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「テキサス・レポート 20210629」上


近年ますますその貴重さを増しつつある24時間営業のマクドナルドにて記す

まずは写真をご覧いただきたい。これが「テキサスバーガー2021」の姿だ。本当ならば、ここでバンズを持ち上げてみたり、かぶりついて断面をつくった上で、もっと全体の構成が一目瞭然であるような写真を、読者の前に差し出したかった。そうすれば、もっと手にとるように分かっていただけただろう。しかし、今回はそれが叶わなかった。この世界ではもはや、公共の場で写真を撮る行為は、食事前のまじないとしてシャッターを切るといったいわば公認の状況でないならば、それはあまりに目立ちすぎるし、反対に公共の場にいるとき、私たち市民はいつも何者かに見られているような気がしてくるのだから。
だから、客観性という点では記録として不正確になる危険を冒しつつも、私が食べた感触から、このバーガーの構成を述べる他ない。私は覚悟し、感覚を研ぎ澄ますために目を瞑り、テキサスバーガーにかぶりついた。溢れ出したソースが口の端についたのが分かった。これは……おそらくバーベキューの方だろう。
下から順に辿っていこう。バンズ、チーズ、マスタードソース、ビーフパティ、チーズ、バンズ、バーベキューソース、トルティーヤチップス×3、ベーコン×2、バンズ。
以上構成である。ふう、思わず一息つく。なかなかの神経戦であった。読者の皆さまもぜひご自身で確認していただきたい。私は自分の能力を過信するつもりはないし、主観的な情報も、多く持ち寄れば、それだけ信頼に足る強度を獲得すると信じている。いわばこれは共同作業なのだ。
ところで、私にとって今年3個目のテキサスバーガーである。3回も食すほど美味しいのか、と問われると、私は返事に窮する。たしかに美味いが……テキサスバーガーは昔はもっと美味しかった気がするというのが、正直なところだ。うーむ、しかし…
ーーー昔はよかった。事実は抜きにしても、これほど非生産的な態度はないだろう。「誰も知るように、思い出の味は甘い。」こう言ったのは三島由紀夫だっただろうか。この世の思い出が全て甘いかはともかく、目の前の味と思い出の味をフェアーに比較しうるとは私にも思われなかった。
参考までと思い、私は友人に連絡してマクドナルドに呼んだ。テキサスバーガーを食べてもらう。彼は神妙な面持ちでバーガーを飲み込むと、「前の方が美味しかった」と言った。類が友を呼んでしまったのだろうか。
だが、こんな結論で終わるわけにはいかない。私は食い下がる。テキサスバーガーにではない。その深奥にあるはずの真実に向かって、だ。俯きかけた顔を上げる。目の前に座る男はもう若干帰りたそうにしている。構わない。私は身を乗り出し、男とのさらなる対話を試みるのだった。

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