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MONDO GROSSO「BIG WORLD」が凄すぎた


“変わってしまった世界、さらに変わっていく世界の中で、心の在処を探し続ける音楽の旅“ というコンセプトで2022年2月8日リリースされた、MONDO GROSSO『BIG WORLD』。


この2年間、世界中の人々が思いもよらない脅威に少なからず巻き込まれました。当たり前が当たり前でなくなり、様々な喪失を目の当たりにし、感情の荒波に飲まれたり、悩み考えるうちに人生観が覆ってみたり。

この未曾有の事態を経て、感性の豊かな世界中のミュージシャン達が様々な素晴らしい作品を生み出しました。不安や悲しみがそのまま音や言葉に反映された作品、前を向けさせてくれるポジティブな作品、アンビエント/チル傾向を強めた癒しを与える作品、等々。

そんな中、ど真ん中のコンセプトを据えてリリースされたこのアルバム。
先行曲「IN THIS WORLD」を聴いた時から、これは凄い作品になるぞという期待はありました。
しかしながらその想定を遥かに凌ぐ音楽のオンパレードに、只々圧倒されてしまいました。


まだ十分に咀嚼しきれていない点も多々ありますが、このアルバムを聴いて感じたこと、考えたこと、現在進行形の熱量で思いつくままに書き留めておきたいと思います。









今回のアルバムについて、まずは豪華なゲストヴォーカリスト陣に目がいきがちですが、その前に音楽自体の印象を綴っていきたいと思います。


MONDO GROSSOが14年振りに再始動してリリースされた通算6枚目『何度でも新しく生まれる』は全曲日本語詞というのが話題になりましたが、サウンド的にも初期MONDO GROSSOのUKジャズ・ファンク〜ガラージ路線ともその後のアグレッシブなハウス・ミュージックとも大きく異なる作品でした。

基本構造はいわゆるJ-POP的な、歌を中心に据えたデジタルミュージックですが、MONDO GROSSOは大沢伸一さんのソロプロジェクトであり、歌モノは必然的にゲストヴォーカリストを招くことになります。

『何度でも新しく生まれる』と次の『Attune/Detune』では透明度が高く掴みどころがないようでいて意志を貫き通す力を持ったヴォーカリスト(個人の感想です)を揃え、ビートミュージックでありつつも繊細でどこか儚くて、かつ幻想的で色彩鮮やかな独自の世界観が広がる音楽は、これまでとスタイルこそ違えど大沢伸一流のセンスを随所に感じさせる音楽でした。



今回も日本語詞中心の歌モノということでエレクトロニカを主体とした基本のスタイルは大きくは変えていませんが、後述するようにヴォーカリスト選出が多様性に富んでいて、彼らとの化学反応により音楽の幅も広がり、今までになかったような新しい一面を覗かせています。

ビートミュージックとアコースティックの融合はMONDO GROSSOの真骨頂ですが、このアルバムでも生演奏が効果的に使われています。

例えば2曲目「IN THIS WORLD」は坂本龍一さんが奏でるリリカルなピアノと伸びやかなストリングスが印象的。また、石坂慶彦さんが8曲目「迷い人」で弾いていたピアノもローファイな味わい深い音です。

7曲目「STRANGER」と9曲目「幻想のリフレクション」は大沢さん自身がギター&ベースを弾いていて、サウンド的にもアクセントになっています。5曲目のCHAIの曲はメンバーのKANAとYUNAがギターとドラムをそれぞれ演奏しています。

前作、前々作に比べると、コンセプトに近いヴォーカリストを集めたというより、ヴォーカリストの個性に寄せたラインで仕上げているなという印象を受けました。その結果、多様性に富んだ音楽が並んでいますが、全体でみると統一性のとれた完成度の高い作品になっていると思います。




そのヴォーカリストですが、MONDO GROSSOを知らない方でも興味を惹きそうな実に魅力的な方々が揃いました。

先ずはOriginal Loveの田島貴男さん、EGO-WRAPPIN’の中納良恵さんといった、名前が挙がるだけでおおーっとなる方々。

そしてCHAIやどんぐりずといった、一見するとMONDO GROSSOの音楽とはかなりテイストが異なるユニット。

更にmillennium parade、ヨルシカ、Awesome City Clubなど現行J-POPヒットチャート上位に入るようなグループのヴォーカリスト達。

そしてそして、かつての作品で素敵な作品を聴かせてくれた中島美嘉さん、満島ひかりさん、齋藤飛鳥さん。

一体どんな音楽を聴かせてくれるのだろう??と、リリース前からワクワクが止まりませんでした。


上述のように、今回の楽曲はよりヴォーカリストの個性に寄せた、多様性に富んだ音楽に仕上がっています。

例えば齋藤飛鳥さんのシューゲイザーから中納良恵さんのジャパニーズソウル、そして田島貴男さんのOriginal Love的R&Bと続く3曲はそれぞれ従来のMONDO GROSSOにはないスタイルで、振り幅の大きさに驚かされましたし、CHAIやどんぐりずも彼らの勢いがそのまま曲になっていて、これまた驚かされました。

大沢さん自身もきっと楽しみながらコラボされたのではないでしょうか。



日頃私はヴォーカルも音の一つと捉えているようなところがあって、歌詞をほぼスルーしながら音楽を聴いているのですが、今回ばかりはコンセプトが気になって、そこで発せられた言葉を咀嚼しながら聴かせていただきました。

全12曲中9曲の歌詞が日本語で、UAさん、大森靖子さん、大和田慧さんといったコラボ歴のある方々が作詞されていたり、ヴォーカリスト自身がリリックを書いていたり、中には大沢さんがご自分で詞を書いた曲もあります。

コンセプトにある「世界」というワードが度々登場しますが、世紀末というかディストピアというか、不安定な現世から未来への光を模索するような歌詞が目立ち、全体としては美しく繊細で幻想的な音楽の世界観に沿ったイメージで書かれている印象です。





では、一曲ずつ感想を書いていきたいと思います。






1. Intro〜2. IN THIS WORLD – feat. 坂本龍一 [Vocal : 満島ひかり]


『心の在処を探し続ける音楽の旅』は大自然をテーマにしたドキュメンタリー番組のBGMのような、ジャケ写のアートワークをそのまま音楽にしたようなIntroで始まります。

そんなスケール感のある音が突如として途切れ、舞い降りた静寂の中、響き渡る坂本龍一さんのリリカルなピアノ。もうそれだけでぐっと『この世界』に引き込まれます。

更に満島ひかりさんの透明度高いヴォーカルがユニゾンで重なり合い、雄大なストリングスと共にどこまでも広がっていく、この調和が本当に美しくて、息を止めて聴き入ってしまいます。

『何度でも新しく生まれる』でも満島ひかりさんがヴォーカルの「ラビリンス」という曲がクローズアップされていましたが、彼女の声は現在のMONDO GROSSOのイメージにフィットしているのでしょうね。

この曲が先行配信第一弾でしたが、正にこのアルバムのコンセプトを体現した、奇跡の結晶のような曲です。





3. FORGOTTEN - [Vocal : ermhori (Black Boboi/millennium parade)]


先行配信第二弾のこの曲は、どこか儚いミニマルテクノ。そこに乗せた淡々と刻むようなワードのループが独特な浮遊感を生み、音楽に包み込まれながら脳内のあちこちで言葉が反響しているような錯覚に陥ります。

この曲のヴォーカルはBlack Boboi、そしてmillennium paradeのヴォーカルでもあるermhori。日本とアイルランドにルーツを持つ彼女の歌はボーダレス・ジャンルレスな魅力に溢れています。

チル的なサウンドでありつつも、繊細なようでいて明確な意志を宿した彼女の声で単語の羅列と反復がなされることで強いメッセージ性を感じます。





4. B.S.M.F. – [Vocal : どんぐりず]


ヒップホップを中心に様々な音楽に取り組んでいる若き2人組ユニット、どんぐりずをヴォーカルに迎えた本曲はアルバムの中でも一際アクティブでフレッシュな瑞々しさに溢れたナンバー。リリックも彼ら自身が書いています。MONDO GROSSOのラップミュージックは比較的ダウナー系が多いので、このアッパーな感じは新鮮です。

どんぐりずは「Dance」「Funk/Afrobeat/Dub」「Hiphop」「Pop/R&B/Soul」とジャンルの異なる4枚のEPを制作中とのこと。引き出しの多さをこの一曲からも感じさせてくれます。

ラップとビートの織りなすグルーヴが心地良い一曲です。





5. OH NO! – [Vocal : CHAI]


これまた異色の組み合わせ、MONDO GROSSO x CHAI。一体どんな曲に仕上げるのだろう?とリリース前から興味津々でしたが、これは完全にCHAIの世界で、でもグルーヴのうねりやビートの切れ味からはMONDO GROSSOを感じる。これには驚かされました。

弾けた女の子のヴォーカルとテクノっぽいサウンドを掛け合わせたこの感じ、どことなくサディスティック・ミカ・バンドや初期の矢野顕子さんを彷彿させます。

こういうコラボをきっかけにまだまだ大化けしそうなCHAI、楽しみです。





6. 最後の心臓 – [Vocal : suis (ヨルシカ)]


ヨルシカのヴォーカルsuisを迎えたこの曲は繊細で儚く、幻想的で無限の広がりを感じさせるエレクトロニカで、現在のMONDO GROSSOの真骨頂といえそうなナンバーです。

サビに入るところの、アンニュイな曲調から新しい世界へ一歩踏み出すような劇的な変化が不意に差し込んだ木漏れ日のようで、凄く胸熱になります。

実は最初アルバムを通して聴いた時は他の個性的な曲に気を取られてなんとなく聴き流してしまったのですが、何度か聴くうちに不思議な魅力に惹かれ、恐らく一番リピ聴きしています。聴けば聴くほど味わい深い、そんな曲です。





7. STRANGER – [Vocal : 齋藤飛鳥 (乃木坂46)]


「齋藤飛鳥がシューゲイザー!」と界隈で騒がれていましたが、乃木坂46結成より昔からMONDO GROSSOを聴いてきた自分的には「大沢伸一がシューゲイザー」というのがもう事件です。しかもご自身でギター&ベースを弾いていらっしゃる。いや本当に驚きです。

今作の大沢さんは幅広いスタイルの音楽に取り組んでおられますが、最たるがこのシューゲイザー。齋藤飛鳥というヴォーカリストを活かし切ろうと追求した結果なのか、ちょっとした遊び心なのか、そこは判りませんが、完成した音楽はドリーミーでファンタジックな極上の世界が出来上がっていました。

齋藤飛鳥さん自身もドラム叩いたりと音楽に造詣が深そうなので、マイブラあたりをイメージして歌ったりしているのかもしれません。前回のコラボ曲「惑星タントラ」もドリーミーで雰囲気抜群な曲でしたし、何ならシューゲイザーやドリームポップで埋め尽くした齋藤飛鳥ソロアルバムとか出してみたら面白そうです。





8. 迷い人 – [Vocal : 中納良恵 (EGO-WRAPPIN’)]


シューゲイザーに続くのは中納良恵さんが歌うしっとりとしたジャパニーズソウル。この2曲のギャップ、本当堪りません。

この曲は彼女のバンドEGO-WRAPPIN’よりも、昨年リリースされた彼女のソロアルバム「あまい」に近いテイストで、初期のMONDO GROSSOが得意としていたR&B〜アシッド・ジャズとも一味違う、日本語の質感が美しい大人のジャパニーズ・ソウル・ミュージックです。

そして石坂慶彦さんのピアノがローファイヒップホップでよく使われる倍音を歪ませた音が、まるで古民家に忘れ去られた何十年も調律していないピアノのようで凄く味わい深い。

斬新な音遣いでありながら何処か懐かしい、本当に素敵な曲です。





9. 幻想のリフレクション – [Vocal : 田島貴男 (Original Love)]


Original Loveの田島貴男さんがヴォーカルのこの曲、最初から最後まで田島貴男ワールド全開で、いやいやこれはもうOriginal Loveでしょうと突っ込みたくなります。でもよくよく考えると初期MONDO GROSSOはR&Bテイストの曲も結構あったのですけどね。

同じ時代に別々の場所で比較的近い音楽を創造していた御二方は実は同じ年齢(55歳)。恐らく音楽体験も共通した部分があるのでしょう。お互いの音楽が確立したアーティスト同士がリスペクトし合いながらスマートにコラボするのは本当カッコいいなあと思います。

そして間奏にあたる部分にラッパーのKamuiがリリックを乗せていて、ここが凄く効いていると個人的には思います。田島さんのヴォーカルとMONDO GROSSOのサウンドという強者x強者に割って入って存在感を示せるラッパー、しかも今時感を出せる御方となると限られると思うのですよね。

MONDO GROSSOの楽曲は女性ヴォーカルが多めですが、こんな渋味溢れる曲もいいですね。




10. CRYPT – [Vocal : PORIN (Awesome City Club)]


Awesome City ClubのヴォーカルPORINが歌うこの曲がアルバムの中で一番最近のJ-POPらしいサウンドかなと思いますが、Awesome City Clubとはかなりテイストが異なります。こちらはミステリアスな浮遊感が漂う近未来エレクトロニカ。敢えてエモを抑えたような彼女のクールなヴォーカルも絶妙にマッチしています。

大沢さんは女性ヴォーカルの活かし方が本当天才的で、この人がこんな風に歌うんだ!という驚きをしばしば与えてくれるのですが、この曲は正にそれですね。





11. OVERFLOWING – [Vocal : 中島美嘉]


この曲は中島美嘉さんのヴォーカルがとにかく素晴らしいです。彼女の実力は今更申し上げるまでもありませんが、過去に「Love Addict」という曲を大沢さんがプロデュースしていて、この曲はめくるめくブラスとストリングスに彩られたなんとも妖艶な曲ですが、今回は勇気づけられるような力強く清々しい曲です。

AメロBメロは低音で囁くようなヴォーカルで、サビで一気に約1オクターブ上がるのですが、ここのA♭の音が凄く良いんですよねえ。恐らく彼女の声が最も魅力が光るのが恐らくこの辺りの音域なのでしょう。

年齢不詳な佇まいを持ち合わせていますが実はもう約20年のキャリアを重ねている中島美嘉というヴォーカリストの凄味に恐れ入った一曲でした。






12. BIG WORLD – [Vocal : RHYME]


フィナーレを飾るのはオーストラリア出身のミュージシャン/DJ/プロデューサーRHYMEの歌う表題曲「Big World」。彼女はRHYME SOというユニットでも大沢さんと活動していますが、エレガントな澄んだ歌声が本当に美しい。「Big World」という言葉も非常にしなやかです。

CDでリピート再生しているとこの曲に引き続き冒頭の「Intro」が再生されるのですが、その2曲の繋ぎがあまりにも自然で、そこまで意図しているのかどうかは分かりませんが、何となく輪廻転生し続ける自然の摂理みたいなものを彷彿させます。






最後にアルバムのアートワークについて。


地球をモチーフにしたジャケ写は美しく色鮮やかで揺るぎない大地が表現されていて、歌詞カードも四季折々の自然の写真に彩られています。

眺めていてふと思ったのが、目に見えないウイルスに翻弄されているのは人間だけという事実。こんなにも人類は脅威に晒されているのに、自然は何も変わらず、むしろ人間が生産活動を制限したことで恩恵すら得ているのではないかと。

きっと音楽が、そして変わらぬ自然の力が、変わってしまった人間の世界で彷徨う私達の心の在処を探す道標になってくれるのでしょう。







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