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木村銀治郎「大相撲と鉄道」(交通新聞社)

木村銀治郎「大相撲と鉄道」(交通新聞社)。鉄道マニアの行司が「相撲列車」について書いた本。電子書籍版はこちら↓
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鉄道❌行司というユニークな組み合わせの本。しかもテーマが「相撲列車」という角界内部にいる人でしか見知り聞けない世界のお話。筆者は行司の中でも「輸送係」という、日本相撲協会内で旅行代理店的機能を果たしている。なおかつ木村銀次郎氏は鉄道マニアであるからして、鉄道サイドから見た「相撲列車」の位置付けも見える、双方向な視点を併せ持つ本である。この他、国技館が建った際のJR両国駅との関係、魁皇の名を冠した特急「かいおう」の誕生、東京駅設計者の辰野金吾の相撲好き、九州の大行司駅の存在など相撲にまつわる鉄道四方山話もたっぷり盛り込まれている。
 「相撲列車」とは地方巡業の移動の際に力士たちが乗る列車を指す。地方巡業は、春夏秋冬にあり、年に90〜100日。その移動の多くの場合は車両で、列車を団体貸し切りすることとなる。例えばJR東海を例に取ると「団体旅客等取扱細則」第3章に登録されている「特殊団体」に「相撲協会団体」として明記されている。ここで重要なことは、やはり体格の大きな力士たちが一つの列車に乗り合わせること。貸切の「相撲列車」は自由が効くが、必ずしもいつも貸切とは限らない。貸切でない場合は、どんなに巨漢でも(運賃を余分に払っても)1座席1人の規則。従って「輸送係」は社内旅行の幹事よろしく、力士体格の大中小を組み合わせて座席割りする。親方は理事であるか否か、力士は番付で乗り込む列車がグリーン車か普通車か分かれる。関取には付け人がいるので、その存在も考慮してしなければならない。加えて個々の力士から「富士山の見える席で」「進行方向の逆の席はダメ」「左側に傾いて寝たい」など注文も多い。長時間乗るので、いびきの大合唱、お酒を飲み続ける者、床に裸で座り込む者、麻雀卓を囲む者など行動も様々。もちろん大量の駅弁購入(1人2個支給)など食糧の調達も欠かせない。その光景を想像するだけでワクワクする世界。しばらくコロナ禍で走っていなかった相撲列車も、いよいよ名古屋場所で復活が近い。

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