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鳴神響一「警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件」(徳間文庫)

鳴神響一「警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 全国都道府県警の問題点を探る警察庁長官官房審議官直属の「地方特別調査官」である朝倉真冬。まだ若いのに警視である。旅行系ルポライターと称して全国を調査する真冬。自らを自重気味に「ノマド調査官」と呼ぶ。警察小説に新たな世界を切り拓いた「マドン旅のミステリー」第4弾。
 「波の花」とは、シャボン玉のように、軽く風に舞い上げられる物体。それは海の中の植物性プランクトンの粘液が、海水と交じり合って波で撹拌されて岩に叩きつけられることによって発生した泡。そんな波の花が舞う能登半島の鴨ヶ浦で、女子大生が殺害された。しかし遅々として捜査は進まず。そんな中で「上層部の意向で証拠の破棄が行われた」との密書が警察庁刑事局に届いた。上官である明智の指示で現地に向かった真冬。そこは警察官であった真冬の父が殉職した因縁の故郷でもあった。
 僕は真冬が好きだ。可愛い系美人でありながら、旅をしては現地のイケメンに、いつも寅さんみたいに振られている。いつもこんなにうまくいくわけないとは思うけれど、いつも現地のハートブレイクした刑事の義侠心を察知して鷲掴みにする。それは恐ろしく勘がいいからだ。だけどそれだけではない。九谷焼の陶芸家である祖母の気品が滲み出ているはずだ。そして何より幼い頃に父母を喪った悲しみが、挫折した刑事たちの悲しみに共鳴しているからだ。だから悲憤している人に接すると耳が痛くなる。今回は「女はつらいよ」式の悲喜劇は発生しない。そのかわり真冬自身の、真冬を取り囲む人々の秘密が明かされる。長く秘められていた思い。真冬には彼氏はいなくても、数多くの心の父がいたのだ。これだけネタバレしてしまって、第5作が続くのか不安だが、いつか真冬の父が殉職した事件を解決して欲しい。


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