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驚きの効果: うつ病に対する食事療法の論文

はじめに

この記事を読むことで、うつ病と食事の関係、うつ病改善のための食事療法という新たな知識を得ることができると思います。

うつ病について

うつ病の予防や治療は、ストレスの多い現代社会においてとても重要な課題となっています。
うつ病発症の原因には生物学的(神経伝達物質の関連など)、心理的、社会的要因が複合化的に関与すると考えられているそうです。
うつ病は若い世代に多く、海外の研究報告によると18歳から24歳という精神的に成熟しようとする年齢で発症しやすいと報告されています(もちろん中高年でも発症します)。
うつ病は早期から専門的治療を行ったほうが良いと考えられますが、特に男性では女性に比較して、専門的な治療を受けている割合が低いと指摘されています。
ある研究によると男性うつ病者では、そのうちのわずか13%しか治療を受けていないと報告されました。
この数値は、海外の報告によるものですが、日本でも同じような状況なのかもしれません。
また、男性は女性に比較して調理の機会が少ない事、食事に気を遣わない人が多く食事の質が低い傾向にある事も、うつ病と関係があるのではないかと指摘されています。

うつ病と食事の関係

うつ病と食事の関係はあるのでしょうか?
答えはYesの可能性が高いです(科学的に断定するためには更に多くの研究が必要です)。
過去の大規模な疫学研究において、食事の質が高い人々は、低い人々に比較し、うつ病の発症リスクが低いことが報告されています。
にわかには信じがたいのですが、同じような結果が複数の研究によって提示されています。
また、家族や友人と新しい料理や調理方法を学ぶこと自体が、精神的なケアに繋がる可能性も過去の論文によって紹介されています。

では、次に、うつ病の方が、実際に食事を変えたならば、病気の症状は改善するのでしょうか?
これまで、これらのことは調べられていませんでした。
なぜならば、食事の介入研究は、単に薬を飲む研究と比べて、厳密な管理が難しく、実施すること自体が難しいからです。

しかし、オーストラリアの研究チームが果敢にこの問いに対する研究を行い、今年2022年に権威ある栄養学ジャーナルに成果を発表しました。
うつ病に対する食事をメインとした質の高い介入研究の発表は世界で初めてとなります。

その成果は、重症度が中程度から高度のうつ病になっている若い男性が、質の高い食事を食べ続けると、うつ病の重症度が改善し、健康感や幸福感が上昇したという驚きの結果でした。
この研究は、無作為ランダム化比較試験(RCT)という信頼度の高い方法で取り行われており、そこで得られた結果は重要な意味を持ちます。
今回の研究は男性が対象でしたが、おそらく女性でも同じような効果が得られるのではないかと想像されます。

さて、ここまで質の高い食事という言葉を使用してきましたが、具体的にどのような食事がうつ病の予防や改善に役立つのでしょうか?
また、その質の高い食事をどのくらいの期間続ければ効果が得られるのでしょうか(ヒント:思ったよりも短い)、さらにどのように症状が改善したのでしょうか?
これらの問いについて、本日の論文を紐解いていきたいと思います。

この数行先からは有料記事にさせていただきます。
この有料記事は、一般の方には理解が難しい英語で書かれている栄養学の科学的論文のエッセンスを噛み砕いて説明しています。
もちろん、どのような食事なのか、どのくらいの期間でどの程度の効果が得られたのかについても詳しく記述しました(効果の程度は3枚の図を作成して示しています)。
さらに、これまで5000名以上の栄養指導をしてきた経験をもつ管理栄養士(私自身)の視点から、この食事を日本の食品や料理でスムーズに始めるための実践方法、簡単な献立例、モチベーションの保ち方について紹介をしています。
有料記事ということもあり、無料記事よりも丁寧に、かつ情報量を多くしました(全体で約9600文字と図3枚)。

以下の注意事項をお読みいただき、全ての項目について承諾を頂いた方のみ、ご購入をお願いいたします。
1. ご紹介する研究成果は海外で行われたものですので、日本人で同じような効果があるかは証明されていません。

2.食材の使用量に関する情報(たとえば、1日の卵の量など)や簡単な献立例は紹介していますが、具体的なレシピの紹介はありません。
しかし、レシピは記事で学んだキーワードを使えばインターネットを用いてご自身で簡単に見つけられると思います。

3.海外と日本では使用食材や調理法などが異なりますので日本での実現可能性を考慮する必要があります。
研究で紹介されている食品はいずれもスーパーで手に入る一般的なものですので、日本でも似たような食事にすることは十分にできると思います。

4.治療効果には個人差がありますので、効果を保証する内容ではありません。
しかし、質の高い研究結果に基づく科学的なデータは参考になると思います。

5. うつ症状が強く、ご自身で買い物や食事をつくることさえ難しい場合は、食事面でご家族など他者のサポートがないと、ここで紹介する情報をすぐに活用できないかもしれません。
しかし、買い物を簡略化する案については、記事の中で少しだけ述べていますので参考になると思います。
ちなみに、この研究論文の対象者は中程度または重症のうつ病の人々で、そのうち32%の方(おそらく独居)は研究期間中にご自身で買い物と調理をされていました。

中等度・高度のうつ病症状を改善した食事の概要と実践方法

中程度から高度なうつ病に改善効果を示した食事とは、いったいどんな食事でしょうか。
ズバリ「地中海食」です。
な~んだ、と思われた方もいるかもしれませんが、では地中海食って何をどの程度食べる食事なのですか?という質問に対して、どの程度の方が明確に回答できるでしょうか。
オリーブオイル。。。。しか思い浮かばないという方もいらっしゃいますよね。

さらに、この研究の重要なところは、地中海食の摂取をわずか「12週間継続」すると、うつ病の病態が改善したということです。
食事療法というと、長期間継続してやっと効果がでるかでないかですので、この研究成果は画期的と思います(詳細は後述します)。
根拠論文は以下の通りです。
Bayes J, et al. Am J Clin Nutr. . 2022 Aug 4;116(2):572-580.

地中海食とはどのようなものでしょうか?
実は、地中海に面するそれぞれの国によって微妙に異なっており様々な定義があります。
それぞれの国の食文化に基づいて、地中海食が進化・派生したからです。
今回の研究では、ギリシャとスペインの地中海食に基づいた食事が用いられていると論文に記載されています。

具体的な食材と量

以下の食材と目安量が今回紹介する論文に用いられたものです。
これらを素直に摂取すれば地中海食になります。
調理法は関係ありません。どのような調理法でもOKということですね。

※サービングの定義はカッコ内の文章または後の文章で説明しています。
・全粒穀物:5~8サービング/日(1サービング:炭水化物量として50 g、具体例は後述)
・野菜:5サービング/日 以上(1サービング:70 g)
・果物:2サービング/日 以上(1サービング:100 g)
・豆: 1サービング/日 以上(1サービング:納豆1パック、豆腐1/3丁)
・魚:週に2サービング/週 以上
・ナッツ、種実類:1サービング/日(1サービング:約30 g)
・エキストラバージンオリーブオイル:3サービング/日(大さじ3杯)
・乳製品が1~2サービング/日(100~200 mL)
・卵:6個/日 以下
・家禽肉(鶏肉):2~3サービング/週(1サービング:約60 g)
・牛、豚肉:1サービング/週(1サービング:約60 g)
・菓子、揚げ物、加工肉(ハム、ウインナーなど)、清涼飲料水は、あわせて3サービング/週 以下(少量を3回まで)

食品のサービングに関する情報は、食事バランスガイド(農林水産省のHPなど)などの情報で簡単に入手できます。
たとえば、以下のサイトなどです。
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/division.html

穀物の摂取に関する補足

地中海食を実践する中で1番取り入れるのが難しいのは「全粒穀物」だと思います。
全粒粉パン、全粒穀物オートミールなどを使用したものと思われます。
しかし、この海外の食スタイルをそのままとりいれることは、持続可能性の点で難しいように思います。
そこで、日本の食事で考えますと、白米でなく玄米にしてくださいという意味になると思います。
玄米の健康効果は様々な論文で支持されていますので、全粒穀物を玄米で摂取することは妥当であると考えられます。
詳細は割愛しますが玄米よりも発芽玄米のほうが、栄養学的・調理学的に良い気がします。

手軽にお試しできるのは、割高になりますがサトウ食品がレンジでチンして食べることのできるパックの玄米ご飯または発芽玄米ごはんの利用です。
これを1パック食べると1サービング(炭水化物50 g)です(炭水化物量はパックの規格によりますので、成分表示を確認してください)。

長期的に取り組みたい方は、玄米を炊ける炊飯器を購入したほうが割安かもしれません(玄米ごはん200gで1.5サービングです)。
玄米も炊飯器もいずれもネットで購入できる時代ですので手軽に始めることが出来ますね。

繰り返しになりますが、全粒穀物を継続的に摂取することは、うつ病の症状だけでなく、便秘から糖尿病、心血管疾患、がんなど様々な疾患の予防・改善に寄与することが報告されています

野菜・果物に関する補足

1サービングが70 gですので、目安量である5サービング以上というのは350 g/日以上となります。
厚労省などがすすめている量と合致しますね。
この野菜を食べるときにエキストラバージンオリーブオイルを使用するとよいと思います。
参考までに、私の場合は、フレッシュな野菜に、ドレッシングではなくエキストラバージンオリーブオイルをかけて食べていますよ。
味が物足りない場合は、塩と胡椒または、塩と胡椒と酢を混ぜ合わせたものをふりましょう。

一方、ジュースやピューレなど加工されたものは、サービングとしてカウントできませんので注意してください。

オイルに関する補足

普通のオリーブオイル(化学的な処理と加熱処理がされたもの)ではなく、エキストラバージンオリーブオイルが使用されています。
これは地中海食の特徴的な部分ですので、少し高価ですが1日あたりの価格で考えると安く感じられます。
ここは、素直に質の良いエキストラバージンオリーブオイル取り入れた方が効果が出る可能性が高まると思いますし、何より香り高く料理を美味しく引き立てます。

たんぱく質食品の摂り方に関する補足と献立例

提示された食品量では、肉の頻度がずいぶん少なく感じると思います。
魚や大豆でたんぱく質を摂取してくださいということですね。
例えば、以下のような献立例が考えられます。

朝:発芽玄米ご飯 1.5サービング(200 g)、味噌汁(野菜1サービングを入れる)、納豆 1サービング (1パック)、野菜料理 1サービング(小鉢1皿)可能であればオリーブオイル1サービング(大さじ1杯)を野菜料理で使用する。
最初は抵抗があるかもしれませんが、味噌汁にオリーブオイルを入れるという裏技もあります。

昼:発芽玄米ご飯 1.5サービング(200 g)、スパニッシュオムレツ(卵1個:6回/週までは使用可能、野菜1サービング、オリーブオイル1サービング、サラダ1サービング(オリーブオイル1サービング)、ナッツ1サービング(30 g)

間食:果物2サービング(200 g)、全粒粉のオートミールやクッキー(1サービング)と乳製品2サービング(200 g)

夕:発芽玄米ご飯 1.5サービング(200 g)、魚ソテー1サービング(約60 g)、冷奴1サービング(1/3丁)、野菜料理(2サービング)にオリーブオイル1SV 

合計:全粒穀物5.5サービング、野菜6サービング、果物2サービング、豆類2サービング、魚1サービング、卵サービング(個)、乳製品2サービング、ナッツ・種実類1サービング

コツは、たんぱく質を何らかの形で毎食摂取することです。
いかがでしょうか?味噌汁って和食ですよね。。。
そう、そのとおり。
地中海食は調理方法を選びませんので、日頃私たちが食べている和食をアレンジすれば地中海食になるということです。
実際に和食と地中海食には共通点が多いといわれています。

レシピ、料理が思い浮かばなければ、「簡単、レシピ、オリーブオイル」などをインターネットで検索すれば、山のように動画などの情報へ一瞬でアクセスできます。
その中から、ご自身の調理スキルで簡単にできそうなものを考えていく作業も含めて楽しんでいくことをおすすめします。

食事療法の始め方と継続のコツ

地中海食の知識が得られても、食生活を変える事は口で言うほど簡単ではありません。
ダイエットがなかなか上手くいかないことと同じです。
それはよく承知しています。
うつ病の症状が強い方ではなおさらでしょう。
でも、ここまで読み進めることができているあなたは大丈夫!
読める気力があるあなたには、食事改善のポテンシャルが十分にあると思うからです。

今回紹介する食事内容に向かって、一気に食生活を改善できる方は一部に限られると思います。
もちろん、全てを改善出来る方は、無理のない範囲でトライしてみて下さい。

一方、一気に突き進む事ができない場合には、少しずつ、1つずつ変えていくことをすすめたいと思います。
何から始めるべきか?
2つの方法を提案します。
1つ目の方法は、ご自身がもっとも負担なく始められるところから取り入れるということです。
たとえば、菓子の代わりに果物を2サービング食べるようにしようという感じです。
地中海食の実践に不必要な食品を、必要な食品に交換していくのです。
そして、それが自然にできるようになったら、次にできそうな事を探していくのです。
これを繰り返すことで、時間をかけて最終的に地中海食に近づけていくという方法です。

2つ目の方法は、あえて難しいところから、でも効果が高そうなところから始めてみるということです。
具体的には全粒穀物からスタートすることをすすめます。
全粒穀物の摂取量は、1日に必要なエネルギー(カロリー)の約50%と、カロリーへの寄与率が高く、地中海食の重要な役割を担っていると思います。
そして、全粒穀物の摂取は、前述のとおり、うつ病だけでなく、様々な疾患を予防・改善するという効果が報告されていますので、これを取り入れることに成功すれば、健康感を感じることができる可能性が高いと思います。
次のパラグラフを参考に全粒穀物をうまく取り入れてみてください。

食事療法のモチベーションの保ち方

食事療法はとにかくまず始めてみること。
次に立ち止まったりつまずいたりしながらも無理がない範囲でなるべく継続することが大切です。
そのために3つの方法をご提案します。
1つめとして、まずは健康的な食事を楽しんでください。
健康的な食品を食べる喜びを全身で感じ、なんだか心地がよくなるようなイメージをしてみましょう。
食事を楽しい時間にすることができれば、無理なく継続できると思います。

2つめとして、まずは小さな目標(ゴール)を立てましょう。
例えば、魚料理を2回/週から始めてみるといった感じです。
そして小さなゴールを1つずつクリアし、1歩ずつ食生活を改善するのです。
貴方または貴方の大切な方のペースで進めばよいのです。
小さなゴールを達成したときに、「出来た!」ということを精一杯喜んで、そして自分をほめてあげてください。
すると自己効力感が高まり、弾みがついて、次の小さなゴールに向かう推進力がでることが期待されます。

3つめとして、適度に手を抜きましょう。
例えば、ご家族や信頼できる友人、医療スタッフが手助けしてくれる環境がある場合は大いに手を借りましょう。

一方、近くに頼れる方がいなくて、買い物に行く元気もない場合は、Amazonフレッシュなどを利用して新鮮な食品を配達してもらいましょう。

この食事療法に、手の込んだ料理は必要ありません。
いかに決められた食品を食べるかという最短距離を考え、そのまま食べられる野菜や大豆製品(豆腐、納豆)、刺身などをうまく利用して、いかに楽をして健康的な食事を続けるかを試してみましょう。

地中海食の各食品の目安量を多少上回ったり下回ったりすることは想定内です。
なるべく目安量に近づければよいという感じで、最初はややラフに捉えて始めたほうがよいと思います。
最終的に積み重ねた小さなゴールを統合すればよいのです。

食事療法の注意点

食事を変えるときに注意したいのは、食事量の過不足です。
まずはあなたの体型をBMIで評価してみてください。
体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できます。
例)50 kg ÷1.55 m÷1.55 m=20.8 kg/m2

あなたのBMIが18.5 以上25 kg/m2未満の普通体型の場合、体重を定期的に計測して、極端な変動がないいようにしてください。
仮に、食事でうつ病の症状が改善したとしても、体重が減少しすぎて(あるいは増加しすぎて)栄養不良になっては意味がありません。
体重が減少している場合は、食べ方が不足しているということですので、その際は全粒穀物とたんぱく質食品(魚、大豆製品)を増やしてみましょう。

一方、あなたの体型が25 kg/m2の場合は、多少の減量は問題ないかもしれませんが増加は問題があると思います。
あなたの体型が18.5 kg/m2(50歳以上は20.0 kg/m2、65歳以上は21.5 kg/m2)未満の場合は、これ以上の減量は低栄養が進行し、かなりまずい状況になります。

体重の変動がある場合は、全粒穀物の増減でコントロールしましょう。
さらに、かかりつけ医を持たれている場合は医師に相談しながら進めると安全でしょう。

論文の紹介

Bayes J, et al. Am J Clin Nutr. . 2022 Aug 4;116(2):572-580.
The effect of a Mediterranean diet on the symptoms of depression in young males (the "AMMEND: A Mediterranean Diet in MEN with Depression" study): a randomized controlled trial

地中海食の12週間の実施は、若い男性のうつ病の症状を改善することができるかという大胆な研究です。
過去の疫学研究において、うつ病と食事の関係がいくつか報告されており、その中でも地中海食が注目されています。
しかし地中海食を食べると本当にうつ病が治るのか?、症状が改善するのか?、ということは分かっていません。
そこでオーストラリアのグループが、72名の18~25歳のうつ病男性を対象に、12週間の介入研究を行いました。

すなわち、対象者72名を2つのグループに分け、一方のグループ(介入群)には地中海食を食べてもらい、もう一方のグループ(ついて対照群)には従来のカウンセリングのみ行い普段の食事を継続してもらいました。

全ての参加者は1回/月の頻度で専門医によるカウンセリングを通して食事療法のモチベーションを保つ支援が行われています。
食事療法は継続するためのモチベーションが大切ですので、医療機関にかかりながら実践した方が効果的だということですね。

介入群では、家庭で地中海食を実践してもらうために最初と6, 12週間目に、それぞれ60分間の地中海食に関する食事指導、モチベーションの保ち方、食事療法のゴールの明確化などのサポートを受けました。
また地中海食に関する小冊子やレシピ、予算内での食事両方のコツ、地中海食を外注できる50ドル分のチケットのようなサービスが付与されました。

一方、対照群においては、最初と6, 12週間目に精神医学的にうつ病症状の改善に有用である専門家によるカウンセリングが行われ、対象者との信頼関係の構築を目的に、研究には差しさわりのない話題(映画、スポーツ、趣味など)が会話に用いられました。

さて研究結果です。
まず、介入群では12週間の間で、簡易な食事調査(MEDASという方法)によると見事に地中海食になったという事が数値として示されました(一方、対照群では、あたりまえですが食事の内容は変わっていませんでした)。
つまり、12週間あれば家庭で地中海食を食べる事を日常化できるいうことが示されています。

次に、介入群におけるうつ病の重症度スコア(BDⅠ-Ⅱ:20以上は中程度以上のうつ病と判定)が、介入群のスタートラインの値は6週間後および12週間後に統計学的に有意な低下を示し、うつ病の程度が改善しました。一方、対照群ではうつ病の程度はあまり改善しませんでした(図1)。

図1:介入群(緑:地中海食を摂取した群)のうつ病スコアはスタートラインから6,12週間後で減少し、中程度うつ病の目安である20点を下回りました。この改善の程度は対照群(地中海食を摂取せず通常のカウンセリングが行われた群)よりも明らかに大きかったことが示されました。

また、健康感や幸福度といった生活の質(QOL)の変化が調査され、介入群では睡眠の質を含む身体的な健康度と心理的な健康及び総合的なQOLが、介入群のスタートライン時に比較して6週間後および12週間後で統計学的に意味のある改善を示しました(図2)。

図2:介入群の生活の質(QOL)を様々な観点で示したスコアは、各項目のいずれもスタートラインから6,12週間後で全体的に改善しました。中でも、身体的健康感は地中海食を摂取しはじめてから12週後で75点以上の高水準となりました。また、スタートライン時でかなり悪かった精神的健康感は、地中海食を摂取しはじめて6, 12週目で大きく改善していました。

一方、対照群でもゆるやかな改善を認めましたが、介入群には及びませんでした(図3)

図3:対照群の生活の質(QOL)を様々な観点で示したスコアのうち、身体的健康感と精神的健康感に若干の改善がありましたが、その改善の程度は介入群(地中海食を摂取した群)に比較して統計学的に低値でした。

わずか12週間の地中海食の実践で、うつ病の重症度が改善し、健康感や幸福感が増すという結果は、かなり驚きのデータでした。
対象者数が72名というのは若干少なく感じるかもしれませんが、事前にきちんと研究の妥当性を検証するために必要な人数を計算した上で対象者数が定められていました。

食事がうつ病の症状をどのようなメカニズムで改善するのかははっきりしていないようです。
炎症、酸化ストレス、エピジェネティクス、腸内環境などの改善によるものが複合的に関与しているのではないかと本論文で述べられています。
いずれにしても、健全な食事は、健全な心身をつくるという事でしょう。

さいごに

今回の記事が貴方または貴方の大切な方の食生活の改善を通じたうつ病の症状改善に繋がることを切にお祈り申し上げます。


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