見出し画像

テキーラを飲みほして(3)



「お爺さん、大丈夫ですか?」
時刻は午後の9時を過ぎた頃だ。

「大丈夫な訳無いよ。痛いよ。ケツ打ったみたいだ」
と、言う老人は見た目で70歳は過ぎている。
頭も禿げているし、足元もおぼつかない。
服装もみすぼらしい。
僕は心配になってお爺さんをおんぶして、
店に運んだ。
「この店はチョットマズいんだ・・・」
と、小声で言っているが、僕はその言葉を無視して中に入った。

「どうしたのこの人?怪我でもしたの・・・・。
お父さんじゃない。今まで何処に行っていたの・・・・・。
本当に心配していたんだよ」
と、ママの驚きの声が店内を響かせた。
幸いな事にお客さんはまだ来ない。

「すまん、すまん。ちょっと・・・な・・・」

「全く風来坊なんだから、もう・(´∀`)」
と、怒って言っているのだが、
言葉に愛情を感じる。
僕は老人を下ろし老人に椅子を薦めた。
サチコはカウンターの中に入って、酒の瓶をタオルで拭きこちらをみている。

その時である、入り口のドアが静かに開いた。
振り向くと、むかし知った娘と男。

驚きを隠せ無い僕。
「いっらしゃいませ」
の、声が少しかすれていた。
「何だ、おまえ此処で働いているのか?」
と、馴れ馴れしく話掛けてくるのは、
僕の元会社の同僚。
同僚と言っても社長の息子。
大学からの知り合い。

「そうだよ。ここで働いているんだ。」
と、言いながら僕はカウンターの内側に入って行く。
彼女を見ることも無く。

二人の男女はカウンターの席に座る。
「ママ、テキーラを一杯ちょうだい。」
と、男は言い
「こちらの女性には、カクテルをお願いしますよ」
と、にやけ顔で言う。
「解りました。テキーラとカクテルですね。
何のカクテルになさいますか?」
と、聞くママの嬉しそうな顔を見ると
常連のお得意様のみたいだ。
「ママに任せます。女性の飲み易いカクテルでお願いしますよ。」
と、意味深な言葉だ。
…コイツ、メグミを酔わせて・・・
何をするつもりだ!……
と、言葉に出さないが、怒りが込み上げてきた。
でも虚しいだけ。
メグミに振られた僕には何も言う資格は無い。

気がつくと老人がメグミの横に嬉しそうに座っている。
この爺さん、好色家か?

「アスカ、わしにも一杯くれ。
そのテキーラって言う酒を」
と、後で聞いたのだが、
爺さんはテキーラの酒を知らないのに
知ったかぶりで頼んだとの事であった。

だんだんと、お客さんが増えていく中、
僕はメグミの事が気がかりであった。
メグミとの視線が重なり合う。
二人の会話も聞こえてくるのだが、
メグミは嬉しそうに話してはいない。
僕と話す時とは全く違う感じだ。
それだけ男に気を使っているのか!?
不思議な気持ちで聞いていた。

1時間ぐらい居たのだろうか?
メグミと男は二人仲良く店を去って行く。

今日も無事に終わった。
店の片付けをして、家路に向かうのだが、酔いつぶれた老人が一人。
「ママさん、どうしますか?
お父さん。」
サチコが聞いている。

「仕方ないから、2階に運びましょう。
お父さん、お酒弱いのに無理して、テキーラなんて飲むからよ。
本当に馬鹿なのよ。
大岸君、手伝って。サチコさんは、
2階の部屋で布団を引いてくれる。」

何とか、二階で老人を寝かせつけた。

サチコが僕の顔を嬉しそうに見ている。
「何だよ、僕の顔に何か付いているのか?」
と、不機嫌そうに言った。

「別に何も付いて無いよ、あの娘、大岸君の元彼女でしょう。」
と、鋭い質問を投げかけて来る。
女の勘って怖い。普段は天然ボケで
頭の回転は遅いのに、何故こんな時だけ鋭いのか?

「・・違うよ。」とそっけなく言った。

「今頃二人ホテルのベッドの上ね」
と、ロマンチックな声で言う。

僕は、昨夜観たAVを思い浮かべて、直ぐに消去した。
「そんな事ないよ」
と、打ち消す言葉が虚しかった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?