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中国の国力の低下とツキジデスの罠

中国の国力低下でぬか喜びするな

中国の人口は、2022年末に14億1175万人と前年比85万人減少しました。また2016年に一人っ子政策を見直しましたが、その効果も見られず、出生率が過去最低だった2021年を下回りました。まもなく世界一の人口大国の座をインドに譲り渡すでしょう。まさしく中国は人口ボーナスが得られた人口増社会から本格的に人口オーナスを耐え忍ばなければならない人口減少社会に突入したというべきでしょう。

中国、2022年末の人口は14億1175万人 人口減少社会に突入

同時に2022年10月から12月期の国内総生産GDPは政府目標の5.5%を大幅に下回り、2022年全体では3.0%となりました。これもコロナ流行の初期である2020年の2.2%を除けば実に50年近くぶりの低成長になっています。これに加えて、今年に入って明らかになったゼロコロナ政策の破綻からさらに経済は減速することが予想されます。

中国、実質2.9%成長に失速 10~12月コロナで混乱 通年は3.0% 目標未達

これ以外にも中国政府は統制色を強めています。アリババの創業者であるマー氏が中国から逃れて日本に住んでいるとのことですが、経済に厳しく介入する習近平政権の下では中国に経済的繁栄はあり得ません。体制に愛想をつかした企業家にはどんどん日本に来てもらえば、孫文のときのようにまた日本が中国革命のゆりかごになるかもしれません。これらを考え合わせて、中国の国力が低下することが明らかになりましたが、われわれは喜んでばかりはいられません。中国がこのような状況に陥ったことによって、習近平政権がかえって焦って東アジアの現状を変えようとする、つまり、台湾への武力攻撃を開始する可能性は高まったと考えるべきです。

「ツキジデスのわな」はミスリーディング

米中関係はよく、古代ギリシャのペロポネソス戦争に似ているといわれます。この戦争は、当時の軍事的覇権国のスパルタと新興強大国のアテネが繰り広げたもので、歴史家のツキジデスは、アテネの力が徐々に大きくなってスパルタがそれに過剰に反応しついに戦争が避けられなくなったと記述しています。政治学者グレアム・アリソンは、これを「ツキジデスのわな」と呼び、既存の覇権国が新興大国の挑戦を阻止するために戦争に陥るメカニズムであるとしています。

こうしたメカニズムを避けるために、中国に宥和政策をとり、経済的に相互依存関係に入り、戦後の日独に許したように既存の国際秩序に入れてやればおのずと民主化の方向に向かい、対立は避けられるだろうというのがリベラル派の処方箋でした。しかし、現実は、新興国が発展・拡大を望めなくなったときに、「ジリ貧を恐れて」覇権国に挑戦することで戦争が起きたケースがはるかに多いのではないでしょうか。

20世紀の初めに、覇権国のイングランドと挑戦国のドイツは、経済的な関係が強かったため、戦争は起きないだろうと考えられていました。しかし、第一次世界大戦は起きましたし、戦間期の相互依存の深さもこれまでにないものでしたが第二次世界大戦は起きました。

実際に中国は、日米の宥和的な政策に対し、軍事力の強化と国内の人権蹂躙に走りました。願望に彩られた幻想に政治の判断がとらわれてはなりません。「ツキジデスのわな」というナラティブ、物語は誰にも極めて分かりやすく、説得力があったため中国の台頭を許してしまったのでしょう。

中国版日比谷焼き討ち事件が起こりかねない

中国国内では、アメリカンドリームを模倣した「中国の夢」、「中華民族の偉大な復興」などの習近平による身分不相応な覇道ナショナリズム政策によって国民の要求が高まりすぎ、現実には衰退していく国力に不満を高め、中国版日比谷焼き討ち事件を起こす可能性があると考えます。「列強によって踏みにじられた過去を跳ね返し、必ず世界に覇を唱えよう」、「漢民族優先でウイグル、チベットなど少数民族の人権は踏みにじれ」というゆがんだナショナリズムは、いったん火が付けば政策の譲歩で収まったり、単純に武力で弾圧できるものにはとどまらないでしょう。

国債発行で防衛力整備を急げ

今日本では防衛費GDP比2%をめざす防衛力の整備がまさに緒に就いたばかりです。「日本が防衛費を倍増させれば、中国も軍事力拡充で対抗し日本は際限なく防衛費を増やさざるを得なくなる」などとの主張もありますがこれも全く無根拠です。30年間わが国の防衛費がGDP1%枠に縛られている間に、中国は国防予算を約40倍にしました。日本の自制に中国は大軍拡で応えたのでした。同じ間に北朝鮮はせっせと核ミサイルの開発に勤しみました。そういうファクトを完全無視した典型的な左翼理論に他なりません。

また、日本共産党の志位委員長などは「中国を排除、包囲する国際的な枠組みをつくる方向に賛同しかねる。排除の論理ではなく、包摂の立場で国際的な関係をつくっていく必要がある」などと発言していますが、またしても中国政府を甘やかすつもりでしょうか?ファシズム国家である中露朝には防衛、外交両面で全力で対抗すべきであることは明らかです。

国連常任理事国であるにもかかわらず、一方的にウクライナ侵略戦争を始めたロシア・プーチン大統領。彼は開戦後、欧米の介入を恐れ、「邪魔する者は歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」といい、何回も核兵器の使用を示唆しました。ロシアも中国も北朝鮮も、わが国の隣国は常軌を逸した独裁者に支配されています。彼らの理性を信じることはできません。資源と核兵器しかないロシアに、現在はまだ調子がいい中国が合体したら、東アジアの民主主義とわが国の将来は危うくなります。できるだけ早く防衛体制を固めるべきです。付け足しになりますがロシア衰退の後は、中国は死骸をむさぼるハイエナのように、ネルチンスク条約で奪われたと称して沿海州に手を伸ばすまでがワンセットでしょう。

また、官僚のおぜん立てによる防衛増税は、民間の活力と家計の消費を妨げ、わが国の将来の成長力を損ないかねません。増税に頼らず、日銀の強力な金融緩和の継続と、政府による国債の追加発行によってできるだけ早く防衛力整備を行って、東アジアの現状を変えようとする中国などの軍事的な暴発への抑止力を高めることこそが大切だと考えています。与党と良識ある野党の皆さんの健闘を期待しています。


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