってそれをシェアしたい」なのか

(最後のケースは理由が分からない分、「人と仲良くなれる特性」について少し慎重に捉える必要があるだろう。つまりその特性が自分や周囲に与えている影響について。良い面でも悪い面でも)

自分という人間への捉え方が、文章で見えてこないことが読者に不快感を与えたに違いない。

でも筆者も多くの批判者もできなかったように、

ここに向き合い続けるっていうのはだいぶしんどい作業だ。

多くの才能が自殺をするのはそういう背景もあるのだろう。

つきつめれば結局、自分の嫌なところを反吐が出るほどに見なければならず、

しかもそれを大衆に向かって公開する、それが物書きの仕事ということになるのだから。

私としてはだから、彼女やその記事に対してどう考えたというよりも

単純に身につまされる感覚だったとしか言いようがない。

彼女が一連の批判を受け止めて、それでも覚悟を持って諦めなければ

それこそが真に美しい話として、同様の道を辿った先人たちに受け入れられるのだろうし

その意味で今が彼女にとって真のスタートなのだろうと思う。

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