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「街の感受性を磨く」           やどかりハウス 街の人インタビューvol.2 うえだ子どもシネマクラブ  直井恵さん

やどかりハウスと同時期に上田映劇で始まった「うえだ子どもシネマクラブ」は学校に行きにくい・行かない子たちが居場所として映画館に通うことができるという街の「助かる場」のひとつです。そのスタッフでもある直井恵さんも、やどかりハウスの利用者との繋がりを深くしていたお一人です。街に助かる場ができていくための感受性を磨くような体験が語られました。

話し手:直井恵(うえだ子どもシネマクラブ)
聞き手:元島生

居場所を必要とする子たちとの出会い


 シネマクラブを始めたことで居場所を必要としている子や、家に居づらい子と実際に接するようになりました。そういう子たちは言葉で明確に困りごとを語るのではなく、なんとなく家に帰りたくなさそうにしていたりすして。大人としてみれば「家に帰した方がいいのかな」という考えが浮かぶんですが、結局ショッピングセンターで過ごしたり、街をうろついたりしていて。家に帰すのはあまりいいことではなさそうだと感じていました。そういう時に行ける場があるといいなと思いやどかりハウスを紹介していました。

街で支えることができれば


 やどかりハウスはを紹介していたのは、運営している人達をよく知っているし、大人同士の信頼関係があることが大きかったように思います。家に帰れなくて街をうろうろしていた中学生が家に電話をするために交番に行って電話を借りたら、30分聞き取りをされて疲弊していたことがありました。そういう時にふと頼れる大人が街にいればそんなことにはならないなという感覚があって、一度つながれば関係性はできるだろうし、街でそういう子を支えられるようになるといいなと思っていました。

街の人として関わることの大事さ


ただ、子ども達からはすぐに困りごとが語られるわけではなくて。家に帰りたくないという気持ちを語るまでに1年かかった子もいました。いわゆる「支援者」という立場の人にはなかなか意思表示をしない様子も感じていて、本人たちも支援者を求めているわけではないのが伝わってきていました。なので、できるだけ教育的にならないようにあくまでも「映画館の人」として関わるスタンスを大事にしていました。やどかりハウスも支援者というより街で一緒に見守ることができる大人同士のつながりというところがあって、意識的につないだり、やどかりの子たちを受け入れたりしていたと思います。

うえだ子どもシネマクラブの様子

街の人がケース会議を招集する


 今では街のいろんなところで関わりがあるMさんも、やどかりハウスに繋がってからこちらに来るようになった子です。彼女の相談は主に恋愛相談でした(笑) でも多くの若者が恋愛に悩んでいることも分かって。性の問題も含めてとても重要な問題なのにちゃんと相談したり話したりする場がないことも分かりました。そうした相談に乗る中で関わりも濃くなってきて、生活の様子も見えてきました。
 特に彼女の食生活が気になってきました。どうもちゃんと食べたりできていない様子があって。食糧の寄付があったときに家に運ぶのを手伝ったら、調理用具が家に何もなくて。それで一緒に買いにいったんです。また、徐々に利用者同士のトラブルなども増えてきていて、自分がどのようなスタンスで関わるべきか難しく思うようになりました。
 そこでやどかりハウススタッフさんに相談して、関わっている支援者(市役所、障害福祉、医者、民間支援者)に集まってもらいケース会議をさせてもらいました。

街を豊かにしてくれる存在


 ケース会議をやってみて、どういう時にどういう人に頼ればいいかが整理できました。自分たちが映画館のスタッフとしてどのように関わればいいかも見えてきたと思います。そうした中で映画とご飯会をセットで行う企画も誕生し、今も続いています。Mさんはじめ子ども達がいたからこそ生まれた企画だと思います。またケース会議をやってみて、役所の人の立場性や、普段は街で出会う友人として付き合っている人がどのような仕事をしているのかも実際に感じられて、ケアの仕事も身近に感じるようになったし、どのようにケアされていくのかイメージも付きやすくなりました。Mさんのことを通じて自分も社会を学んでいるような気がします。

困り事を抱えた人が活躍する街に


 やどかりのスタッフも積極的にやどかり利用者の子たちを紹介してくれて、ある高校生の子が持ち込んだ上映企画が動き出しそうだし、とても独創的な絵を描く子が映劇で個展をやったりと、困りごとを抱えてつながった子たちが活躍するようにもなってきていて、映画館や街全体がじわじわと豊かになってきているのを感じます。Mさんも文章がとてもよくて。のきしたjournalにも載せてもらったし、re.seitouにも彼女の文章を掲載しました。
 困り事を抱えてやどかりハウスや、シネマクラブに繋がってきた人達の活躍の場もこれからどんどん増えていくといいと思うし、そういう人達がむしろ社会を豊かにしてくれると思います。これからもとても楽しみです。


上田の街に雨風しのぐ場を作る活動”のきした”に纏わる人の言葉を集めたのきしたjournalの表紙2023年2月創刊上田を中心にお店などで手に取れる
Mさんも寄稿した記事
1911年に平塚らいてうが発刊したフェミニズム文芸誌「青鞜」の現代版として2023年1月1日に発刊したZINE「re-seitou」女性たちの生の声が綴られており話題を呼んだ
re.seitouにはMさんも寄稿した

聞き手所感  「街の感受性を磨く」

NPO法人場作りネット 元島生

 直井さんは職業としての「支援者」ではない。街の映画館の人である。映画館が子どもたちの居場所となるためには、関わる大人がどのようなスタンスで居るべきなのかが重要だと経験的に知る中で「支援者」や「大人」としての構えになってしまうことを注意していた。子どもたちはそういう立場性を着ている人なのかどうかに敏感であり、それでも本当に困っていることを話してくれるまでに1年を要したりしている。
 そうやって自らのスタンスを発見する経過の中で、必要にかられ官民合同の「ケース会議」を招集している。ケース会議というのは行政や病院や施設など「支援対象者」がいる現場で「支援者」と呼ばれる人が主体となり行われることが通例である。今回は街の人が主体となり呼びかけが行われており、支援者や行政に「来てもらう」という構図であった。それはその人が生活している場に関わる街の人が支援者や行政というシステムを活用するという構図であり、望ましい形のように感じた。社会システムは大きくなってしまい一人一人のニーズに添うことが難しく、弱い立場にある人を排除してしまうことが起こっており、人が繋がって助かり合うための機会さえも奪ってしまう構造になっている。
 図らずも直井さんが招集したケース会議は、そうした社会システムによる排除を防止し、本人をケアする体制を街に整える役割を果たしていた。それは方向性として「困った人がいるから何とかしてくれ」という苦情めいた排除を含意した方向性ではなく「この人がより良く過ごせるために協力していこう」というスタンスでの招集であったことも大きいのではないかと感じた。そうした場で出る意見や役割分担はとても豊かなものとなる。またその経験を経て直井さん自身がこの社会の中でどのように人々を包摂できるかというイメージを体験的に手に入れ、街の人間として自分たちに出来ることが何かという感受性を磨いている印象がある。
 困り事を抱えた人が持っている「課題」というのは、その人固有の問題でありながらも、私たちが暮らす社会の課題そのものである。街の中に居場所や困り事を表出できる場を開くことで、私たち自身が社会を豊かにしていくことが出来るのだということの道筋の一つを、直井さんの聞き取りから観ることが出来た。誰にでも開かれた場を持つ街は、きっと豊かになる。


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