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印刷会社へ【LITTLE RINGO BOOK 制作ノート#4】

企画をつくり物語を練り、ある程度本の形が見えてきたらしなければならないのは予算計画。どれくらいの金額で本をつくり、販売するのかというところ。理想を全部詰め込むこともできるけれど、それではいくらあっても足りません。原価に対して、売値を決めることもできるけれど、その価格で果たして買ってもらえるのか。採算も見ながら、数字と睨めっこ。学生時代は圧倒的な文系、仕事を始めてからもなるべく数字に触れない役割と担ってきたところがありますが、ここは逃げずに向き合あってみたいと思います。きっと数字から見えてくるものがあるはず。

印刷会社、八紘美術さんへ

現段階の制作プランでどんな金額になるのか、まずは印刷会社の方に話を聞いてもらうことにしました。といっても、どこか繋がりのある印刷会社があるわけではありません。デザインを担当してくれるフクナガコウジさんに相談したところ、東京の八紘美術さんをご紹介いただきました。

八紘美術さんの名前は、本や雑誌の奥付けで何度も目にしたことがありました。(最近だと、ニューバランスのフリーペーパー『Not Far』や濱田英明さんの写真集『Distant Drums』、元Transit編集長の加藤直徳さんが手がける『NEUTERAL COLORS』など) チラシやポスター、絵本やカタログ、写真集にいたるまで多岐に渡り印刷物を手掛けられており、色の美しさにこだわるならば、ここがいいよとのことでした。絵本にとって大事な絵の部分を最大限に引き出すには、ここしかないなという感覚。とりあえず、八紘美術さんに電話し担当の方に繋げてもらえることに。いくつかのやり取りのあと、内容をお伝えするため会社のある東京・小川町に行ってきました。

印刷会社、八紘美術さんのエントランス

営業所だけでなく印刷所も併設している本社。老舗といった趣で、洒落ることも
なく無骨さのあるエントランス。建物前にはパレットなどが並び、印刷屋としての雰囲気を入り口から醸し出していました。

今回担当してくれるのは営業の原田愛さん。本題に入る前に、昨今の印刷業界のことのお話を少し。これまで多く手掛けていたアパレル等のカタログ制作はデジタル化の波に飲まれ下火になっているとか。それでも個人的に印刷物を作りたいと思っている方や紙にこだわっている方は多いようで、まさに僕もそのひとり。すでにお渡ししていた企画書をもとに各項目をチェック。イメージをもって伝えるために参考になりそうな本も持っていきました。

応接室、というイメージに合う部屋で初回打合せ

本の仕様を伝える中で、大きな肝となったのが本文を何ページにするのかということ。絵本は大体「32ページ、15の見開き」で作られていることが多いのですがこれには理由があります。つまり「印刷と製本」において理にかなったつくりになっているということなんです。

本は「16の倍数」でつくられる

紙を印刷する際にどうのような工程が行われているかご存知でしょうか。僕はまだ直接見たことはないのですが、大きな紙に同時に多くのページを印刷しています。紙には横に4ページ、縦に2ページ印刷することができます。両面あるので合計16ページの印刷物ができあがるということです。もちろん制作内容に合わせページを決めることもできますが、印刷時の特性を最大限活かすため(コスト削減のため)に16の倍数か半分の8の倍数でのつくりになっていくということ。これは絵本に限らず、本全体に共通する制作方法なんですね。なんとなくは僕自身も知っていたのですが、あらためて原田さんにこの工程について詳しく説明してもらいました。やっと納得!

もちろん枠にはめて本をつくることはしたくないけれど、下手に紙を残してしまうのももったいない。それを考えると、今回の『LITTEL RINGO BOOK』では物語が2つ入るので32ページ構成だと足りない。8ページ増やした40ページでも各ストーリが中途半端になってしまう。そこで思い切って48ページを本の見開き部分から使用することにしました。(表に見えるのは46ページ)

貼り合わせる2ページ分を引いて、46ページ

見開きとは、本の表紙を開いたページのこと。本によっては何も書かれていなかったり、絵が書かれていたりする場所です。本文の紙とは異なる紙を用いることも多く、本文へと続く「扉」を挟み込むこともあります。

贅沢な装丁を重視するのであれば、複数の紙を使用したり扉の紙を入れたりしたいところなのですが、この本はそうではないと僕の中ではっきりと描いてるところがあります。余計なものは削ぎ落とし、表紙を含め本を開いたところからすでに物語は始まっている、そんなつくりにできたらと思っていました。

表紙を開いたところからの48ページ。
印刷用紙3枚分。紙を余すことなく使用する形に決めました。表紙と貼り合わせる部分を引くと46ページ。これが絵と文字を入れていく場所となります。

さて問題は、これで見積もりがいくらになるのかというところ。金額はどの紙を選ぶのかによって大きく変わってきます。髪の厚みや色合い、触り心地の希望を原田さんに伝えたところ、候補としてあげてもらったのがこちらの2つの紙でした。

・モンテルキア 112kg
・サンシオン 145kg

使えるのならこの紙がいい!という理想的な紙もありましたが、明らかな予算オーバーが数字を見なくとも滲み出ていてのでここは現実的に。でも理想は捨てずに。
第一候補をサンシオン、第二候補をモンテルキアとして翌週に見積もりを出していただくことになりました。

見積もりから見えてくるもの

届いた見積もりを見て、早速計算開始。
絵やデザインの費用を加え1冊分の金額を確認。サンシオンの方が紙も厚いため価格は高く、予算ギリギリという金額感でした。最近紙の値段がどんどん上がっているとは聞いていましたが、思っていたよりも高め。ただこれは紙、印刷、製本など本自体に直接かかってくる費用です。パッケージ化し、買ってくれる人の手に渡るまでに他の費用もかかってきます。どこまでなら踏ん張れるか。本の質と予算。いい塩梅を見つけなくてはいけません。他の印刷会社の方々はどうやって採算を取っているのだろうと、あらためて本の分野で生きていくことの難しさを感じています。

仕事をするにあたって、見積もりを複数の会社から取るということもひとつありますが、過去の経験上僕はあまり好きではありません。もちろん話をした上で他の会社にお願いすることもあります。でも「きっといいものを作ってくれるはずだ」という相手への気持ちが最優先で、「価格が安いから」というは仕事を共有する上での理由にはならないと思っています。(そういう形で仕事の依頼を受けたくない、という思いもあるのです)

なので、省けるところは省く。いくつかプランしていたものを多少変更していくことで数字と向き合えるようにすることが、いまできること。完全な自由よりも、少しの不自由と制限があった方が新しいアイデアが浮かんでくる気がしています。

また、提案していただいた2つの紙だけでなく別の紙も自分で見に行ってみることにしました。紙の質感ひとつで本の印象が大きく変わりますからね。こちらは次の記事で書いていきたいと思います。

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