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台湾視察:DAY2。台中駅PPP事例視察と財務部PPP当局&台北市政府メンバーとの交流・ディスカション

バタバタしていてあっという間に1ヶ月が経ってしまいました…(反省)
2024年3月初旬に東洋大学PPPスクールの現役院生・OB・客員を含む教員とともに台湾の公民連携取り組みに関する視察ツアーを行いました。
二日目は2か所を訪問。午前中はTHSRを使って台中に移動し旧・台中駅という歴史的建物の保存・活用+台鉄保有資産の有効活用(駅前再開発)を一体化したPPP(対象不動産とゾーンによってBTOとROTとOTを組み合わせた公民連携)についてお話しを伺いました。
午後は台北に戻って台湾各地で展開される「文創園(カルチャーパーク)」の一つ松山文創園區で台湾政府財務部と台北市財務局の方々とディスカッションミーティングを行いました。


旧・台中駅という歴史的建物の保存・活用+台鉄保有資産の有効活用(駅前再開発)

視察したプロジェクト「「台中駅鉄道カルチャーパークPFI事業」は、2016年に完成した台鉄・台中駅周辺高架化工事後に台中市政府が台鉄と共同で行っている各主要駅及び周辺地域の都市再開発事業の一環のプロジェクトです。(参考。入札前の情報が書かれた記事。このリンクの5P
事業目的に興味を持ち、動き始めた臺中驛鐵道文化園區プロジェクトを視察しに行きました。

筆者撮影(旧台中駅外観)

30年以上にわたり台中で活動してきた民間企業(建設・不動産以外の分野)が不動産部門を強化(立ち上げ)して取り組んだ事業で、開発エリアや対象物件により複数方式(BOTとROTとOT)を組み合わせたプロジェクトです。
事業はコロナ禍などでペースダウンしていましたが、将来的には築 100 年の歴史遺産でもある旧・台中駅の保存・動体的活用に加え公園、ホテル、商業施設を民間企業が整備し50年を基本に(なぜ基本か。50年終了後の運営権選定においてプラス20年間の優先権を持つというインセンティブもあり)運営される予定の事業です。

臺中驛鐵道文化園區 ホームページより

台湾政府主導の「文創園(カルチャーパーク)」を基盤とした地域経済振興策

文化クリエイティブ産業とは
文化クリエイティブ産業の基盤は国の文化の奥深さにあり、文化経済の発展は文化コンテンツが根幹となります。このため、当部は文化経済振興に向けて、産業エコシステムの発展環境構築に尽力・・・

文化部の業務 2.産業集積効果と地域の魅力発信を支援

各地域における文化クリエイティブパークの経営管理や、芸術とクリエイティブの集積形成を後押しし、地域文化の特色をアピールすることで、文化クリエイティブ産業集積による魅力を作り上げます。

台湾政府 文化部 ホームページより

という意味づけは文化財を静態保存の対象ではなく資源ととらえた地域振興策であり、それを加速させるために官民が連携するPPP事業を選択することは目的と手段の一貫性を感じます。

またPPP事業にあり方においても、官民がそれぞれリスクとリターンを双方に享受するための「現実的な関係作り」を垣間見ることができました。
例えば、採択された事業期間の「始まり」をどう考えるかでいうと、例えば都市施設開発部分は契約が起点ではなく施設整備の完了が起点とすることで民間の資金回収期間の確保という点で民間のリスクヘッジを担保していたりし、一方でOT方式を混在させることで政府の初期投資をなくすリスク軽減策が取られるなどという話を伺いました。結果自体はもしかすると新しいものではないかもしれませんが「当事者同士の対等な関係における話し合い」の結果であるということから、PPP事業の本質からぶれていない運用がされていると思いました。

財務部PPP当局&台北市政府メンバーとの交流・ディスカション@松山文創園區

会場としてお招きいただいたのは「松山文創園区」にある「図書館」です。

筆者撮影
筆者撮影


元は1937年の「台湾総督府専売局松山煙草廠」(後に台湾煙草公司が引き継いだ台湾総督府専売局松山煙草廠、さらに酒類専売局と改称)、市政府が99番目の市史跡に指定する歴史的建築物(産業遺構とも言えるか)です。

ディスカッションの前にそれぞれ台湾と日本における基本的情報をプレゼンしあう中で、面白い気づきに出会いました。
台湾のPPIPF(PPP / PFI)は2000年に導入され、BOT、DTO、RT、ROT、OT、EOおよびピアバイなど多様な手法があります。2002年から2023年までに投資されたプロジェクト数は1,628件、投資額は9,840億ドルだそうです。総投資額のうち2023年だけについてみるとBOT方式が用いられた割合が最高(約70%)で、カテゴリー別に見ると交通施設が40%と最も高く、ハイテク施設が2%、スポーツ施設が3%、文化・教育施設が7.6%、社会福祉施設が2%となっているそうです。こうした投資額構成では土木分野が大きくなるのはどの国でも同じだなという印象でしたが、個人的に面白かったのは1,500以上の過去プロジェクトの中で「OT方式」が用いられているプロジェクト数が約67%という最も高くなっていることでした(ちなみに担当官庁では約68%が地方自治体が実施したものだそうです)。

OTはOperation & Transfer 運営して引き渡すということですが、最後に何を引き渡すかという点で「運営権」を引き渡すというものだと理解しました。その点においては日本でいうコンセッションに近いかもしれません。
ただしし日本のコンセッションのように運営権を担保価値のある権利としてお金に変え初期投資は民間が資金調達して権利を買う→政府が権利を売却して得たお金で施設を建設(整備)という流れではなく、運営権を得た民間が自分で資金調達して自ら発注するというフロー、政府発注工事は起こらないフローでありその点(お金の流れ)では合理的だと思いましたし、スピードも早そうだなと思いました。
とともに(注:これは私の受け止めなので正確ではないかもしれません)、実態的には定期賃貸契約であり設定した目的の逸脱と価値の既存をさせなければ独自の改修を含む取り組みができる点でも合理的な印象を受けました。

もう一つなるほど、と思ったことは、この松山文創園区には隣接施設として台北ドームとインキュベーションセンタービルが並び、街区としての収入の一部を分配してカルチャーパークの運営を補助しているということでした。
先ほども書いた「文化クリエイティブ産業とは;文化クリエイティブ産業の基盤は国の文化の奥深さにあり、文化経済の発展は文化コンテンツが根幹となります。このため、当部は文化経済振興に向けて、産業エコシステムの発展環境構築に尽力・・・」という中で、これはまさに産業エコシステムの発展環境であると受け止めました。
無関係ではない相互に影響を与えるような何かと何かを組み合わせることで持続可能性を高める、という観点でも面白い考え方と実践だと思いました。

OT方式の実態理解を進めることはスモールコンセッションの可能性拡大にもつながる(かも?)

スモールコンセッションという不幸(不明瞭)なネーミングのせいで狭義に捉えられがちなローカル・スモール公共不動産活用においても、PFI法の運営権設定ではない方法も幅広に含めた公有府不動産の利活用を進める際、このOT方式の実態を調べることは参考になるのではないかと思いました。

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