夜が好きだから、夜は極力眠りたくない。

中学校の頃。校舎の棟の一番西側に非常階段があった。その非常階段を一番上まで登ると、小さな踊り場があり、そこから壁つたいに鉄梯子がかかっていて、そこを登ると校舎の屋根に登れるようになっていた。

当然、そのような危険な梯子は生徒が近づかないように有刺鉄線と鉄板で固く閉ざされている。が、なぜか僕はその梯子にいつも心が惹かれていた。おそらくこの学校でこの梯子を突破して、屋上というか、屋根というか、とにかく一番高いところに登ったやつは誰もいない。それは鉄梯子を鎖(とざ)している錆びた鉄板と有刺鉄線を見ればわかる。だからこそ余計に僕は心が惹かれた。

後日、僕はこの手のスリルのある話に乗ってくれそうな、親にも学校にも見捨てられた問題児の友達を二人誘って、その鎖された鉄梯子にトライをした。

夜も22時が回った頃であった。ペンライトとペンチを持ち、僕らは深夜の学校に侵入して、非常階段をスタコラと登り、鉄梯子の真下に着いた。そして、手際良くペンチで有刺鉄線を切断して、軍手でそれを引き剥がした。

有刺鉄線はあっさりクリアできた。ところが梯子を塞ぐ鉄板は動かない。でもそれは、さほど問題にもならなかった。僕たちは手を伸ばし梯子の一段目に手をかけると、エイサホイサと壁を蹴り上げて、身体を浮かせて、そのまま鉄板の外側をジャングルジムの要領で登り上がった。手を滑らせれば2メートルほど下に無防備に叩きつけれる危険はあるが、好奇心の方が大きかった為か、全く恐怖はなかった。

最初に校舎の屋根に登った僕は思わず息を呑んだ。月明かりに照らされた学校の屋根はどこまでも広く感じた。また眼下に広がる街の夜景がとても綺麗だった。思わず僕は立ち尽くした。

後から登ってきた二人の友人もまた同じ気持ちであるようだった。この月の登る前、すなわち今日の昼間に僕らはこの屋根の下で授業を受け、給食を食べ、みんなで当たり前で退屈な日常を過ごしていた。

僕たちは繰り返される日常の輪廻に辟易しながらも、何か突き抜けた非日常があることを願っていた。でも、そんなスペシャルなことは中々起こらない。勉強、部活、遊び、恋愛、なんだか全てが思うようで思うようにいかない、そんなありきたりな繰り返し。でも、今こうして壁を突破して、校舎のテッペンに立ってみてわかった。

僕たちは何だって出来るけど、何だって出来たところで、それは日常の中のほんの片時にしか過ぎない。僕らはまた日常に戻っていかなくてはならない。今、こうして感じる大きな自由、決まりを破って辿り着いた背徳感、自らの意思で新たな景色を見た達成感、友達との絆を感じた高揚感、そんなスペシャルな夜を過ごしたとしても、僕らはまた明日、この屋根の下で退屈な授業を受けなくてはならない。そんな不条理の中で僕らは生きている、

このドキドキが永遠に続けばいいのにと思い僕は月に向かって叫んでみた。大きな声でセックス!と。友達二人は大笑いをしていた。それぐらいしか、今の僕には出来なかった。

そのあと、僕らは屋根を歩き進み。貯水タンクの下に来てみた。タンクに梯子がかかっている。よく授業中にこの屋根の上の貯水タンクを眺めていた。そんな眺めるだけだったものに今僕は手を触れている。不思議と迷いはなかった。僕は梯子を登る。

タンクは屋根の上からさらに五メートルほどの高さがあった。タンクの上に立つと目の眩むような高さだ。風が冷たい。でも下はあまり気にならなかった。それよりも上。まるで星が掴めそうなほど、そこは夜に溶け込んでいた。

タンクの真ん中に立って空を見上げた。冬の空には一面の星が散らばっていた。白い吐息が天に登る。僕は天に向かって手を伸ばした。なぜか目が潤む。そして、思わず頬が緩んだ。

しばらく空を眺めていると、首が疲れたので視線を落としてみた。すると、昼間僕たちが過ごしてる校舎が全部見えた。目を凝らすと中庭越しに僕の教室が見える。窓際の後ろから二番目が僕の席だ。夜の闇に目が慣れてくると、そこで退屈そうに眠る明日の僕が見える気がした。

目を閉じちゃうから退屈なんだよ。眠ってないでこっちを見てよ。少しだけ目線を変えれば、きっと今と違う何かが見えるのに、退屈だったら視点を変えればいい。ほら、起きてこっち見ろよ!

そんな僕の誘いも虚しく、明日の僕はスヤスヤと眠っているようだった。

またここに登ろうと思った。ここから見る景色が好きだから。そして、明日も学校でたくさん眠ろうと思った。やっぱり夜が好きだから、夜は極力眠りたくない。

おわり


ここから下は日記↓

なんだか最近、全く文章を書くのが億劫になってしまった。と、いうのも、なんだか頭がぼーっとしてしまう。今日書いたこのnoteも本来は記憶と忘却について書く予定で書き始めた。

今までの僕はとにかく記憶力があるタイプで、幼少期のことを仔細に覚えていた。でも最近、全くそれが思い出せない。いや、それどころか昨日のことや、さっきまでの事も薄ぼんやりとしてしまっている。だから、何か思いついて文章を書き始めても、途中で何書いてるのか分からなくなってしまう。

なんだか、今生きている自覚すらないほど、何も考えられないし、何かをしても記憶に残らない。仕事も読書も勉強も全て夢の中のことみたいだ。

こんなことは35年生きてきて初めてだから、自分自身も困っている。そして、これが終わりの始まりで、自分という人間はここからヒロポン中毒者のように、気が違ってしまい、ゆくゆくは廃人になっていく様な気さえしている。それはそれで面白いから良いのだけれども、他人にもし迷惑をかけてしまったら、と思うと胸が痛い。

まぁ、結局の所、まず記憶と忘却をテーマに書こうとしたnoteが意味不明な夢物語みたいになってしまい、その言い訳を書こうとした日記すらも、白痴の鼻歌みたいになってしまったから困ってしまう。だからといって、ここ2ヶ月間くらいアップできてないnoteの下書きをまた増やすのも、、、やるせ無い。

なんか疲れたから、いいや。とりあえずアップしよう。それでまた明日よんで、アホだったら消そう。

眠い。


ねる。

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