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『The Office』を観て【反面教師】と【ロールモデル】について考える

ドラマ・映画好きなキャリアコンサルタント xyzです。

今回はイギリスのシットコムドラマ『The Office』について書きます。

シットコムとはシチュエーションコメディーの略語ですが、このドラマは従来のシットコムの手法を変えた、イギリスTV史上で画期的な作品らしいです。

デヴィッドとゆかいな仲間たち


いわゆる“モキュメンタリー“とよばれるもので、ドキュメンタリー仕立てのシチュエーションコメディーです。


初めて観た時はドキュメンタリー番組と勘違いしました(笑)それくらい俳優さんの演技が上手い(そして今では大物俳優になっている人も)!

コメディーといってもそこはイギリスのこと、かなりブラックな笑いです。
とてもBBC(英国放送協会)制作とは思えない攻めた作品です。

このドラマ、放映当時もかなり衝撃的な内容でしたが、今改めて観るとNGなことだらけ……放送禁止用語、下ネタ、差別的発言、そして鉄板の王室ジョーク(かなり際どい)……天下のBBC制作だというのに。


ドラマの概要はこちら。
⬇︎


以前欧州系金融機関勤務だった時、英国人上司と仕事をしていた時期がありまして、英国人および英国の普通の会社事情などを知りたくて観ていました……が、ほとんど参考にならなかった(笑)

だって出てくる会社も社員もフツーじゃない!

英語もちょっとオフィスでは使えない表現ばかりで実用的でない💦

でも、このドラマのネタで上司と盛り上がり会話が弾みラポールが(ほんの少し)生まれたからよかったこととします。


会社ドラマだけどお仕事ドラマじゃない


ドラマの舞台はイギリス、ロンドン中心部から西へ約32kmに位置しているスラウ(Slough)という地域。

スラウはロンドン郊外でも最も多種多様な民族の住むエリアと言われています。

登場人物は、ウェーナム・ホッグ社(Wernham Hogg)という製紙会社スラウ支社(Slough Branch)で働く人々。

支社長はデヴィッド・ブレント

BBCがデヴィッドを(なぜか)密着取材している、という設定でドキュメンタリータッチでドラマは進みます。

支社長が一番の問題社員?

このドラマの主人公、デヴィッドは製紙業界に12年、ウェーナム・ホッグ社には8年のキャリアの持ち主。

執務中


年齢不詳。お腹が出ている体型や弛んだ顎はどう見ても40代、と社員達に陰口を叩かれ、ブルート(Bruto ポパイの登場人物)ガマガエル(Mr. Toad)とあだ名を付けられています。

40代と言われると猛烈に怒って否定し、30代だと言い張ります。

自称「部下にとって友人のような存在」で「部下たちから厚い信頼を寄せられている」支社長です。上司らしさよりも芸人らしさを打ち出していきたいスタイル……。

When people say to me: would you rather be thought of as a funny man or a great boss? 
My answer’s always the same, to me, they’re not mutually exclusive.

が、実際に部下達からの評判は……。


女子社員にはセクハラ発言、男性社員にはパワハラ発言。なので当然人気も人望もありません。人気があると思っているのは本人のみ。

ジョークのつもりで人種差別発言や下ネタを連発、職場の雰囲気が一瞬のうちに固まってしまうのですが、挽回しようとしつこくジョークを続け、ますます引かれドツボにハマる……引き際が良くない上に、ウケないといじけたり拗ねたり怒ったり。

そう、デヴィッドは職場の鼻つまみ者。でも腐っても支社長、なので社員達は皆我慢するしかなく、黙ってやり過ごしたりしているのです。

しーん……


中には上司に忖度してお愛想笑いをしてあげる部下もいるにはいるのですが、そんな部下にはなぜか塩対応なデヴィッド。

社員たちが雑談してくると必ずニヤニヤしながら近づいて来て話に割り込み、話の主導権を取ってしまう。会話泥棒です。

一体いつ仕事してるのかな、と思うくらいいつもふざけてばかり。

勤務時間中です


もしこんな人が自分の上司だったら、毎日がストレス過多、仕事どころではなくなりそうです。

迷惑上司は反面教師


お世辞にも部下たちから尊敬を集めているとはいえないデヴィッド。

人間性や性格についてはひとまず横に置いて、上司として致命的だなと私が思うデヴィッドの問題点を挙げてみます。


①自分が目立たないと気が済まない

常に相手より優位に立ちたい、承認欲求の塊のようなデヴィッド。
部下よりも、自分が目立ちたい。

優位に立ちたいのは部下に対してだけではないのが困ったところで……💦

社内で外部から講師を招いて研修を行った時もひと騒動でした。

研修が始まっても退場せず講師の横に立って講師気取り(←これだけでも相当迷惑行為!)
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いちいち口を挟み、間違ったことを言う
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研修に全く関係ない自分語りを勝手に始める(皆、白けた顔)
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参加している社員に煩く話しかけて集中力を削ぐ(かなり邪魔です!)
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講師から何度注意されても無視
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ギターの弾き語りを始めたりして講師の授業進行を妨害する

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研修中に勝手にジャイアンリサイタル。(0分40秒くらいから始まります)
講師も疲れ切って諦めた表情です……この後、講師は研修を放棄して出て行ってしまいます。

ちなみに、劇中研修で使用していた研修ビデオ『WHO CARES WINS』(お客様は神様です)ですが、テーマはカスタマーサービスに関するもので、同じようなビデオ(ひょっとして全く同じ物かも!)をわたしも社内研修で見ました💦
かなり古臭い作りで、ツッコミどころ満載な内容です。

②口から出まかせを言う

その場しのぎのすぐわかる嘘やごまかしを言う。知ったかぶりも多い、そして大抵の場合間違っている。

仕事絡みの話に限定しただけでも……

・支社の業務改善に関するレポートを期限を過ぎても一向に提出しようとしない。(なぜならやっていないから!)催促されると言い訳、言い逃ればかり

・「スタッフをリストラした」と嘘を言い、誰のことかと訊かれると適当な名前をでっち上げる

・勝手に採用した秘書の存在を、支社を視察に来た統括マネージャーに見咎められると「知らない。誰だろう?」と、とぼける

・勝手に新聞社を呼んで自分を取材させる。多分、本社の広報は通していない💦そして記者の質問には答えず自分の喋りたいことだけマシンガントーク

・自分の怠慢からリストラ宣告を受けたのにもかかわらず「部下たちを庇って自分が犠牲になった」と発表して社員たちの同情を引こうとする


③失言、不用意な発言が多い


余計な一言が多い、そしてしつこい!

・セクハラ満載のジョーク、ジェンダー、人種に関する暴言、差別的発言…

・自分から失礼なことを言っておきながら、相手に反撃されると逆ギレ

・笑えないジョークをしつこく言う(泥棒の濡れ衣を着せて女子社員を泣かせたり、車椅子の女子社員の前で障がい者手当の不正受給の話をわざとしたり💢)

④無責任

自己保身しか考えていない、規律を守らない、とことん自分ファーストです。

・全社的に経費削減が叫ばれているのに、勝手に自分の秘書を雇ってしまう
(本社にバレたら即解雇……)

・支社の統合話はまだ内密に、と上層部に言われているのにすぐに部下たちにバラしてしまい、社内をざわつかせる

・上層部の意見を自分の解釈によって歪めた形で部下たちに伝える

・支社が統合したばかりのデリケートな時に、敢えて社員同士を分断するような言動をする

・避難訓練の時に、車椅子の女性社員の扱いに困り「(実際の)火災の時は運ぶが今は置いていこう」と階段室の踊り場に置き去りにしていく

⑤一方的なコミュニケーション

基本、人の話は聞いておらず、自分が話したいことだけを一方的に話し続けるスタイル。

・褒めるより褒められたがり

・部下の話を聞かない

・部下に話す隙を与えない

・何でもすぐ自分語り(強引に自分の話にしてしまう)

・ひたすらウケを狙ってしゃべり倒すがスベりまくり

・思うようにウケないと腹を立てる

多分人の話を聞いていないというのは、次に自分が何を話そうかということばかりで頭がいっぱいだからかな……と思います。つまり傾聴の姿勢に欠けているのですね。共感度ゼロです。

これでは部下たちから尊敬され慕われるどころか不信感を持たれても致し方ないような……。

女子社員の中にはあからさまに嫌悪感を表す者もいます。

しかしデヴィッドは自分が思うほど部下から慕われていないことを、自分のせいだとは思わず、とことん他責思考です。

うまくいかないと他人のせい。
「俺を認めない奴の方がバカだ、狭量だ」
「あいつは大したことない。俺の方がもっとうまくできたはず(できない)」
「お前の段取りが悪いから失敗した」
といつも不満げです。

支社の統合で支社長が余る!


さて、本社の意向で、スラウ支社とスウィンドン支社が合併することになり、スラウ支社は騒然。

どちらがどちらを吸収するのか、人員、仕事はどうなるのか、リストラはあるのか、など噂を聞いた社員達は戦々恐々としています。

結局、スラウ支社がスウィンドン支社を吸収、統合することになり、スウィンドン支社の6人(男性3名 女性3名)がスラウ支社に合流してくることになりました。その中には合理的配慮の必要な社員も含まれています。

うまくやっていけるかな、スラウ組。


デヴィッドはスラウ支社長のポストに残留となり、スウィンドン支社長のニール・ゴードウィンは昇進してUK統括マネージャーとして、デヴィッドの上司となりました。

デヴィッドは自分が昇進を逃したことを悔しがり(自分が昇進すると糠喜びしていたという……)以来ニールに敵意を持つようになり、事あるごとにニールに反発していきます。

出来る男 ニール

ニールは、本社の上層部から仕事の手腕を買われているだけでなく、温厚かつユーモア満点な性格から支社のメンバー達からの人望も厚く、慕われています。

そんなニールに嫉妬するデヴィッド。やることなすこと全て(自業自得とはいえ)裏目に出てしまい、ますますニールを憎むようになります。デヴィッドの大人気ない態度に、さすがのニールもやりにくそうです。


つい反抗的な態度をとってしまう


反面教師から理想の上司像を考える


こうして書いていても本当に救いようもなくどうしようもないな……とため息をつきたくなるような、デヴィッド。


ドラマや映画の主人公で、ここまで感情移入できないこともそうそうないです。

デヴィッドがもし自分の上司だったら……かなりしんどそうです。反面教師にするにしても、やっぱり厳しいな。

反面教師ということは、デヴィッドと真逆のことをすれば「理想の上司像」が浮かび上がってきそうです。

では、全部反対に考えてみましょう。

自分が目立たないと気が済まない

社員を育成する

口から出まかせを言う

誠実・勤勉を心がける

失言、不用意な発言が多い

慎重かつ配慮ある言動を心がける

無責任

職責を全うする

一方的なコミュニケーション

双方向なコミュニケーション


デヴィッドの言動を裏返せば、そのまま理想の上司の条件になりますよね。

反面教師?ロールモデル?

お手本にならない人を反面教師と言いますが、デイビッドはまさしく反面教師。

反面教師という言葉が出てきたところで、ロールモデルについて考えたいと思います。

ロールモデルとは「自分の行動や考え方など、キャリア形成の上でお手本になる人物」です。


厚生労働省が発行している資料に、女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル があります。

その資料からロールモデルの定義を抜粋します。

 ロールモデルとは、社員が目指したいと思う模範となる存在であり、そのスキルや具体的な行動を学んだり
  模倣したりする対象となる人材です。本来は社員各自で見つけるものですが、女性の活躍推進に結び付けてい
  くためには、会社としてどのようなロールモデルを提示したいか、からはじまり、そうした人材の育成、周知
  という手順をとります。ロールモデルは必ずしも女性社員とは限らず、男性社員も対象となります。 


「僕は社員たちに希望を与えるべく頑張っている」

BBCの取材クルーに自信満々に答えるデヴィッド。

デイビッドは人事考課のインタビューで、スタッフにロールモデルは誰か?と尋ねますが、なかなか自分と言ってもらえません。

誘導尋問にも失敗し、痺れを切らしたデヴィッドは自分の名前を挙げるように強要しだす始末……面倒になったスタッフは「それでいいです」と諦め顔で答えると、嬉々として自分の名前をシートに書き込むデヴィッド。

デヴィッド本人は部下たちのロールモデル気取りですが、誰一人そう思っている人はいなさそうです。


無いんだったら自分で作っちゃえばいいのよ


ロールモデルを持て、といわれてもなかなかそんな人いないよ!

嫌な人、困った人、迷惑な人はたくさんいても尊敬できる人はいない!

そうそう同じような立場の人なんて居ないし!

そんな声が聞こえてきそうです。


国(厚労省)もロールモデル推進をあげていますが、裏を返せば推進しなければならないほど実際にはいないということです。

先ほど上に挙げた厚生労働省のマニュアルは特に女性社員向けに特化した内容となっていますが、その中にも「ロールモデルを見つけるのは難しく、育成する必要がある」と書かれています。

女性社員は人数も少ないうえに、ライブイベントが多様でキャリアにもいろいろな選択肢があるだけに、自分にぴったりフィットするようなロールモデルを見つけにくいという側面はあると思います。

それならば、そんな現状を逆手に取って「反面教師」から自分なりのロールモデルを作り上げることだってアリだと思います!

何も実在する身近な人だけしかロールモデルになれない、というわけではないはずです。またロールモデルは一人である必要もないです。

ダメだなと思う人、困ったなと思う人には相応の理由があるはずです。

逆説的になりますがそのダメである理由を一つ一つ潰していって、反面教師の「なりたくない姿」から、自分の「ありたい姿」をはっきりとさせていく、自分なりのロールモデルを作ってみるのです。

身近にいなくても大丈夫!

嫌な人がたくさんいたらラッキー!
より「ありたい姿」が明確になるはずです。

(わたしもこれでロールモデル、メンター不在を乗り越えたことあります。もちろん、素晴らしいメンターやロールモデルがいることに越したことはないですが、無くても悲観しないで大丈夫、なんとかなるかもよ、ということです^^)


次回も『The Office』を題材に、今回とは違った切り口で書こうと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました。