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「孤の家」人物紹介&小ネタ集

はじめに声を大にして言います。これは宣伝noteです!

先週、創作大賞2023に「孤の家」という小説をエントリしました。なにぶん重たいし読者を選ぶ小説をエントリしてしまったので、あまり大々的には勧めづらい……ということで、今回はそこに登場する人物一人ひとりの紹介と小ネタを1本のnoteにまとめます

すでに読んでくださった方も、まだ読んでない方も、「宿木が人間を描く目線」や「作品の背景にあるネタ」を楽しんでくださると嬉しいです。あと……「孤の家」にスキをいただけると!嬉しいです!(今回ばかりは全力でお願いしていく)


人物紹介

人の名を覚えられない女、佐藤茜

今回の作品の主人公である佐藤茜は、とにかく人の顔と名前を覚えられません。町内会のおばあさん、同窓会の元クラスメイト、街中で声をかけてきた若者。とりあえずどこでも「あれ?こいつ誰だっけ?」と焦っています。

いろいろと人生の中で思い悩むことが多い彼女ですが、そのすべての根幹にある問題は人間への興味のなさなんですよね。ぜんぜん人の話聞いてない。めちゃくちゃ気を遣ってるくせに介入はできない。彼女は自分で誰かの心に入っていくことができない。それこそ彼女が嫌った母親にそっくりなんです。

人間に興味のない人間は、どうしても人間と長期的な関係性を築きづらいんです。これは年を重ねれば重ねるほど、痛手になってくる。茜は最後まで自分が「人の名前を覚えられない」という欠陥を自覚することはありませんが、物語が進むうちに、少しずつ人間の心には触れようと頑張るようになっていきます。そのプロセスを見守ってくださると嬉しいです。

「愛してる」を言わない男、工藤誠

誠は終始“よくできた男”としてのふるまいが目立つ男ですね。でもそれには理由があって、彼の行動指針の根にあるのが「もう二度と後悔したくない」という想いだからなんです。それってオーガニックな善なのか、あるいは弱さなのか。彼が「後悔したくない」という呪いにかかっているのは、今までの人生の中でたくさん裏切られてきたからなんです。それを踏まえて、彼のふるまいを見ていただけると。

彼には、作中で一度も「愛してる」とは言わせませんでした。「愛してる」なんて重たい言葉、彼は言えないんです。自分がその言葉の重みを背負う覚悟が、まだないから。でも、彼はすごく優しいひとです。常に周囲を見渡して、相手を慮る言動や行動を選べる男です。

令和の聖母ギャル、錦戸マリア

今までいただいた感想のなかで、一番人気の人物がマリアちゃんです。私もマリアちゃんが大好きです。作品を書くあいだしたためていたメモを振り返ると、マリアちゃんの最初のアイデアには「アヴェ・マリアをBGMに背負っても似合うギャル」と書かれていました。

彼女こそオーガニックな愛にあふれた存在で、この作中ではめちゃくちゃ異色な存在。無自覚に覚悟を決めて、誰かをこころから愛することができちゃう女の子です。だからこそ、茜をあたたかな世界に引き込んで、一生の友となるんですね。でも、そんなマリアちゃんですら、曇りなき幸せにはたどりつくことができません。それが世知辛さの表現につながればいいし、茜を含め読者の方々もマリアちゃんの幸せを願ってくれればうれしいと思って書きました。

不遇の悪魔、高本蓮

蓮くんは、誠と正反対の男として描きたかった。何一つ責任を持たないから、茜に「愛してる」ばかり言うし、簡単に「結婚しよう」と誓えてしまう。でも彼の感情や行動には、なにひとつ嘘はないんです。それは作中で伝えたかったポイントです。

彼が何の責任も持たないからこそ発揮できる“自由”という麻薬は、茜には強すぎました。茜は出会ったとき気付きませんが、彼は家族、家庭、規律、愛といったものから最も程遠い、あまりにも魅力的な悪魔です。でも彼がそうなってしまった理由は、家族を知らないし、家庭を知らないからなんですね。ただ知っているのは、そのいずれも永遠ではなく“裏切る”という事実なんです。だから彼は、裏切らないことが愛だと信じて生きてきたんでしょう。

ちなみに裏切られてきたことに変わりはないけど、誠は「だから二度と後悔しないように」と自分を改め、蓮くんは「自分は一生離れない」と誓うわけです。どっちの愛も、間違ってるけど尊いですよね。

でも蓮くんにとって、茜は妻というより、それこそ母に近かったのかもしれません。そこらへんのニュアンス、もっと書きたかったな。

自由に疑問を抱かない女、香織

北海道に帰ってきた茜にとって身近な友人となる香織。今回の作品の中では、本音をバシバシ言う自由奔放な姿だけしか描けなかったのですが、ほんとうはアナザーストーリーで、香織の視点で描く高校時代のお話がありまして。香織も香織で、「彼氏一瞬、ダチ一生」を信じてたのに裏切られた過去がある人間なんです。茜と違って家族というテーマについて悩んだことがないからこそ、なぜ自分が思い描くものが手に入らないのか、わかりづらいんでしょうね。

一生“友人A”のポジションなのか、澤口くん

澤口くん、一瞬しか出てこないのですが、彼ってめちゃくちゃいいヤツなんです。でも、いいヤツどまりで人生うまくいかなかったというか、自分は選ばれないというコンプレックスを強く持っています。ちなみに高校時代から香織のことが好きです。「目立つ」という意味で、クラスの中心にいた香織のことも、秀才だった茜のことも、そして一人の女を愛しているカッコよさがあった誠のことも、強く意識していました。そんな澤口くん、はたして幸せになれるんでしょうか。なってほしいですね!!

小ネタ集

小ネタ①音楽のお話

第二章「ドールハウスのピアニスト」には、ピアノの発表会のシーンがあります。ここでマリアと茜が弾く曲、その後連弾で弾く曲は、明確にイメージがありました。マリアが弾く曲はドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」、茜が弾く曲はベートーヴェンの「熱情」第3楽章です。そして連弾は、サティの「ジュ・トゥ・ヴ(あなたがほしい)」です。興味があったらぜひこの小ネタの最後にあるプレイリストの冒頭3曲を聴いてみてください。

あと、第四章「新築の音色」のドライブシーンは、椎名林檎さんと宇多田ヒカルさんの「二時間だけのバカンス」をリピートしながら書きました。私の親友である大口君は、小説を読んですぐこの曲が原題であることをあててきまして、さすがだな……と思いました(笑)。

全体のメインテーマは椎名林檎さんの「人生は夢だらけ」とピノキオピーさんの「ノンブレス・オブリージュ」。この2曲はまじで執筆中リピートし続けていました。そのほかにも、このシーンにはこの曲、っていうのがあるので、プレイリスト作りました。もし興味があったら、ぜひ聞いてみてください。

小ネタ②アナザーストーリーについて

「これってスピンオフないの!?」「もっと蓮の話を読みたかった」など、個別に感想をくださった方がいたのでここで明かすと、下記は最初あったけど、公開にあたってばっさり切ったエピソードです。

1:「彼の青(かのあお)」
香織視点で描いた高校時代の話。サリナちゃんと誠の話、澤口くん、茜が客観視点から見てどんな女だったかなどが描かれます。

2:「怪の愛(けのあい)」
蓮くんの視点で描いた、蓮と茜のずぶずぶの時期のお話です。性描写が多すぎたのでごっそり抜きましたが、これがあったほうがより良かっただろうなあ……というのはめっちゃ自分でも思います。

3:「苦の魚(くのうお)」
誠の過去の話です。サリナちゃん、元パートナーさん、それぞれ「二度と後悔しないように」と繰り返し思いながら、それでも女性に離れられてしまう誠。本気で向き合ってもうまくいかない男の葛藤を通じて、女の身勝手さや性(さが)を描こうとしていました。

4:「木の老い(きのおい)」
登場人物たちのその後を追ったエピローグ的なお話。これは最終的に第4章「新築の音色」にマージされていきましたが、本当はひとつのお話として独立してもっと細かに描いていました。

最終的に「孤の家」というひとつの作品にしたのですが、最初はこんな感じで分裂した短編小説を通じて群像劇みたいにしようと思っていました。収集つかなくなったのと、テーマがぼやけるのと、長くなって締切に間に合わないのとでごっそり抜きました……。

小ネタ③影響を受けた書籍

自分が作品を書く時はあんまり他のものをインプットしないようにしているのですが、今回特に意識したのは、下記の3冊です。大好きだから紹介程度の気持ちで。

・夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田そのこ著)
良すぎますよね!!??(愛の爆発)こちらも連作短編集で、一貫して「魚」「水槽」といったモチーフを登場させつつ、登場人物の背景を丁寧に追っている構成が大好きです。こんな物語が書きてえ……と喘ぎながら、再読しました。

・1ミリの後悔もない、はずがない(一木けい著)
とにかく一木さんの描く恋愛が好きすぎるんじゃ……。あとせりふですね。せりふ一言とっても、その人物の人柄がにじみ出てくるんですよ。すごい。それと、何かしらの物語が終わった“あと”の余韻の残し方がめちゃくちゃグッときます。この余韻はどうすれば出るんだ?と思いながら、再読しました。

・泣く大人(江國香織著)
これは小説ではなくエッセイ集なのですが、言葉の鮮明さやリズム、文章の流れ方がものすごく好きで、今回に限らず自分がエッセイを書くときなんかもたびたび読み返しています。何を描いて何を想像させるか、の切り分けがめっちゃ好き。

小ネタ④執筆中に影響を受けてしまった作品

影響を受けて“しまった”というのは、偶発的に見てめっちゃ内容に影響を与えた、という意味です。

一つは、アニメ「推しの子」です。ネタバレがない程度に触れると、一話めで描かれる母子の愛の表現と、その感動の渦がすげえんですね。メモノートを振り返ると、「推しの子」の影響を受けすぎて、「母親は子にとって永遠のアイドル(偶像)」とか、「演じてたら本物の愛になる」とか殴り書きしてました。

もう一つはPrimeオリジナルの「ラブ・トランジット」です。いわゆる恋愛リアリティショーというやつで、5組の元カレ・元カノがホカンス(※オシャなホテルで半共同生活)をしつつ、復縁か新しい恋愛かで揺れる、という内容なのですが、これがめっちゃ良かったんですよ……。新しい恋にいこうとするから、過去を振り返るし、過去があるから新しい恋愛の良さに気付くんですよね。その円環が見事に描かれていて、結局は離れられないとかも含めて、最高でした。今回の作品は恋愛に軸足を置いていないのでアレですが、大人になってくると重ねてきた恋愛によって恋愛観が変わっていくので、そこらへんのリアリティや切なさについては、本番組からめちゃくちゃいいエッセンスをもらいました。


以上、人物紹介&小ネタ集でした!
これを先に読んで「ほう、どういう作品なんだ」って気になった方は、ぜひ「孤の家」も読んでみてください……!あと、もう読んでくださった方……もしよかったら……「スキ(右下の❤)」をいただけると嬉しいです!!

読者応援期間の24日ぎりぎりまで宣伝をがんばろうとおもい、本noteを急ぎ書き下ろしました。まだ間に合います、ぜひ読んで応援していただけると幸いです……!


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