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テキーラを飲みほして(9)



「どうしたの、メグミ。店は閉店してるけど。何か用かな」
と、そっけなく言った
メグミの目に涙が滲んでいる。

「どうしたの、メグミ。何かあったの?」

「ヨウちゃんごめんね。私・・・・」
と、瞳をうるます。
「私、ヨウちゃんの事、今でも好きよ。
私ね、父親から強制されていたの、
あの人と付き合う事を、でも嫌なの、もう耐えられないの・・・」
と、言っている。
だが、酔った僕の頭にはその言葉が入ってこなかった。

メグミに振られた事だけを思い浮かべていた。

「そんな事、今さら言われても仕方ないよ。
もう君は僕の中から消えた人だ」
と、心にも無い事をカッコ良く言ってしまった。
酒に酔う事は本心と全く違う自分を演出するのかも知れない。
「そうよ、大岸君は私と付き合っているのよ」
と、サチコは僕の腕を抱える様に掴む。
ほのかにあたるサチコの乳房を感じながら、「僕を振るからこんな事になるんだ」
と、またもや本心では無い事を言ってしまった。

「大岸君って何?」
怪訝な表情を浮かべながらもメグミは、
「ヨウちゃんは、・・・・」
と、後の言葉を言わずに外に出て行く。

僕は追いかける事も無く見送ってしまう。
後悔の念が湧き起こる。

僕はサチコの腕を振り解き
席に座った。

「まだまだ、若いの〜」
と、爺さんの声。
寝言か?
本心の声か解らなかった。

僕の目に涙が溢れてきた。





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