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Creepy Nutsファンがマッシュルを履修したうえで語る「Bling-Bang-Bang-Born」の魅力

Creepy Nutsが1月7日にリリースした新曲「Bling-Bang-Bang-Born」、国内外で大ヒットしています!

この曲の魅力を語りたくて、まずはアニメ「マッシュル-MASHLE-」を履修しました。「Bling-Bang-Bang-Born」はアニメ「マッシュル-MASHLE-」の2期OPなのですが、歌詞の意味を深く知るためには物語を知っておきたいな、と思ったのです!最新話まで追いかけて改めて……これはすごい曲だ、とうなりました。本記事では、そのすごさについて歌詞を中心に紹介していきたいと思います。

「生身」というキーワードで交差するマッシュとCreepy Nutsのカッコよさ

まず「Bling-Bang-Bang-Born」の歌詞で複数回登場する印象的な「生身(なまみ)」という言葉。これは「マッシュル-MASHLE-」の魅力を端的に表すのに実に適した言葉だと思います。

「マッシュル-MASHLE-」は、魔法をつかえるのが当たり前の世界で魔法をつかえないという圧倒的ハンデを抱えた主人公が、そのハンデを筋力で埋めていくというお話です。主人公のマッシュ・バーンデッドは、敵を倒すときにいつも「ぼこぼこにしてやりますよ、グーパンで」と宣言するので、まさに「生身」はその象徴と言えますね。

そしてこの「生身」は、Creepy Nutsの生き様にも通じています。多くのミュージシャンが自身をブランディングするためのファッションに身を包んだり、ファンを獲得するための戦略に精を出したりするなかで、俺らはラップ一本で勝負しているんだ、という覚悟をこの「生身」という表現に込めているのだと私は感じました。

ここで曲を変えて、過去にリリースされた「耳無し芳一Style」を改めて聞き直してみると、サビに下記のような歌詞があります。

俺にはタトゥーいらない
重てぇブリンブリンも無い
のに誰よりも目立ってしまう
この耳無し芳一Style

Creepy Nuts「耳無し芳一Stlye」より

もともとCreepy Nutsは「ラップの実力がすごすぎて、飾りっけなくても目立っちゃうぜ」というカッコよさを、「ブリンブリン(※輝く装飾品の意、ラッパーの象徴とされる)」や「タトゥー」が要らないという歌詞を通じて綴っています。この「ブリンブリン」や「タトゥー」は「Bling-Bang-Bang-Born」の2番にも登場します。

このベロがBling-Bling
バレットなら満タン
関西訛り生身のコトダマ
(中略)
圧倒的チカラこの頭と口から
この身体tatooは入って無い
このツラに傷もついて無い
繰り返しやらかしてくダメージが
イカつい年輪を刻む皺

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」より

音楽界におけるルックスやイカした発言のような“魔法”に頼ることなく、頭と口(=リリック)だけで戦ってラップバトルを制覇してきたR-指定と、卓越したDJスキルでDMC DJ WORLD CHAMPIONSHIPSのトップに輝いた世界一のDJ、松永。そんな二人が手を組み、新しい日本語ラップの”カッコよさ”を確立してきたCreepy Nuts。

その姿は、魔法なんかに頼らず鍛え続けてきた筋肉で圧倒的な力を見せつけ、魔法やカッコつけた言葉で飾り立てた強敵をなぎ倒していくマッシュに重なるんですよね。まったく異なる世界に生きる二組だけれど、戦い方と強さが似ている。そんな両者をつなぐキーワードが「生身」なんです。

「パッと見出来ない事ばっかりだけどVery Happy」という肯定に救われる不器用な私たち

さて、「マッシュル-MASHLE-」の主人公マッシュは、ここまで説明してきたように本当にカッコいいのですが、カッコいい一方でできないこともいっぱいあるんです。というか、生活のほとんどがトラブル続き。

ドアを開けようとすれば押戸か引き戸か忘れてドアごと壊すし、周囲の人の常識がわかっていないからよく他人を怒らせてしまうし、そもそも魔法がつかえないので、魔法がつかえることが前提の世界においては基本「ポンコツ」なんです。

これもCreepy Nutsとの共通点だと思いました。今でこそヒットソングを世に送り出し続けるCreepy Nutsですが、デビュー当時やインディーズ時代の曲の歌詞を振り返ってみると、かなりコンプレックスにまみれていた時代があることがわかります。

こちら たりないふたり
俺 時間 守らない
松永 デリカシーが無い
高卒と中卒
偏屈で窮屈で低俗で軽率な
ポンコツとポンコツ

Creepy Nuts「たりないふたり」より

学歴が良くないとか、友だちがいないとか、居場所がないとか、他人の目が気になるとか、社会が求める時間管理力やコミュニケーション力がないとか……この曲以外にも、Creepy Nutsの初期の曲には痛々しいほど「俺らはポンコツ」という自認がにじみでています。

でもCreepy Nutsは互いにとって最高のバディを見つけて、努力を重ねることで一躍トップシーンへとのぼりつめました。これまでの多彩なコラボレーションやラジオでの活躍っぷりを見ている限り、きっと仕事仲間にも恵まれたのだと想像できます。これはマッシュも一緒で、どんなにポンコツでも彼を戦友やフィアンセ(笑)と認めてくれる仲間と学校で出会えるし、何より家族に愛されています。

俺、パッと見出来ない事ばっかりだけどVery Happy
あ、キレてる…呆れてる周り
恵まれてる家族友だち(happy)

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」より

この「Happy」って、不器用に生きる人間にとっては比較的希望が持てる「Happy」だと私は感じます。何かができるから、能力が高いから「Happy」ではなくて、どんなに失敗を重ねて呆れられても、周りに恵まれているから「Happy」。

もちろん、その「Happy」を手に入れるためには周囲に対して誠実であること、何か芯が通っていることなどいくつかの条件はあると思いますが、社会が求める規範になかなか迎合できない人間は、この「Happy」に救われるほか生きる道はないんじゃないかなあ、と私は思います。誰かひとりでも自分のポンコツさを理解してくれる人がいれば、きっと叶うはずの「Happy」だから。

私がCreepy Nutsに沼った最大の理由を挙げると、「不器用な人間にやさしい歌詞が多いこと」なんです。いくつか大好きな歌詞を紹介しますね。

お前に手を引かれて出向いた土曜日の溜まり場
同じ周波数のムジナ
もれなく社会不適合者
だけどお前は決して誰も責めない
お前は決して何も聞かない
御節介な陽の光と違い
俺を正さない

Creepy Nuts「よふかしのうた」より

この歌詞、眠れない夜を過ごしたことのある“社会不適合者”当事者たちの胸にはガッツリ刺さるのではないでしょうか。あらゆる「正」からはじかれた者の視点から描いた夜を魅力的に切り取った歌詞だと私は感じます。ここで描かれた“お前”の対象は”夜”なのですが、聞き手はCreepy Nutsが社会不適合者である自分を肯定してくれている、と感じながらこの曲を愛でるんです。

俺はキャンパス かなり薄汚れた
だけどワンチャンス まだ余白はあるさ
(中略)
お前は未だに広がり続ける銀河
孫の代までずっとフレッシュマン
粗探しが得意なお国柄
シカトでかまそうぜ金輪際

Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」より

こちらの歌詞は「老い」や「失敗」に対する肯定ですね。いろんな経験を重ねてしまって、もう後戻りできない人生を「まだ余白はあるさ」と希望に変えて、周囲の声なんて「シカト」していこうぜ、と鼓舞してくれるスタンス。私はおばあちゃんになってもこの曲を繰り返し聴いては、きっと勇気をもらい続けるんだろうと確信しました。

さて。このように、ポンコツを受け入れた先にあるものを描けるCreepy Nutsが手掛けたからこそ、「マッシュル-MASHLE-」の解釈が「Bling-Bang-Bang-Born」という曲に結実したのだと思います。

「マッシュル-MASHLE-」で描かれる世界は偏見と差別にまみれていて、強き者が優遇され、弱き者はどこまでも搾取される構造になっています。そんな世界で生まれて「魔法がつかえない」という社会不適合者の烙印を押されるマッシュだけれど、彼は理不尽な構造に屈することなく、ほがらかに幸せを感じながら、自分の幸せを守るために戦います。

それは、少なからずこの日本のさまざまなレッテルやルールに左右されながらポンコツ扱いされてきた当事者であるCreepy Nutsの二人が、この理不尽な社会に折れずラップを追求してきた姿に重なるんじゃないか、と私は思っています。

「Bling-Bang-Bang-Born」はCreepy Nutsの魅力の全要素が凝縮されている超贅沢な一曲

ここまで歌詞の良さについて熱く語ってきましたが、曲全体をみわたしても「Bling-Bang-Bang-Born」はCreepy Nutsの魅力を凝縮させて絞りだしたような特徴があります。

まずR-指定さんの魅力は挙げ出したらキリがないのですが、要約すると下記のようなポイントがあると思います。

  • ラップが上手い(=どんなスピードでも聞き取りやすくてリズムが多彩)

  • 声の使い方が上手い(=言葉や音に合わせてさまざまな声色が出せる)

  • 歌が上手い(=ラップ以外のサビなどで音程をはずさない)

  • リリックがすごい(意味が何重にもかかってる、韻が心地いい)

これまでの曲を振り返ると、ラップの上手さを聴かせることに全振りした曲と、歌の上手さを引き出すことに特化した曲に大きく分類することができるのですが、「Bling-Bang-Bang-Born」ってどっちの要素も入ってるんです。それに、なまめかしい声から太い声まで使い分けてくれているし、リリックも意味がかかっていることを楽しませるフレーズと、感覚的にノレるフレーズが交互に出てくる。まじでR-指定さん全部盛りと言いたい一曲です。これまでCreepy Nutsを聴いたことのない人に推すとしたらこの曲だな、と。

そしてDJ松永さんの魅力。初期から現在に至るまで、DJ松永さんはありとあらゆるジャンルの音楽を混ぜたり、新しい楽器の音を取り入れたりして「新しい音」にチャレンジし続けています。そのなかで一貫しているのが「変(耳に違和感が残る)」なのに「キャッチー(耳が心地よく記憶する)」という相反した二面性を持っていること。これこそDJ松永さんのトラックの最高なところで、これまでのCreepy Nutsの曲をヒットさせてきた基盤だと私は思います。そして、そんなDJ松永さんの音の魅力を最大限に感じられるのが「Bling-Bang-Bang-Born」のトラックです。ブンブンのベースをぶち込む冒頭からサルサ・ジャズを早回ししたようなループ。木琴っぽい音や玩具が発するような奇妙な音で魔法の世界を香り立たせつつ、そこにノリノリのリズムを合わせてくるところが本当に……すごいとしか言いようがない。「こんな音聞いたことがありません、参りました」とひれ伏したい。

そして、アニメのOPを飾る曲であることに付随したグッとくるポイントもあります。「Bling-Bang-Bang-Born」の歌詞をぜんぶ読んでみると、1番はアニメ「マッシュル-MASHLE-」の世界観にフィットした歌詞に、そして2番はCreepy Nutsの生き様を描く歌詞になっているんです。アニメで流れるのは1番だけなのでそこはアニメに寄せつつ、全体を聴けばCreepy Nutsに対する興味がわいたりファンが喜んだりできる、という仕掛けなんです。「マッシュル-MASHLE-」ファンとCreepy Nutsファン、双方に対する配慮を感じてしびれました。

そもそも、こんな終盤にきて今さらタイトルに触れますけど、「Bling-Bang-Bang-Born」てすごいキャッチーですよね。魔法の呪文のような響きがあるし、歌詞を読みこめばその意味がわかるし、なんてったって「ば行(Bの子音)」は言語を超えてノレるし気持ちイイんですよ。そういえばディズニー映画『シンデレラ』に出てくる「Bibbidi-Bobbidi-Boo(ビビディ・バビディ・ブー)」も、この「ば行」の連なりを活かした呪文&楽曲ですよね。

シンデレラは「ビビディ・バビディ・ブー」と呪文をかけてもらうことで、お姫様に変身させてもらって王子様とのわずかなひとときを過ごす。一方、「ブリン・バン・バン・ボン」と呪文を唱えた私たちは「俺のままで居るだけで超Flex(キマッてる)」という精神を手に入れて、この腐った社会でも生きのびる。

もしかしてCreepy Nutsは令和版のグローバルスタンダードとなるであろう呪文を創りあげたのかしら……と妄想がふくらみます。

そんなあらゆる素晴らしい要素が凝縮されている「Bling-Bang-Bang-Born」は今、日本語を知らないあらゆる国の人たちにも広がって聴かれています。もちろんアニメ「マッシュル-MASHLE-」や、そのOPに登場するキャッチーなダンスが波及効果を加速させていることは間違いありません。でも、それ以上にこの二人が紡ぎ出す魅力はグローバルで通用する世界中の人たちを躍らせちゃうということが証明されたようで、Creepy Nutsを推してきた身としては、もうたまらなく嬉しいのです。

ふう……熱く語っちゃった……。これを読んで気になった方は、ぜひCreepy Nutsの音楽に触れてみてください。今回のnoteで触れた曲をプレイリストにまとめました。そしてアニメが好きな方は、ぜひ「マッシュル-MASHLE-」も観てみてください!

ちなみに宿木、Creepy Nutsのライブが札幌で開催されるときはできるかぎり参戦しております!「Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024」もチケットが取れたら行くので、書けたらまたライブレポ書きたいな…!ちなみに下記は2年前のワンマンツアーのレポートなのですが、最後を「Creepy Nutsの魅力よ、世界にとどろけ」と締めていました。その願い、まじで2年後に叶うよ!(笑)


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