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ジャズ入門プレイリストを作りました

「21世紀のジャズ入門」という記事を書いてから、21世紀のジャズをまとめたプレイリストを作る作業に取り掛かっていましたが、思った以上に時間が掛かってしまい、その間に20世紀のジャズ入門プレイリストが先に仕上がってしまいました。


ようやくプレイリストが揃いつつあるので、ここでご紹介するとともに、どういう視点でまとめたかというのを補足しておきたいと思います。


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まず、今回のジャズ入門プレイリストは1941年録音のビバップ創成期の名盤「ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン」からスタートしていて、それ以前のスイング・ジャズ等については範囲外としていることを先におことわりしておきます。



私が20世紀のジャズ入門プレイリストを作ったのは、十代の息子が突然ジャズを聴きたいと言い出したのがきっかけです。最初にビバップ〜ハードバップ中心のプレイリストを作ったのですが、せっかくなら続編をと欲が出まして、1990年末までのプレイリストを作り出したらカオスになってしまい、改めてこの時代のジャズを俯瞰する機会となりました。


ジャズ名盤、という文脈で紹介されているアルバムの多くは1950年代〜1960年代初頭の作品に集中しています。60年以上前の音楽が何故今でもジャンルの中心として語られるのかというと、やはりこの時代のジャズが最も明快で受け入れられやすいのだと思います。

ビートルズ登場前であるこの時代は、ジャズが今よりも多くの人々に聴かれており、多数派に愛される親しみやすい作品がシーンの中心を彩っていくのは世の必然といえましょう。

その後ジャズは変化し、様々な賛否を巻き起こします。そして1990年代末には一見すると方向性を見失いつつあるようにもみえましたが、それは21世紀にジャズが一気に多様化していく序章だったのです。この時代のプレイリストをご紹介するにあたり、その流れについてもう少し言及したいと思います。



多くの人々に愛されるポップな大衆音楽だったジャズは、時代の流れと共にその様相が変化していきます。そのきっかけとなったのが1959年に発表されたマイルス・デイヴィス「Kind of Blue」で、モードという概念を導入したその革新的作品は、ジャズが音楽理論上の高みを目指した第一歩であると同時に、ジャズが『聴く人を選ぶ音楽』へと変容していく序章でもありました。

マイルス・バンドの参加ミュージシャン達はモード理論を取り入れた演奏をするようになり、彼らの作品は新主流派と呼ばれました。不協和音の飛び交うモード・ジャズは芸術性を高める一方で大衆性からは次第に距離を置くようになっていきました。

ジャズの巨匠としてマイルスと共に名指しされるのがサックス奏者ジョン・コルトレーンです。1965年発表の「至上の愛」はスピリチュアル・ジャズの元祖にして最高峰。彼の存在は一人の演奏者という立場を超越し、彼を神格化する熱狂的信者を産みました。コルトレーンも取り組んでいたフリージャズは、より自由な表現を求めて生まれましたが、ジャズをよりニッチなジャンルへと追いやる一因にもなりました。

そして1970年にマイルス・デイヴィスによる世紀の問題作「Bitches Brew」が世に放たれます。エレキギターや電子ピアノを取り入れ、複数の打楽器が織りなすポリリズムとフリースタイルのアドリブが生み出したマイルスバンドの音はサイケデリックで実験的な音楽であり、これはジャズか否か、等々、議論を呼び起こしました。

古き良きジャズを愛し、ともすれば排他的なジャズ原理主義者にとって「Bitches Brew」は受け入れ難い音楽でした。そしてそのアバンギャルドな音は多くの人々に愛されるポピュラーな音楽とはあまりにもかけ離れていました。



フリージャズや「Bitches Brew」が議論を呼ぶ一方で、ジャズを基盤にしつつフレンドリーな新しい音楽も誕生していました。それがクロスオーバー、またはフュージョンと呼ばれるジャンルで、ジャズにロックやポップスの要素を融合して高い演奏技術と親しみやすさを両立させた音楽は、AORとの親和性も高く、70年代後半から90年代前半にかけて大流行しました。


1990年代に入るとヒップホップの隆盛に伴い、ヒップホップにジャズを取り入れた「アシッドジャズ」が大流行しました。アシッドジャズにおいてサンプリングのネタ元となった曲の中には1960年代〜70年にリリースされていたR&B〜ファンクに近接するジャズも多く含まれ、これらはレア・グルーヴとして再評価されました。



フュージョンやアシッドジャズが盛り上がる中、根幹にある伝統的ジャズを改めてリスペクトする気運も湧き起こっていました。1987年に発表されたトランペット奏者ウィントン・マルサリスによる「Marsalis Standard Time」は、従来のカルテットによりスタンダード曲を演奏するという、ある意味時代に逆行した試みでした。この「新伝承派」の流れを当時は懐古趣味と揶揄する声もありましたが、この作品をきっかけに多くのミュージシャンがスタンダード曲を録音したのもまた事実です。


『ジャズは何処へ向かっていくのか』という命題に対するアンサーは1990年代末には不透明でした。スティーヴ・コールマンの提唱する『M-BASE』など、新しいジャズの試みは幾つか取り組まれていたものの、当時はフュージョンやアシッドジャズの話題性に押されていたような印象も否めません。しかしながらそれらの試行錯誤により飛散した種が21世紀に入ると大輪の花を咲かせるのです。


という訳で、前置きがだいぶ長くなりましたが、20世紀のジャズ入門プレイリストは上記の流れを踏まえて以下の4つにカテゴライズしました。


① ビバップ〜ハードバップ

② スピリチュアル・フリージャズ〜新伝承派〜M-BASE etc

③ エレクトリック・ジャズ/フュージョン

④ ジャズファンク〜アシッドジャズ

「Bitches Brew」以降のジャズは方向性から3つに分けてプレイリストを作成しました。

どのプレイリストから聴くかはお好み次第ですが、多くの方がイメージするジャズの曲が揃っているのは①のプレイリストです。②〜④はどちらかというと応用編ですが、より深くジャズにハマりたい方には是非聴いてみていただきたいです。



そして21世紀に入ると、ジャズの世界は想像を超える広がりを呈しました。それについては以下の記事で語っております。

21世紀のジャズ入門プレイリストは、以下の4つのテーマにカテゴライズしました。これは一般的な定義ではなく、プレイリストを作成する上で便宜上設定したカテゴリーです。


① 狭義のジャズ: 従来のジャズを踏襲しながら一層の追求を極めた作品

② 新世代ジャズ: 他ジャンルの要素を大幅に盛り込んで新しい型を提示した作品

③ ジャズ周辺の音楽: 他ジャンルにジャズを大胆に取り込んだ作品

④ 世界のジャズ(未完成)

21世紀のジャズは一層の多様化によりジャンル的なカテゴライズは困難ですので、従来のジャズからの距離感で捉えることにしました。主観的かつ境界不鮮明な視点であり、正直どっちつかずの曲が数多くありますが、あまりそこは深く追及せずに色々なジャズがあるんだなということでお楽しみいただければ幸いです。


ジャズ名盤、というと、姿勢を正して聴かなければならないような気分になりがちですが、これらのプレイリストは初めてジャズを聴く人が自分の好みに合うジャズを見つけられるようにと有名曲を集めましたので、ぜひ気軽に聴いていただきたいと思っています。






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