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花のない花見で出会った素敵な女性の話

🌸この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です🌸
#クロサキナオの '2024 Spring Festa!

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皆さん、こんにちは!
今日は素敵な企画が行われてたので、参加させていただきました!
(詳しくは上を見てね)
こういうの、ありそうでなかったかも。
目の付け所が、「さすがだなー」と思いました。

それでは、本文。

花の咲いてない花見で出会った素敵な女性の話
今年はいつにも増して、天候がよくわからない。
2月に23℃超えてみたり、まもなく4月と言うのに雪が積もってみたり。

私の住んでる町は、「一目千本桜」で有名な土地で、毎年花見の時期には全国から花見客が訪れ、「桜まつり」なんていうのも開催される。

町を流れる川の、堤防の両岸に植えられた桜の花が満開に咲く様子は、恒例となった地元の人間でもココロオドル気持ちになるのだが、そこは自然のものなので、人間の思惑通りには咲いてくれない。

今年もその例に漏れず、4月に入ると観光バスで訪れる花見ツアーの方々が、花のない花見のために訪れているのを見かけた。

地元主催の「桜まつり」の開催期間中なのだから、当然、花も咲いているのだろう、と思っていると、「一目千本」どころか、「千目0本」の憂き目に遭うことになる。

4月4日の木曜日、まつり会場のメインとなる橋を渡っていると、河川敷の駐車場に一台の観光バスが止まっているのが見えた。ちなみに、桜の木には花は一輪もなく、1000台駐車可能、と豪語する河川敷に止まっているのはそのバス一台だけだった。

中から、ぞろぞろと降りてくるのは、おじいさんおばあさん。
どこかの敬老会のイベントでお花見ツアーに来たのだろうか?

平日な上に客がいないので、たくさん並んだ露店もどこも営業しておらず、車窓からの眺めで大方は察していたものの、バスを降りて「どこかに咲いてないか?」とキョロキョロ見回す老人たち。

「あー」というように天を仰ぐ方、そんなところに花見に来た自分がおかしいのか、クスクス笑う方、そんなことは気にもかけず、車内から続くおしゃべりに夢中な方々・・・。

私は気の毒に思いながらも、そのシュールな光景がいかにも人間の滑稽さを現している気がして、口元がほころぶのを抑えられなかった。

そんな中、私は一番最後にバスから降りてきた一人のご夫人に目を奪われた。
降りてすぐからフリルの付いた小さな日傘を開き、優雅な所作で他の方々とは逆の方向に一人で進むその方は、他の方々と一線を画した服装で、上下真っ白なスーツに同じ色のハイヒール、長いストレートの髪の毛を、風に任せて波打たせていた。

一瞬見えた横顔は、確かに相応の年齢のようにも見えたが、後ろ姿だけを見たら、間違いなく若い女性だと誤認するほど姿勢が良く、スッキリとしたスタイルで、動きもしなやかだった。

私は、その方にどうしても声を掛けたい衝動に駆られ、一人で川を見つめるその女性に、失礼だとは重々承知の上で、声を掛けてみた。

「桜の花、咲いていなくて残念でしたね。」
女性は、ゆっくりと振り向くと、真っ赤な口紅に縁どられた艶やかな唇を動かして、こう答えた。
「ほんとに。皆さんには気の毒だけど、私は桜が目当てじゃないのよ。」
眠る前のひと時に聞きたくなるような、素敵なアルトの声だった。

どこか、話を聞いて欲しいと思わせるような返答に気を良くした私は、続けて、
「ここは桜以外は何もないようなところですけど、他にどんなお目当てが?」
と聞いてみた。

彼女は、自嘲気味に薄く笑うと、対岸にある一つの建物を指差した。
そこは、いわゆる老人ホームで、入居するには「目玉の飛び出るような」金額が必要だ、とウワサになっていた場所だった。
彼女が見ていたのは、川ではなくてその建物だったのだ。

「あそこにね、私の好きな人がいるの。でも、私は日陰者だから、こうやって遠くから眺めることしかできなくてね。」
寂しそうな表情で、ホッと一息ため息を付くと、続けて、

「毎年この時期になら、ここに私がいても向こう様は何も言えないでしょ?だから、年に一回、こうやって思い切りオシャレをしてやってくるの。もしかしたら、もうあそこにいないかも知れないのに。ほんと、滑稽よね。」
そういうと、口元に空いている手をあてて、くすっと笑った。

そこまで聞いて、私は彼女の事情を察した。
「向こう様」と言うのは、おそらく好きな相手の奥様なのだろう。

「今日はこんな格好だけど、普段はお弁当屋さんで働いてるのよ、わたし。一人になって20年近く経つのに、未だに忘れられなくてね。意地になってるのかも知れないわね。」

「でも、それも今年で終わり。来年の今頃には、この世とオサラバしてるはずだから。それなのに、桜の花は咲いてくれなかったわね・・・。」

その横顔を、私は「美しい」と思った。
覚悟を決めた、凛とした表情だった。

私は、彼女に「少し待ってて」と告げ、走って近くのコンビニに行くと、数種の酒とおつまみ、レジャーシートを買って彼女の元に戻る。
彼女のために、ささやかな花見の宴を催すつもりだった。

「勝手なお願いですけど、私とお花見しましょう!花はなくても、話に花を咲かせればいいじゃないですか!」

目を丸くして驚く彼女をそのままに、サッとレジャーシートを広げ、彼女をそこに座らせると、缶ビールを三本開けた。
彼女と私、そして彼女の「想い人」の分だ。

彼女が、「何に乾杯するのか?」と聞いてきたので、私は一言、「今日の出会いに」と告げて、二人で缶を合わせた。

ポツリポツリと、思い出話をする彼女が語るのに任せ、私は聞き役に徹して相槌を打ったり、肯定のうなずきを返したりしていた。

彼女と彼女の想い人との出会い、恋に落ちるまでのトキメキ、めくるめく恋の炎の饗宴、そして別れ。
本当に赤裸々に語ってくれた。
どんなに恋焦がれても、現実との間で叶わない想いを抱えた心の葛藤、「相手様」から蒙った仕打ち、過ちを犯したという自責の念と、それでもなお諦めきれない強い想い。

一通り語り終わった彼女が、私に問い掛けてくる。
「こんな人生でも、私は幸せだったと思うのだけれど、あなたにはどう映るのかしら?」

私は一瞬、言葉に詰まった。
すぐに気の利いたセリフは浮かんで来なかった。
「うーん・・・。正直、わかりません。」

はにかみながらそう答えるのが精一杯のところだった。
結局のところ、他人の幸せなど、他人にわかるわけもないのだ。
ちょっと突き放した言い方だったかな、と、少し後悔したが、取り繕うような返事は、逆に彼女に失礼だと思った。

彼女は大きく頷くと、
「そう、それでいいのよ。人の幸せなんて、所詮はそんなものなの。若いうちは大きな理想を追い掛けることも大切だけど、それだけで足元が疎かになっては、元も子もないわ。」

そういって、残ったビールをいかにも美味しそうに喉に流し込むと、こう続けた。

「でも、頭ではわかっていても心は違うよのね・・・。人生って、ままならないわね。」
そう言って、彼女は微笑んだ。

その時、バスの方から「あと10分で出発します」とのアナウンスが聞こえた。予定の時間よりは早いようだが、ここにいてもすることもない、ということらしかった。

「そろそろお別れのようね。最初は驚いたけど、とっても楽しかった!ほんとに。ごちそうさま。」

「こちらこそ、突然に失礼しました。お邪魔でなければ良かったんですけど・・・。」

「お邪魔だなんて、とんでもないわ!こうして自分の話を聞いてもらえるだけで、とても嬉しいものよ? ありがとう。」

「それなら、良かったです。じゃあ、最後に・・・。」

私はそう言うと、スマホを取り出し、自撮りの要領で彼女に近付くと、こちらの意図を察した彼女が体を並べて、顔を位置を合わせた。
「はい、チーズ!」

撮り終えると、彼女はスーツのポケットからスマホを取り出す。
その間に、私はアプリを起動して、今撮り終えた写真に加工をした。
彼女の受け取り準備が完了すると、私は写真を送信する。

送られてきた写真を見て、彼女は声を出して笑った。
一枚目の写真は、そのままのもの。
二枚目は、プリクラ風に「盛った」もの。

そして、三枚目。
あの建物を背景に入れ、花のない桜の木に、大量のピンクのハートで桜の花びらをあしらったもの。

三枚目に、私は写っていない。
トビキリのオシャレをした彼女が、桜の溢れる河川敷とあの建物をバックに満面の笑みで微笑みかけている写真だ。

「・・・ありがとう。とても、素敵。」
彼女は、それ以上は言葉にできないようだったが、瞳がすべてを物語っているようだった。

私も何も語らず、目顔でうなづくと、右手を差し出して握手をした。
日ごろは水仕事も多いのだろう、表面はガサガサだったが、とても温かく、柔らかく、そして力強さを感じる手だった。

握った手をそのままに、彼女はバスの方へと歩いていく。
私は、その場に留まったので、彼女が数歩もいかないうちに、二人の手は離れたが、彼女は歩みを止めず、こちらを振り返らずにバスへと戻っていった。

その後ろ姿には、なにか新たな決意が宿っているような気がした。

やがて、バスは彼女を乗せて河川敷から土手へと昇り、道路の向こうに消えていった。

あとには、彼女が身にまとっていた「シャネルの5番」の華やかな香りと別れの余韻が漂っているばかりだった。

桜に花はなかったが、私の心に、小さな花が咲いたような気がした。

#クロサキナオの '2024 Spring Festa!



 


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