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『ほねがらみ』の一部内容と自作「べらの社」との類似について

 自分にとって、大切なお知らせです。

※簡潔に内容だけ知りたい方は、以下のTwitterのツリーをお読みください。

 何度かこのnoteでも書かせていただきましたが、自分は2012年に小説家としてデビューしたもののデビュー作が売れず、なかなか次の本が出せない時期がありました。
 その数年間は漫画原作の仕事をしながら、長編や短編のミステリー、ホラー作品を編集者の方に読んでいただいたり、賞に応募したりと、再デビューのために小説を書き続けていました。
 この時期に書いた作品は、「今は出せるあてはないけれど、いつか必ず形にしよう」と思いを込めて書いた大切な作品です。
 そうして書いた作品を集めたミステリー短編集『夫の骨』が多くの方に届き、昨年、表題作「夫の骨」は第73回日本推理作家協会賞短編部門を受賞しました。このことで小説家として名前を知っていただけて、ミステリーやホラーなどの小説のご依頼をいただけるようになりました。

 ミステリーもホラーも、書くことはもちろん読むことが好きなので、色々な作品を読ませていただいています。そして先月の中旬に、Twitterでタイトルを知ったことがきっかけで、幻冬舎から出版されている『ほねがらみ』という長編ホラー小説を読みました。
 自分も三津田信三先生の作品や実話怪談が大好きなので、とても楽しく読み進めました。
 ですが作品の中に登場する「かの土地」というエピソードを読んで、これまで感じたことのない苦しさを覚えました。
 1000字程度の短いエピソードの中に、自分が再デビューを懸けて2013年に第8回「幽」文学賞に応募したホラー短編「べらの社」との類似点がいくつも見つかったからです。

「べらの社」は最終選考には残ったものの、残念ながら受賞には至りませんでした。ですが選考委員だった京極夏彦先生や岩井志麻子先生といった憧れの先生方に講評をいただけた、とても思い入れのある作品です。
 いつか世に出したいと思い続けてきて、現在、ホラー小説の依頼をいくつかの出版社からいただけたこともあって、そう遠くなく実現できるのではないかと期待していました。

 本が出せなかった時期に書き上げた作品の一部はKindleで個人出版しているのですが、「べらの社」は『或る集落の●(まる)』というホラー短編集に収録されています。

 こちらのnoteでも2019年から無料公開しており、2016年から2018年には『ほねがらみ』が発表された「カクヨム」で公開していたこともありました。

 自分が確認した「かの土地」と「べらの社」との表現上の類似点は以下のとおりです。

・娘が山の中の獣道を登ったところにある社に毎日お参りをする
・「あそこにはもう近づかないから」と泣きながら謝るばかりで話ができなかった(「べらの社」)/「もう行きませぬ」と泣くばかりで話にならない(『ほねがらみ』)
・「姉っちゃはべら様に取らいでまったのさ」「こうなったら、離してもらえるまで待づしかねえんだ」(「べらの社」)/娘は■■■に娶られてしまったので、返してもらうのを待つよりほかない(『ほねがらみ』)
・社にいた娘の様子がおかしくなり、家を指さして人の死を予言する
・「あの家のわらしは、膨れて死ぬぞ」「お前は、縊(くび)って死ぬぞ」(「べらの社」)/「あの家の童(わらし)はくびれて死ぬ」(『ほねがらみ』)
・娘が嫁に出されるという結末

「あの家のわらしは…」のセリフについてですが、子供を「わらし」と呼ぶのは東北の方言です。「べらの社」は青森県の集落が舞台なのですが、『ほねがらみ』は愛媛県の集落のお話でしたので、「わらし」とわざわざルビが振られていることが気になりました。

 そして最後まで作品を読んだところ、本筋の種明かしの部分でも「べらの社」と類似しているのではと感じられる点があり、ショックを受けました。

「べらの社」では地元の郷土史家の男が「青森には▲▲の宗教文化が伝わっている」と語る場面があります。郷土史家は「《べら》は▲▲語の《□□》が訛ったもの」「《□□》は●●の名前で、あの社は●●を祀っていた」と社の正体を明かします。
『ほねがらみ』では民俗学者の斎藤氏が「なかし」は▲▲語で《◯》を表す《◯◯》であると分析し、また橘家は●●を信仰していたと結論づけます。
(※未読の方のために一部を伏せ字としますが「▲▲」と「●●」にはそれぞれ全く同じ単語が入ります)
 この真相についてのアイデアは青森県のある村に▲▲語の歌が伝わっている、などの実際に語られている説から得ており、青森県出身の自分には馴染みのあるものでした。

「べらの社」は下敷きにしたお話などはない、自分が創作した物語です。
 これらの類似点がすべて偶然似てしまったとは考えにくく、自分は所属しているエージェント会社を通じて幻冬舎の『ほねがらみ』の担当編集者の方に、このようなことが起きた経緯を説明していただきたいとお願いしました。
 やり取りをさせていただいた結果、作者の方は以前「べらの社」を読んだことがあり、《気づかないうちに影響を受けていたようです》というお返事をいただきました。
 しかし『ほねがらみ』は作者さんご自身のアイデアを元に書かれた作品であり、種明かし部分も確かに似てしまっているけれど、「べらの社」ではない他の書籍を参考にご自分で思いつかれたものであるとのことでした。
 その上で「似てしまった」ことについて、謝罪してくださりました。

 お忙しい中、このような不躾な問い合わせに対応していただき、担当編集者の方と作者の方には感謝しています。

 ですが『ほねがらみ』はホラー小説として高く評価され、多くの方に読まれている作品です。
 対して自分の「べらの社」は、これから形にして世に出したいと願っている作品で、具体的に出版の企画が進んでいるわけではありません。
 この二つの作品の中のいくつかの表現が「似てしまった」経緯について、早い段階で説明させていただかなければ「べらの社」を世に出すことが叶わなくなるのではないかと、この一か月半、ずっと追い詰められた思いで過ごしてきました。
 このような経験は初めてのことでしたが、言葉にできない苦しさでした。

 こちらの記事を読んで、嫌な思いをされる方もいるかもしれません。
 ですが自分にとっては大切で、必要なことなので書かせていただきました。

 この件について、個人出版した作品であるにも関わらず相談に乗ってくださり、励ましてくださった編集者の皆さま。ご心配いただいた親しい方々。自分のために力を尽くしてくださったエージェント会社の皆さまに心から感謝いたします。
 本当にありがとうございました。
 面白い、良い作品を書くことで恩返しできたらと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


                               矢樹 純

※追記
『ほねがらみ』の電子書籍版が一部修正されたと幻冬舎から発表がありましたが、この修正は矢樹が要望したものではありません。

自分がお願いしたのは作品の一部内容が類似していることについて、幻冬舎または作者の方から事実を公表し、説明いただきたいということのみでした。
「著者本人の意向により」としか表記がないことを、残念に思います。


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