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『羊をめぐる冒険』 世界の村上春樹にどっぷり

【読書日記】 経済学者 安田洋祐 ②

 本など全く読まず、すっかり遊び呆(ほう)けていた暗黒の中高時代。サッカー部で根性だけは鍛えられたおかげか、ラストスパートでなんとか志望大学に合格。文化的な生活に内心憧れていたサッカー少年は、大学デビューならぬ読書デビューを誓うのだった。

 ところが困ったことに何から読み始めればよいか皆目見当が付かない。大学生にもなって親にオススメ本を訊(たず)ねるのも気恥ずか しい。右も左も分からないまま本の森を彷徨(さまよ)っていると き、導かれるように出会った作家。それが村上春樹だった。

 正直、読み始めたばかりの頃は、彼の作品の良さがさっぱり分からなかった。最初に手に取ったベストセラー『ノルウェイの森』(講談社文庫)は陰気くさいし、まわりの友人達が絶賛していたデビュー作『風の歌を聴け』 (同)も波長が合わない。そんな僕が、村上春樹にどっぷりハマるきっかけとなったのが『羊をめぐる冒険』(同)。その不思議な世界観と心地よいスピード感に、完全にノックアウトされた。読書によって「ありふれた日常への感じ方が変わる」という、鮮烈な体験だっ た。

 以来、すっかり村上ファンに。留学先の米プリンストン大の卒業式で、名誉博士号を授与されたご本人とニアミス。そんな縁もあり、彼の新作(とノーベル文学賞受賞の吉報)を心待ちにしている。

日本経済新聞(2014年8月13日・夕刊)より


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