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鍋倉夫「路傍のフジイ②」

鍋倉夫「路傍のフジイ②」(小学館)。同作品第9話〜第17話。電子書籍版はこちら↓
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 スターになった俳優の同級生。将来に迷っていた彼の背中を押したのは、意外にも藤井だった。台風の日に、翌日のフリマの準備。しかし暴風雨で壊れた看板を徹夜で修理。自ら労を厭わない藤井に、チームの心は一つになる。アイデア💡が湧かずに煩悶する喫茶店の漫画家。隣に座った藤井は、ノマドに全く関心がない。彼にモンブランを分けてもらった漫画家は、自らに備わった漫画家として最も大切な資質を指摘される。そして明かされる大学時代の藤井の男女交際の記憶。恋愛と好意って、どう違うのだろう? 詩人を志しながら、虚飾的な仕事の虚しさに溜息を吐くコピーライター。車に同乗した藤井に、夕焼けの美しさを指摘されて浮かんだ詩想。職場の麗人・石川女史を落とそうと狙う外山。華美な食事に誘うが、藤井に心酔している彼女の心を動かすことはできない。藤井の幼少期、それは今と全く変わらない。無口、単独行動、無愛想。しかし父親は彼の本質を見抜いていた。死期の迫った父親を見舞う藤井。
 黙して語らず、自分の信ずる道を行く。しかし決して肩に力が入っているわけでもない。誰かに認められたいからでもなく、女性にモテようともせず、上司や周囲に媚びることもない。心のままに動くことが、自然に誰かを助けていることが彼の素。見方に私心や偏りがないので、相手の心情をさりげなく言い当てる。そこには決して嘘はない。そのことで人生の行く道を決めた人が少なからずいる。藤井の真の誠実さを知った同僚や近隣の人々は、友人を超えた家族のように彼に寄り添っている。宮沢賢治ではないが「こういう人に私はなりたい」ではないが、なかなかそうはならないものである。第一作では、主人公の現在の姿が描かれた。この第二作では、藤井の幼少期や大学時代の回顧も含まれる。そこには理解され辛い藤井の人生と、周囲の人が彼をどう受け止めてきたかが描かれる。必ずしも全てがハッピーエンドではない。しかし彼の与えたインプレッションは、関わった人それぞれにとって優しい記憶であった。

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