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ヒヤシンスにアイ「AI」はあるか?

バスケットで楽しむヒヤシンス

 小さい頃、ヒヤシンスの水栽培を窓辺に飾って楽しみにしていたのですが、どうもあの根っこが苦手で。。。短い時は、今にも歩き出しそうな海老の足、伸びればラーメンに山盛りにされたもやしにしか見えず、花より根っこにゾクゾクしていました。
 イギリスでは球根のヒヤシンスは、モス(苔)を詰めたバスケットに寄せ植えしたのもが人気です。これなら根っこは見えません。球根が植えられた状態で売られているので、発芽から開花まで一ヶ月以上楽しませてくれます。クリスマス前に買ったヒヤシンスのバスケットが今頃ちょうど満開になりました。冬の清々しい空気に溶け込むすっきりとしたあの香りは、今ならではの喜びです。

「AI」?

 ヒヤシンスの名前の由来は、ギリシャ神話に出てくる美青年ヒアキントスの流れた血から生まれた花だから、とよく説明されています。ヒアキントスを可愛がっていたアポロンが円盤投げを教えているときに間違えて殺してしまったという話です。
 ヒアキントスを愛していたアポロンがその死を悲しみ「AI, AI(アイ、悲しい)」という文字をその花に刻みつけた、という悲しくも美しい話として知られています。
 でも、と、思います。
 ヒヤシンスの花のどこに「AI」があるのだろう?
 花の形が似ているようにも見えないし、AIの模様もないような。
 気になって、まずはBritannica百科事典を調べてみました。
 Hyacinthでは品種などの説明が主なので、ギリシャ神話のHyatinthus(ヒアキントス)を読んでみると、意外な説明がありました。
"Out of his blood there grew the flower called hyacinthos (perhaps a fritillary; not the modern hyacinth) ” Britannicaより引用
 つまり今私たちがヒヤシンスと呼んでいる花は、ギリシャ神話のヒアキントスから生まれた花ではなかったのかも?実はFritillary(バイモ属ユリ科)なのかもしれないの?
 Fritillaryで思いつくのはアミガサユリ。

Snake's head fritillary 蛇の頭みたいなのです。

 この模様が「AI」なのでしょうか。どちらかというと毛細血管の模様。
 血を連想させてはくれます。

あなたは誰?

 ヒアキントスの血から生まれた花は実は今のヒヤシンスではないのではないかという説は、調べると他にもいくつかありました。
 例えば
 ホメロス(古代ギリシャ)が見たと思われる野生のHyakinthousはScilla bifoliaである。
 ローマ詩人のOvid(オウィディウス)ではアポロは死んだ少年をLarkspur flowerに変えた。
 などと、神話によっても変化する花が異なるそうです。他にIris (アヤメ科)野生種であるという説もありました。
 どちらにしても要は「AI」という形、もしくは模様があるのがヒアキントスから生まれた花、なはずです。これからは花を見るたびに「AI」の印を探してしまいそうです。
 Britannicaにはもう一つ、面白い話が載っていました。
 Hyacinthus(ヒアキントス)はラコニアのアミクラエ(Amiyclae in Laconia)という場所で、もともと初夏の祭りで祝われていた神様だったのではないか、というのです。この祭りは明らかに植物と結びついており、ヒアキントスはギリシャ時代以前の地下世界の植物の神(underworld vegetation deity)として崇拝されていたのですが、だんだんとアポロン崇拝と同化していったのだ、という説です。ギリシャ精神を代表するアポロンの権威が植物神としてのヒアキントスを飲み込んでいく歴史の中で、若く美しい神と薄命の美青年の愛の物語へと変容していったのかもしれません。
 神話にはヒアキントスは西風の神ゼピュロスからも愛されており、嫉妬からを殺されたというバージョンもありますが、これもヒアキントスの植物神としての背景を考えると何か関連があるのかも、と深読みしてしまいそうですね。

ヒヤシンスの花言葉



ヘーゼルの小枝と一緒に

 私の近所ではヒヤシンス1束五本入りで大体5ポンド(九百円くらい)くらいで販売しています。ヒヤシンスは、オアシスを使ったアレンジメントには茎が太すぎてあまり使い勝手がよくありません。ですのでもっぱら花瓶にドボンと入れるだけ。
 ヒヤシンスの花言葉は色によって違うみたいです。
 ピンク色はplayful joy  (陽気な喜び)
 紫色はdeep regret, desire for forgiveness (深い後悔、許してください)
 白色はlove and prayer  (愛と祈り)
 黄色はjealously (嫉妬)
 青色はsincere feeling of love and deep care (あなたを大切に思っています)
 面白いのは赤色。赤いバラやチューリップは強烈な愛を意味しますが、ヒヤシンスの赤はもっと軽やかな愛。
 おや、と思いました。これは昔日本で夢中になった花言葉の意味と違うんじゃないか。改めて日本のヒヤシンスの花言葉と比べてみると、いくつか違う点がありました。
 日本では赤いヒヤシンスが「嫉妬」です。
 イギリスでは黄色のヒヤシンス、日本では赤いヒヤシンスは大切な人には贈らない方がいいかもしれませんね。

今日の花 carpe diem

参考
ギリシャ神話 講談社青い鳥文庫
Hall's Dictionary of Subjects & Symbols in Art 

 


 


 
 

 

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