上場準備中の労務管理で注意すべきこと(前編)

毎週更新すると言って、全く有言不実行で申し訳ありません。自称バックオフィスデザイナーの乙津です。
今回は書く書くと言って全く筆が進まなかった上場準備中の労務管理のポイントを書きたいと思いますが、正直言ってボリュームが多すぎるので、前中後編になります。
また多くの論点が労務管理にはあると思うのですが、ここは最低限カバーしておかないといけない点となりますので、予めご了承ください。

1.上場準備中の労務管理はほぼ完璧でないといけない

上場準備中の労務管理ですが、昨今様々な労務関係のトラブルが発生しているのもあり、ほぼ完璧でないといけない風潮があります。
少しくらい違反していても大丈夫だろう、少しくらい労働基準監督署への提出が遅れていても大丈夫だろうと思っているそこのあなた。

大丈夫ではありません。

私は経理出身なので、会計や税務周りが得意ですが、その私でも今から書くくらいのことは原理原則から理解し、今まで所属してきた幾多の上場準備企業で労務管理をゼロイチで整備しています。
もし労務管理?原理原則?など全くわからないまま上場準備をしようとしているのなら上場準備が得意な社労士に早急にアドバイスを求めましょう。
昨今の上場準備では予実管理、労務管理が超重要事項と言っても過言ではありませんので、これを気に必要最低限な知識を持っていただくと少しだけ楽になるかもしれません。
それでは本題に行きましょう。ほとんどが法令の話ですが、極力わかりやすく記載したいと思います。

2.労働条件等の明示が正確に行われていない

労務管理を構築するうえで、基本となる法律は労働基準法です。労働基準法は、労働条件の最低基準を定めたもので、これを下回る労働条件は認め
られません。
またその運用にあたっては、規則や書式等の作成を義務付けられています。代表的なものとしては、労働条件通知書、出勤簿(タイムカード)、労働者名簿、賃金台帳、就業規則等があります。
すでに今、この書類がない場合は早急に過年度から作る、情報収集をする等してください。

2-1.労働条件通知書
労働条件通知書というのをご存知でしょうか?「えっ雇用契約書とは違うの?」と思ったそこのあなた。

全く違います。

労働条件通知書とは、労働者と雇用契約を結ぶ際に、事業主側から労働者に書面で通知する義務のある事項が記載されている書類です。労働基準法では、労働の契約をする際に会社が労働者に対して明示すべき絶対的明示事項を定めています。
2019年1月現在では書面で通知しなければいけません。(2019年4月から電磁的方法でも可能になるようです。確か。)
さて、明示すべき絶対的明示事項は以下になります。
・労働契約の期間に関する事項
・就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
・賃金の決定、計算及び・支払方法、締切及び支払の時期
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)
上記以外は書面で通知しなくてもよい、とされています。
「今まで通知したことなんかない。。。困った」と思ったそこのあなた。

大丈夫です。一度雇用契約書を確認してください。

雇用契約書を見て上記の内容が全てきちんと記載されていれば、問題ありません。書面で上記内容を通知していることが明らかであれば、その書面のタイトルが雇用契約書でも書面で通知しなければいけない部分はクリアできます。
雇用契約書で上記内容がカバーされていない場合は、社員に説明し、タイトルを「労働条件通知書兼雇用契約書」に変更して、再度記名・押印をしてもらいましょう。
私はいつも「労働条件通知書兼雇用契約書」に変更して運用します。またこの書類の労働者の住所や記名・押印についてはwordファイルに入力等はしません。必ず労働者側に手書きしてもらいます。
これは万が一何かトラブルが発生した際に「会社が勝手に印鑑を押しただけで、私は知らない」と言われるリスクを防ぐためです。

2-2.就業規則
就業規則はさすがに上場準備をされている会社は作っているでしょう。一般的に社労士に作ってもらっていることが多いと思いますので、中身について説明する必要はないと思いますが、注意しなければいけない点をいくつか。

2-2-1.就業規則で減給を定めている場合は、労働基準法で定められている減給の限度額を超えてはいけません。(実務でももちろんいけません。)
減給の限度額は「1回の額が平均賃金の1日分の1/2と総額が1賃金支払期(一般的な会社は一ヶ月のはず)における賃金総額の1/10」です。
これはor条件ではありません。
ということは何かしらの理由で減給しなければいけない場合、その何かしらの理由1回での懲戒としての減給は最大半日分まで、仮にそれが複数回でも上限として一ヶ月合計で総額の1/10を超えてはいけないということになります。

2-2-2.就業規則は労働者の代表を定め、その労働者代表の意見を聴取し、就業規則と共に労働基準監督署に提出しなければいけません。
労働者の代表は以下の要件で選出しなければいけません。
①管理監督者ではない人
②就業規則について従業員を代表して意見書を提出する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された人
管理部門の一般社員がなっているということがよくありますが、ここだけでは違反とは言えませんが、その選出方法が民主的ではなく、上司に言われてなっているということが明らかになった場合は無効になる場合がありますので、注意してください。

2-2-3.就業規則は定められた方法で周知しなければいけない。
以外に盲点となっていそうな気もするのですが、就業規則は周知するだけではなく、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
②書面で労働者へ交付すること
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準じる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
実務では労働基準監督署の確認印が押された控えをPDFファイルにして全社員が閲覧可能なファイルサーバー等に公開するのがいいと思います。

3.帳簿類の作成が行われていないもしくは作成されていたとしても内容が不足している

3-1.労働者名簿
使用者は以下の要件を満たした労働者名簿を各労働者について作成しなければいけません。また変更があった場合は遅滞なく変更しなければいけません。
①労働者の氏名
②生年月日
③職歴
④性別
⑤住所
⑥従事する業務の種類
⑦雇入れの年月日
⑧退職の年月日及びその事由(解雇の場合はその理由)
⑨死亡の年月日及びその原因
これらを各労働者が退職、解雇、死亡を起算日として3年間は保存しておかなければいけません。(タイムカード等の出勤簿、時間外労働に関する書類等も含みます。)
少し本題から逸れますが、労務情報を何年保存しておくか、とよく聞かれるのですが、源泉徴収関係は7年であることを考えると、労働者に関する情報は7年間は保管しておくことをオススメします。

3-2.賃金台帳
よく勘違いされることが多いのですが、賃金台帳は給与明細とは違います。労働者ごとに以下の要件を満たした台帳を作成しなければいけません。
①賃金の計算の基礎となる事項
②賃金の額
③氏名
④性別
⑤賃金計算期間
⑥労働日数
⑦労働時間数
⑧時間外労働、休日労働及び深夜労働の労働時間数
⑨基本給、手当てその他賃金の種類ごとにその金額
⑩労使協定により賃金の一部を控除した場合はその額
こちらも3年間の保管義務があります。

3-3.出勤簿
労働者名簿と賃金台帳は労働基準法で作成義務があることに対し、出勤簿(タイムカード等出勤の事実を明らかにしたもの)は労働基準法上では作成の義務はありませんが、どこの会社でも絶対に作成しているものでしょうし、上場準備観点では上記にも記載していますが、従業員の起算日から7年間は保存しておきましょう。

さて、いかがだったでしょうか。
上場準備を進める上で労務管理は本当に過年度含めて徹底的に管理しなければいけないことの一つです。
こちらはあくまで経験則に基づいた内容になりますので、こっちの方が大事では、このような観点もあるのでは等のツッコミは大歓迎です。

上場準備に苦労する管理部門の方に少しでも有益になりそうな情報をこれからもアップしていきたいと思っています。
次回は中編です。もう少しお付き合いください。

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Yasuhito Otsu

ベンチャー企業にて経営管理部長を歴任後、スタートアップの創業メンバー、取締役CFOとして二桁億円の売却経験あり。27歳から上場準備の実務に携わるが14年間で一回も上場を達成できなかった、上場したことがない上場準備のプロ。自称バックオフィスデザイナー。

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