見出し画像

伊岡瞬「水脈」(徳間文庫)

伊岡瞬「水脈」(徳間書店)。電子書籍はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTK5GVYG/
 小学校の夏休み研究で、神田川を散策中の母娘が、排水口から人間の脚が突き出しているのを発見。杉並区の和泉署に合同捜査本部が立ち、高円寺北署の宮下真人巡査部長は本庁一課の真壁修巡査部長とペアで遊軍部隊として参加することになった。しかも雲の上の人である高橋宏一郎審議官の姪である、小牧未歩の大学院卒論研究の付き添いという役割であった。最初の被害者はコンビニでバイトしていた男子大学生だった。そして捜査が進むに連れて、第二、第三の死体が神田川の同じ地域で発見され、事件は連続殺人の様相を帯びる。
 この作品が不気味なのは、地下水路の「暗渠」を通って、どの被害者の遺体も神田川に到達していること。水路と違って「暗渠」は必ずしも所在が公的に明らかになっていないものもある、都市の隠された迷宮だ。頭脳明晰かつ容姿端麗な小牧未歩の活躍で、事件の発生現場に真壁と宮下は迫ってゆく。そして事件の解明の過程で、真壁と宮下は、自分たちが説明された状況に、幾つも嘘があることに気がつき始める。捜査本部そのものに、何かの事情で隠していることがいくつもある。身内の事情で視界を遮られていたら、真犯人を追うこともできはしない。そして一億総中流だった日本においても、貧富の差が極端にクッキリしてきた今。特殊詐欺や半グレが跳梁跋扈する、危険極まりない世の中になってしまった。エンディングで明かされる警察界の闇は、社会の無秩序化に警察組織がついてゆけない事態を示している。真壁は著者のヒット作である「痣」「悪寒」にも登場していた、型破りながら苦労肌の刑事。そこを温厚な宮下が中和しながら、タッグを組む。お互いの良さを補い合う掛け合いが、読んでいて心地よい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?